カキノキ
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品種
一般に実が渋い「渋柿」と、実が甘い「甘柿」に大別され、さらに渋の多寡、種子の有無、渋の抜け方でさらに完全甘柿と不完全甘柿、不完全渋柿と完全渋柿に分けられる[48]。甘柿よりも渋柿の方が原種に近く、病虫害に強い[5]。また、甘柿であっても接ぎ木の台木に渋柿を使う[5]。現在栽培されている品種の多くは18世紀中期にはすでにあったといわれ[12]、地方品種を含めると1,000を超える[48]。品種により果実の大きさも大小あり、形状も角張っているもの、丸いもの、長いもの、平たいものなど多様である[11]。
食用の栽培品種のほとんどが 2n = 90 の6倍体であるが、一部の種なし品種(平核無(ひらたねなし)や宮崎無核(みやざきたねなし))は 2n = 135 の9倍体である。播種から結実までの期間は長く、諺では「桃栗三年、柿八年」[49] とも言われるが、接ぎ木の技術を併用すると実際は4年程度で結実する。品種改良に際して甘渋は重要な要素で甘柿同士を交配しても渋柿となる場合もあり、品種選抜の効率化の観点から播種後1年で甘渋を判定する方法が考案されている[50][51]。
甘柿
甘柿は渋柿の突然変異種と考えられている。1214年に現在の神奈川県川崎市麻生区にある王禅寺で偶然発見された禅寺丸が、日本初の甘柿と位置づけられている。なお、中国の羅田県周囲にも羅田甜柿という甘柿が生育しており、京都大学の調査によると、日本産甘柿の形質発現は劣性遺伝であるのに対し、羅田甜柿は優性遺伝で、タンニンの制御方法も全く異なっていると分かった。
日本の突然変異種が知られているが、アフリカのジャッカルベリーも甘く、食用や飲用への利用、薬用、皮加工のタンニングに利用される[52]。
完全甘柿
渋が元々少ない品種で樹になった状態で成熟とともに渋が抜けていくものを完全甘柿という[48]。完全甘柿の代表的な品種は、富有と次郎、御所。富有は岐阜県瑞穂市居倉が発祥で原木がある。次郎は静岡県森町に住んでいた松本次郎吉に由来する。御所は奈良県御所市が発祥で、突然変異で生まれた最も古い完全甘柿である。
- 富有(ふゆう) - 岐阜県原産の甘柿で、明治35年に命名された品種。やや扁平な丸い形で、果肉はやわらかく瑞々しい。[12]
- 次郎(じろう) - 静岡県原産の完全甘柿で、扁平で尻は平らな形をしている。10月下旬から11月中旬に成熟する。[53]
- 太秋(たいしゅう) - 平成6年に育成された完全甘柿で、果実は約400グラムもあって大きい。糖度16 - 18度と高いため甘く、果汁が多くて瑞々しい。[53]
- 愛秋豊
- 御所(ごしょ) - 奈良県御所市原産の甘柿。扁平でやや方型をしている。かつては盛んに栽培されたが、富有などに取って代わられ、現代では希少な品種となっている。
- 伊豆
- 早秋
- 貴秋
- 晩御所
- 花御所
- 天神御所
不完全甘柿
種子が多く入ると渋が抜けるものを不完全甘柿という[48]。不完全甘柿の代表的な品種は、上記の禅寺丸や愛知県が発祥の筆柿などがある。太秋は1995年に品種登録された中生種で熊本県が中心となって栽培しており、全国で急速に人気を高めている。
- 禅寺丸(ぜんじまる) - 川崎市麻生区原産の柿で、甘柿としては日本最古の品種とされる。熟すと果肉に黒い班が入ると甘柿になる。
- 筆柿(ふでがき) - 愛知県原産の早生種で、9月下旬から10月上旬に出回る。筆先のように縦長の形をしている。[53]
- 西村早生
渋柿
渋柿は、実が熟しても果肉が固いうちは渋が残る柿である。代表的な品種は、平核無と刀根早生である。平核無は新潟県が発祥である。刀根早生は奈良県天理市の刀根淑民の農園で栽培されていた平核無から1959年に枝変わりとして見出され、1980年に品種登録された。
不完全渋柿
種子が入っても渋が一部に残るものを不完全渋柿という[48]。
- 平核無(ひらたねなし) - 新潟県原産の不完全渋柿で、新潟では「おけさ柿」、山形では「庄内柿」「八珍」ともよばれる。果実は種なしで扁平の形をしており、果肉はなめらか。[53]
- 紀ノ川柿(きのかわがき) - 品種名ではなく、平核無柿を樹上で実をつけたままアルコール入りビニールを被せて渋抜きした柿。果肉は渋みのタンニンが固形化した黒い斑があり、甘みが強い。[53]
- 刀根(とね) - 平核無(ひらたねなし)柿の変種の早生柿で、果肉はやわらかめ。出回り期は9 - 10月ごろで、ハウス栽培もおこなわれており、早いものは夏から出回る。[53]
- 甲州百目(こうしゅうひゃくめ) - 尻すぼみ型の渋柿で約300グラムと大きい。あんぽ柿の材料として知られる。[53]
- 蜂屋
- 堂上蜂屋柿(どうじょうはちやがき) - 岐阜県美濃加茂市蜂屋町が原産の渋柿で、大ぶりな干し柿にする品種。堂上とは朝廷への昇殿を許された格をもつという意味で、平安時代から天皇や歴代将軍へ献上された歴史がある。
- 富士
- 江戸柿(えどがき) - 「代白柿」ともよばれる京都産の渋柿で、京都中央卸売市場にのみ流通する。アルコールで渋抜きして、とろとろに甘い完熟柿になる。[53]
- 会津身知らず
- ロホ・ブリジャンテ (Rojo Brillante) - スペインで栽培されている縦長の品種。
完全渋柿
種子が入っても渋が抜けないものを完全渋柿という[48]。ただし、完全渋柿も熟柿になれば渋は抜ける[48]。
- 西条柿(さいじょうがき)[54] - 広島県原産の渋柿で、近畿以西に多く見られる。果実は側面に4本のへこみが現れる独特な形をしている。[53]
- 市田柿(いちだがき) - 長野県高森町の市田地域で栽培されてことから名付けられた在来渋柿で、長野県産干し柿を代表する品種。
- 愛宕(あたご) - 愛媛県原産の晩生品種で、長形の大型の果実は皮の色が黄色に近い。渋抜きに日数がかかり、11月下旬から12月上旬に出回る。[53]
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