ウクライナ語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/17 02:43 UTC 版)
ウクライナ語 | |
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українська мова | |
発音 | IPA: [ʊkrɐˈjinʲsʲkɐ ˈmɔʋɐ] |
話される国 |
ウクライナ モルドバ( 沿ドニエストル共和国を含む) ポーランド ベラルーシ ロシア |
地域 | 東ヨーロッパ |
話者数 | 4,500万人 |
話者数の順位 | 26 |
言語系統 | |
表記体系 | キリル文字 |
公的地位 | |
公用語 |
ウクライナ 沿ドニエストル共和国 クリミア共和国 |
統制機関 | ウクライナ国立学士院 |
言語コード | |
ISO 639-1 |
uk |
ISO 639-2 |
ukr |
ISO 639-3 |
ukr |
スラヴ語派においてはロシア語、ポーランド語に次いで第3位の話者人口である。ウクライナ語は1989年11月の言語法によって国家語と規定され、初等・中等教育でもウクライナ語化が進んでいる。11月9日はウクライナ語の記念日となっている。
ウクライナ国外においても、諸外国に住むウクライナ人によって使用されている。ウクライナ以外には、ロシア・ベラルーシ・カザフスタン・ポーランド・カナダやアメリカ合衆国などの南北アメリカ、オーストラリアなどにも話者がおり、それらを合計すれば約4500万人になる[1]。
名称
- 12世紀-13世紀:古ルーシ語 (古ルテニア語、古キエフ文語、古東スラヴ語とも、上古ウクライナ文語とも)。
- 14世紀‐18世紀:ルーシ語 (ルテニア語、コサック語、古ベラルーシ語、西ルーシ文語、古ウクライナ文語とも)。
- 18世紀末‐19世紀半ば:小ロシア語(ルテニア語、コサック語、ウクライナ語とも)
- 19世紀後半以後:ウクライナ語。
日本において、太平洋戦争後は「ウクライナ語」と称されるのが一般的である。略記する際は、漢字表記「宇克蘭」から「宇語」[2]、または以前使われていた表記「烏克蘭」から「烏語」も散見される[3]。
系統
従来の言語系統論によると、ウクライナ語はインド・ヨーロッパ語族、スラヴ語派、東スラヴ語群に属するという[4]。総合的言語の一つ[5]。
- もっとも近い言語はベラルーシ語[6]。
- スラブ諸語との共通点(音声・文法): 高地ソルブ語・ベラルーシ語(29の共通点)、低地ソルブ語(27の共通点)、チェコ語・スロバキア語(23の共通点)、ポーランド語(22の共通点)、クロアチア語・ブルガリア語(21の共通点)、セルビア語・マケドニア語(20の共通点)、ポラーブ語(19の共通点)、スロベニア語(18の共通点)、ロシア語(11の共通点)[7]
- スラブ諸語との共通率(語彙):ベラルーシ語(84%)、ポーランド語(70%)、スロバキア語(68%)、ロシア語(62%)[8]。
文字
ウクライナ語アルファベットは33の文字(字母)によって構成される。その文字は38の音素を表す。文字の他に、アポストロフという特別符号も含まれる。ウクライナ語の正書法は音素の原則に基づいており、1つの文字は普段1つの音素に相当する。正書法には、意義・歴史・形態の原則も用いられることがある。
文字には20の子音字(б, г, ґ, д, ж, з, к, л, м, н, п, р, с, т, ф, х, ц, ч, ш, щ)、10の母音字(а, е, є, и, і, ї, о, у, ю, я)、ならびに2つの半母音字(й, в)がある。軟音記号(ь)は音価がないが、前の子音の軟化(硬口蓋化)を引き起こす。
また、特定の子音は特定の母音の前で硬口蓋化する。例えば、子音のд, з, л, н, с, т, ц, дзは軟母音のє, і, ї, ю, яの間に軟子音となる。アポストロフは、正書法にしたがって子音の硬口蓋化を起こさないように用いられる。
アルファベットで用いる音素の原則には他の例外も見られる。例えば、щ /ʃt͡ʃ/, ї /ji/と, 前の子音を硬口蓋化しない場合のє /jɛ/, ю /ju/, я /jɑ/というの5つの文字は二つの音素を表す。дзとджという連字は、普段、破擦音の/d͡z/と/d͡ʒ/を示す。е, у, аの前に位置する子音の硬口蓋化をє, ю, яで表記する。しかし、іの前に位置する子音の硬口蓋化は特別に表記されることがない。
他のキリル文字を使用するアルファベットに比べれば、ウクライナ語は東スラヴ語群の諸語アルファベットと類似している。一方、ґ[注 2]、ї、єのようにウクライナ語固有の文字もある。ウクライナ語のアポストロフは初期キリル文字のъ(イェル)の機能を果たしている。
No. | 現代文字 | 古字 | 国際音声記号 | |||||
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表記 | 呼称 | ローマ字[注 3] | ISO 9[11] | 表記 | 呼称 | 数詞 | ||
1 | А а | アー | A a | A a | アーズ | 1 | [ɑ] | |
2 | Б б | ベー | B b | B b | ブーキ | - | [b] [bʲ][注 4] | |
3 | В в | ヴェー | V v (W w) | V v | ヴィーディ | 2 | [ʋ] [ʋʲ][注 5] [w] [u̯] | |
4 | Г г | ヘー | H h (G g) | G g | グラゴーリ | 3 | [ɦ] [x] | |
5 | Ґ ґ | ゲー | G g | Ģ ģ | — | — | — | [ɡ] |
6 | Д д | デー | D d | D d | ドブロー | 4 | [d] [dʲ] [ɟː] [d͡z][注 6] [dzʲ] [d͡ʒ][注 7] | |
7 | Е е | エー | E e | E e | イェースチ | 5 | [ɛ] [ɛ̝][注 8] | |
8 | Є є | イェー | Ye ye (Je je) | Ê ê | — | — | — | [jɛ] [ʲɛ] [ɪi][注 9] |
9 | Ж ж | ジェー | Zh zh | Ž ž | ジヴィーテ | — | [ʒ] [ʒʲː] [d͡ʒ][注 7] | |
10 | З з | ゼー | Z z | Z z | ゼムリャー | 7 | [z] [zʲ] [zʲː] [d͡z] [d͡zʲ][注 6] [s] [sʲ][注 10] | |
11 | И и | ウィー | Y y | I i | イージェ(八) | 8 | [ɪ] [ɪ̞][注 11] | |
12 | І і | イー | I i | Ì ì | イジェーイ(十) | 10 | [i] | |
13 | Ї ї | イィー | Yi yi (Ji ji) | Ї ї | — | — | — | [ji] [ʲi] |
14 | Й й | ヨット | Y y (J j) | J j | — | — | — | [j] |
15 | К к | カー | K k | K k | カーコ | 20 | [k] [ɡ][注 12] | |
16 | Л л | エル | L l | L l | リューディ | 30 | [l] [lʲ] [ʎː] | |
17 | М м | エム | M m | M m | ムィースリテ | 40 | [m] | |
18 | Н н | エン | N n | N n | ナーシュ | 50 | [n] [nʲ] [ɲː] | |
19 | О о | オ | O o | O o | オン | 70 | [ɔ] [o][注 13] | |
20 | П п | ペー | P p | P p | ポコーイ | 80 | [p] [pʲ][注 4] | |
21 | Р р | エル | R r | R r | ルツィー | 100 | [r] [rʲ] | |
22 | С с | エス | S s | S s | スローヴォ | 200 | [s] [sʲ] [sʲː] [z] [zʲ][注 12] | |
23 | Т т | テー | T t | T t | トヴェールド | 300 | [t] [tʲ] [cː] [d] [dʲ][注 12] | |
24 | У у | ウー | U u | U u | ウーク | — | [u] [u̯] | |
25 | Ф ф | エフ | F f | F f | フェールト | 500 | [f] | |
26 | Х х | ハー | Kh kh | H h | ヒール | 600 | [x] | |
27 | Ц ц | ツェー | Ts ts | C c | ツィー | 900 | [t͡s] [t͡sʲ] [t͡sʲː] | |
28 | Ч ч | チェー | Ch ch | Č č | チェールヴ | 90 | [t͡ʃ] [t͡ʃʲː] [d͡ʒ][注 12] | |
29 | Ш ш | シャー | Sh sh | Š š | シャー | — | [ʃ] [ʃʲː] | |
30 | Щ щ | シチャー | Sch sch | Š š | シチャー | — | [ʃt͡ʃ] | |
31 | Ь ь | ムヤキイ・ズナク(軟音符) | ' | ´ | イェリ | — | [ʲ] | |
32 | Ю ю | ユー | Yu yu (Ju ju) | Û û | ユー | — | [ju] [ʲu] | |
33 | Я я | ヤー | Ya ya (Ja ja) | Â â | マーリイ・ユス(小さなユス) | — | [jɑ] [ʲɑ] |
- ^ より厳密には、憲法第10条により、唯一の「国家語」と規定されている。
- ^ ソ連邦に属していた時代の1933年から1990年にかけて、この文字の使用が禁じられた。
- ^ ウクライナの法律・公式文章に使用されるローマ字表記(Рішення української комісії з питань правничої термінології)
- ^ a b 外来語で用いる半軟音。
- ^ 軟音の前に半軟音になる。
- ^ a b дзの二重音字。
- ^ a b джの二重音字。
- ^ 発音は[ɪ̞]と同じ。
- ^ [j]の後と軟子音の前の間に[ɛ]は[ɪi]として発音する。
- ^ 無声音の前に[s]となる。
- ^ 発音は[ɛ̝]と同じ。
- ^ a b c d 無声音は有声子音の前で有声音に変わる。
- ^ 円唇化に伴う音。
- ^ 1999年に制定され数年間使われた正書法、及び、その基となった「ハルキウ正書法」では、иで始まる文字もあった。例:інший→инший、іноземець→иноземець
- ^ ウクライナ語には音だけが残っており特別に説明する場合を除いて文字は用いられないが、ベラルーシ語には文字も残っている。
- ^ ヤヌコーヴィチが大統領として2011年に訪日した際、日本では常にウクライナ語で発言をしていた。日本側もウクライナ語の通訳を初めて用意した(ユシチェンコが大統領在籍の際の訪日では宇→英→日だった)。
- ^ 「正しい表現、誤った表現」「ロシア語からの借用、純ウクライナ語の表現」等の比較本がしばしば書店で見られる。一部はオンライン版もある。
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