オオムギ オオムギの概要

オオムギ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/06/30 03:20 UTC 版)

オオムギ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
階級なし : ツユクサ類 Commelinids
: イネ目 Poales
: イネ科 Poaceae
: オオムギ属 Hordeum
: オオムギ H. vulgare
学名
Hordeum vulgare L.
和名
オオムギ(大麦)
英名
Barley
Pearl barley
オオムギ(pearled, cooked)
100 gあたりの栄養価
エネルギー 531 kJ (127 kcal)
26.31 g
糖類 trace g
食物繊維 1.98 g
0.6 g
2.70 g
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。
出典: USDA栄養データベース(英語)
二条オオムギと六条オオムギ
オオムギとカラスムギ、およびそれらを原材料とする食品

名称

「オオムギ」は漢名の「大麦(だいばく)」を訓読みしたものである。「大」は、小麦(コムギ)に対する穀粒や草姿の大小ではなく、大=本物・品質の良いもの・用途の範囲の広いもの、小=代用品・品格の劣るものという意味の接辞によるものである。大豆(ダイズ)、小豆(アズキ、ショウズ)、大麻(タイマ)の大・小も同様である。伝来当時の漢字圏では、比較的容易に殻・フスマ層(種皮胚芽など)を除去し粒のままとして食べることができたオオムギを上質と考えたことを反映している。

また、オオムギをはじめ、コムギエンバクライムギハトムギなど、姿の類似した一連の穀物を、東アジアでは総称してムギと呼ぶ。こうした総称はヨーロッパには存在せず、barley(大麦)、wheat(小麦)、oat(燕麦)、rye(ライ麦)のようにそれぞれの固有名で呼ぶのみである。

品種

穂の形状の違いから、主に二条オオムギ(二条大麦、H. vulgare f. distichon: two-rowed barley))、四条オオムギ(四条大麦、H. vulgare subsp. vulgare: barley)、六条オオムギ(六条大麦、H. vulgare f. hexastichon: six-rowed barley)、ハダカムギ(裸オオムギ、裸麦、Hordeum vulgare var. nudum Hook. f.: Hulless barley, naked barley)、野生オオムギ(H. vulgare subsp. spontaneum: wild barley)に分かれる(但し、四条オオムギ、野生オオムギについては品種ではなく亜種)。この「条」というのは穂が何列(条)あるかということではない。オオムギの穂は基本的にすべて6列である。二条と六条の差は、実る穂が何列あるかの違いであり、読んで字のごとく2列実るのが二条オオムギ、6列すべてが実るのが六条オオムギである[1]。実るのが2列だけであるぶん、二条オオムギの種子は大きく、大粒オオムギとも呼ばれる。これに対し六条オオムギはすべての列に種子が実るため種子が小さく、小粒オオムギとも呼ばれる。ただしすべての列に種子が実るため、全体の収量としては六条オオムギのほうが多い。

二条オオムギは主にビール生産用に栽培され、ヨーロッパで栽培されるオオムギの多くは二条種である。これは、二条種は種子の一粒一粒が大きく、しかも大きさがよくそろっているので、醸造の管理がしやすいからである。それに対し六条オオムギは収量が多く、オオムギを穀物として食べる地域においては六条種を主に栽培する。二条種と六条種の進化については、長い議論の歴史がある。かつては六条種は二条種から分化してできたと考えられてきたが、チベット高原において野生の六条種が発見されたため、一時は二条種と六条種は別々に栽培化されたとの説が有力となった。その後、遺伝子情報の解析によって、現在では二条栽培種の変異によって六条種が成立したと考えられている[2]。二条種はチベットより東には到達せず、このため中国や日本など東アジアの在来のオオムギはすべて六条種である。これら諸国における二条種のオオムギは、近代になってヨーロッパなどから導入されたものである。

二条種と六条種は皮が実と糊状のもので固着しており、はがすのが難しい。この固着はオオムギだけの特質であり、コムギなどのほかのムギでも、コメなどほかの穀物においてもこういったことはない。皮をはがすのが難しいため、これらは皮麦(カワムギ)とも呼ばれる。それに対し、六条種の突然変異で糊状のものが存在しないものが生まれ、揉むだけで皮が簡単にはがれる品種が生まれた。これがハダカムギである。ハダカムギは食用にするのがより簡単であるため、チベットや日本といったオオムギを重要視する国々において多く栽培されるようになった。その後、六条ハダカムギと二条種の交雑により二条ハダカムギも生まれたが、二条ハダカムギは品種が非常に少なく、一般的にハダカムギといえば生産のほとんどを占める六条ハダカムギを指す[3]

また、上記の品種はすべてうるち性であるが、日本を含む東アジアにはもち性のオオムギも存在する[4]。もち麦は日本ではもち米の代替として西日本中心に栽培され、団子などがこれで作られた[5]

特に日本で生産されるのは二条オオムギ、六条オオムギ、ハダカムギが多い。二条オオムギは明治時代以後にヨーロッパより導入され、ビールなどの醸造用の需要が多くビールムギとも呼ばれる。これに対し、六条オオムギとハダカムギは古来より日本で栽培されてきた品種である。六条オオムギは押し麦や引き割り麦などにして米に混ぜるなど雑穀としての使用が多く、また麦茶の原料ともなる。ハダカムギも同様に使用することはできるが、味噌の製造に使用されることが多い。栽培は、寒さに強い六条オオムギが東日本で主に栽培され、寒さに弱い二条オオムギやハダカムギは西日本で主に栽培される。日本の農産物分類においては、麦類にハトムギエンバク、ライムギといったものは含まず、日本での生産量の多いコムギ、二条オオムギ、六条オオムギ、ハダカムギをあわせて4麦という[6]

栽培

大麦は、本来は、後述のように季に比較的降水量が多い地域を原産とする作物であり、に発芽して冬を越し、に大きく生長し、初夏に結実して枯れる、いわゆる冬草の一種にあたる。そのため、種を秋に蒔き、苗の状態で冬越しさせ、春に出穂(開花)・結実させて初夏に収穫する(秋蒔き)。しかし、春に積算温度の足りない寒冷地向けの品種として、発芽に低温を必要とせず、種を春にまいて、盛夏に収穫可能な春蒔き品種が開発され、日本では、北海道で主に栽培されている[7]。世界的には、ロシアやカナダといった北方の寒冷な地域では春蒔きが中心となっている。この2国はオオムギの大生産国であるため、世界的なオオムギ生産量としては春蒔き品種のほうが多くなっている[8]。これに対して本州以南、特に関東から九州にかけての地方では、夏草の性質を持つ裏作として秋蒔き品種の栽培が拡大した。この場合、稲の収穫が終わった秋に播種し、田植え前の初夏に収穫することになる。麦の穂が実る初夏の麦畑は、淡い茶色に染まって秋の稲田に似た光景となるため、麦の結実期のことを、麦秋と呼ぶ。東日本西日本では、梅雨入り直前の、5月下旬から6月上旬(グレゴリオ暦)にあたる。なお、収穫後に乾燥状態を維持していないと、梅雨時などは土壌になくても穂先から簡単に芽吹き出すので注意が必要である。また初夏に芽吹いたとしても日本の夏の気候下ではうまく育たない。秋蒔きは、世界的にはドイツやアメリカなどを中心に行われる。


  1. ^ http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1003/spe1_01.html 農林水産省 特集 麦(1) 2015年1月10日閲覧
  2. ^ 森川利信 「第8章 オオムギの進化と多様性」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、p.161 ISBN 978-4-8329-8190-4
  3. ^ 「新訂 食用作物」p191-192 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版発行
  4. ^ 森川利信 「第8章 オオムギの進化と多様性」『麦の自然史 : 人と自然が育んだムギ農耕』 佐藤洋一郎、加藤鎌司編著、北海道大学出版会、2010年、pp.166-167 ISBN 978-4-8329-8190-4
  5. ^ 『FOOD'S FOOD 新版 食材図典 生鮮食材編』p.314 2003年3月20日初版第1刷 小学館
  6. ^ a b 「新訂 食用作物」p.192 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  7. ^ 「新訂 食用作物」p.201 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  8. ^ 「新訂 食用作物」p.200 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  9. ^ a b c d e f g h i j k l 上野 茂昭. “高β-グルカン含有大麦粉の調理加工特性”. 日本家政学会. 2020年5月20日閲覧。
  10. ^ 『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典2 主要食物:栽培作物と飼養動物』 三輪睿太郎監訳 朝倉書店 2004年9月10日 第2版第1刷 p.17
  11. ^ 「コムギの食文化を知る事典」p.25 岡田哲 東京堂出版 平成13年7月15日初版発行
  12. ^ 「中世ヨーロッパ 食の生活史」p.58 ブリュノ・ロリウー著 吉田春美訳 原書房 2003年10月4日第1刷
  13. ^ a b 『飲食事典』 本山荻舟 平凡社 p.78 昭和33年12月25日発行
  14. ^ http://showa.mainichi.jp/news/1950/12/post-e58e.html 「昭和毎日:池田蔵相「貧乏人は麦を食え」と発言 1950年12月07日」 毎日新聞社 2015年1月12日閲覧
  15. ^ 『飲食事典』本山荻舟 平凡社 p.78 昭和33年12月25日発行
  16. ^ 「新訂 食用作物」p.194 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  17. ^ https://www.maff.go.jp/j/kokuji_tuti/kokuji/k0000059.html 「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律の施行に関する件 平成七年三月二十七日 (農林水産省告示第四百五十七号 )」 農林水産省 2015年1月10日閲覧
  18. ^ a b c 吉田行郷 農林水産省農林水産政策研究所(編)『日本の麦:拡大する市場の徹底分析』 農山漁村文化協会 2017年、ISBN 978-4-540-16180-3 第1章.
  19. ^ a b c http://www.zenbakuren.or.jp/fodder/index.html 「飼料としての大麦」全麦連 2015年1月12日閲覧
  20. ^ 「世界の食文化百科事典」p123 野林厚志編 丸善出版 令和3年1月30日発行
  21. ^ https://www.itsfun.com.tw/二紅飯/wiki-5872411-3099701
  22. ^ 「新訂 食用作物」p204 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版発行
  23. ^ 「保存版 沖縄ぬちぐすい事典」監修 尚弘子 pp.20-21 2002年11月24日初版第1刷 プロジェクト・シュリ
  24. ^ 「品種改良の世界史 作物編」p.77 鵜飼保雄、大澤良編著 悠書館 2010年12月28日第1刷
  25. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  26. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  27. ^ 荒木茂樹 ほか、「大麦の生理作用と健康強調表示の現況」『栄養学雑誌』 2009年 67巻 5号 p.235-251, doi:10.5264/eiyogakuzashi.67.235
  28. ^ 大澤俊彦、「がん予防と食品」『日本食生活学会誌』 2009年 20巻 1号 p.11-16, doi:10.2740/jisdh.20.11
  29. ^ 五訂増補日本食品標準成分表
  30. ^ http://www.nal.usda.gov/fnic/foodcomp/search/
  31. ^ [『タンパク質・アミノ酸の必要量 WHO/FAO/UNU合同専門協議会報告』日本アミノ酸学会監訳、医歯薬出版、2009年05月。ISBN 978-4263705681 邦訳元 Protein and amino acid requirements in human nutrition, Report of a Joint WHO/FAO/UNU Expert Consultation, 2007]
  32. ^ ProdSTAT”. FAOSTAT. 2006年12月26日閲覧。
  33. ^ 「新訂 食用作物」p.193 国分牧衛 養賢堂 2010年8月10日第1版
  34. ^ FAOSTAT
  35. ^ グラフと絵で見る食料・農業 統計ダイジェスト 3 麦 農林水産省
  36. ^ 「地域食材大百科第1巻 穀類・いも・豆類・種実」p.127 社団法人 農山漁村文化協会 2010年3月10日第1刷
  37. ^ 大麦の生産量と輸入量:大麦豆知識”. 全麦連(全国精麦工業協同組合連合会). 2015年1月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月12日閲覧。
  38. ^ ビジネス短信 オーストラリア政府、大麦への追加関税で中国をWTOに提訴へ” (2020年12月17日). 2020年12月17日閲覧。


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