インドの歴史 インドの歴史の史料

インドの歴史

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/28 04:44 UTC 版)

インドの歴史の史料

インド人は、歴史意識を持たなかったと、批判的に語られることがあるが、これは近代的な歴史の叙述、あるいは古代ギリシアや古代中国に発する歴史記述の伝統とは異なった形で、インド人が歴史を語ってきたという事実を述べるに過ぎない。

その最も顕著な例として、プラーナ文献における歴史の語りがある。プラーナ文献は、神話を語る宗教文献として扱われることが最も多いが、宗教的な内容にとどまらず、人々の暮らしの規範や医学、音楽などに加え、歴史も重要な要素となっている。中でも、プラーナ文献の一種であるスタラ・プラーナは、特定の都市や寺院の起源を遡る、歴史意識によって編まれた文献群である。その叙述は、暦年によって系統立てられたものではなく、神々の事蹟や過去の偉人の生涯に関わらせる形で、その文献の主題となる都市や寺院の由緒を正統的に述べることに主眼がある。そのため、インド独特の歴史叙述とも言えるような特徴が見られるのである。

反対に、近代的な歴史学に直接に史料となりうるものに、碑文がある。最も古いものではアショーカ王碑文が有名であるが、王の即位後の年数や暦年が記されていることが多く、この点でもインド人に歴史意識が欠けていたとは言えないと考えられる。

インドの歴史において最も重要な史料である碑文のほかに、貨幣やその鋳型印章・石柱・岩石・銅板・寺院の壁や床・煉瓦・彫刻などに刻まれた刻文、7世紀にバーナが著した『ハルシャ・チャリタ』に始まる伝記文学や12世紀にカルハナが著した『ラージャタランギニー』などの歴史書、その他の文献、さらにはメガステネースプトレマイオス法顕玄奘などの外国人による記録も、インドの歴史の重要な史料となっている。


補注

  1. ^ 都市活動の停止の要因としては、このほか乾燥化によるとする考えやアーリヤ人の侵入の結果とする考えなどがあるが、現在これらの説は否定されている。2007年現在有力視されている説は、土地の隆起によるインダス川の洪水の頻発、ガッガル・ハークラー川の干上がり、これらの要因によるインフラと農業生産力の衰亡である。しかしながら、この環境変動説も考古学的・地質学的証明の裏付けが十分とは言えない[4]
  2. ^ 例えば、近代インドを代表する聖者であるラマナ・マハルシ[33] は、修練方法としてジュニャーナ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、ラージャ・ヨーガを勧めている。ラマナは、霊性の向上は「心」そのものを扱うことで解決ができるという基本的前提から、ハタ・ヨーガには否定的であった。また、クンダリニー・ヨーガは、潜在的に危険であり必要もないものであり、クンダリニーがサハスラーラに到達したとしても真我の実現は起こらないと発言している[34]
  3. ^ シングルトン 2014によれば、これらの行者のなかには、実際にかなり暴力的な方法で物乞いをする者達もいて、一般の人々から恐れられていたらしい。武装したハタ・ヨーガ行者たちは略奪行為を働くこともあった。略奪行為が統治者から禁止されるようになると、行者らはヨーガを見世物とするようになり、正統的なヒンドゥー教徒たちからは社会の寄生虫として蔑視されていた[35]
  4. ^ 伊藤雅之はこれを1920年代から1930年代のこととしているが、シングルトン 2014によれば、少なくともクリシュナマチャーリヤに関して言えば1930年代以降のことである。伊藤論文では西洋式体操から編み出された近代ハタ・ヨーガをひとりクリシュナマチャーリヤのみに帰しているような記述となっているが[36]、シングルトンによれば同時代のスワーミー・クヴァラヤーナンダとシュリー・ヨーゲーンドラも重要であり、クヴァラヤーナンダの活動はクリシュナマチャーリヤに先行している。また、伊藤は近代ハタ・ヨーガにはインド伝統武術に由来する要素もあるとしているが、シングルトンの著書にはそれを示唆する記述はない。

出典

  1. ^ 未解読のインダス文字を、人工知能で解析 (WIRED.jp)[リンク切れ]
  2. ^ 山崎&小西 2007, pp. 38–39.
  3. ^ 山崎&小西 2007, p. 39.
  4. ^ 山崎&小西 2007, p. 40.
  5. ^ Masica, Colin P (1993) [1991]. The Indo-Aryan languages (paperback ed.). Cambridge University Press. p. 36. ISBN 0521299446 
  6. ^ 山崎&小西 2007, p. 82.
  7. ^ 山崎&小西 2007, p. 83.
  8. ^ 山崎&小西 2007, p. 84.
  9. ^ a b 山崎&小西 2007, p. 85.
  10. ^ 山崎&小西 2007, pp. 81–83.
  11. ^ 山崎&小西 2007, p. 103.
  12. ^ 山崎&小西 2007, pp. 103–104.
  13. ^ 河合秀和訳『20世紀の歴史――極端な時代(上・下)』(三省堂、1996年)[要ページ番号]
  14. ^ 中村平治「独立インドの国家建設 -国民の政治参加の拡大-」内藤雅雄・中村平治編『南アジアの歴史 -複合的社会の歴史と文化-』有斐閣、2006年、p.204
  15. ^ a b c シングルトン 2014, p. 33.
  16. ^ a b 佐保田 1973, p. 23.
  17. ^ シングルトン 2014, pp. 33–34.
  18. ^ シングルトン 2014, p. 34.
  19. ^ 山下 2009, p. 69.
  20. ^ 山下 2009, p. 68.
  21. ^ a b 山下 2009, p. 71.
  22. ^ 佐保田 1973, p. 27.
  23. ^ a b 山下 2009, p. 105.
  24. ^ 『世界宗教百科事典』丸善出版、2012年。 p.522
  25. ^ 佐保田 1973, p. 36.
  26. ^ シングルトン 2014, p. 279.
  27. ^ a b シングルトン 2014, p. 35.
  28. ^ 佐保田 1973, p. 35.
  29. ^ 川崎 1993, p. [要ページ番号].
  30. ^ 佐保田 1973, p. 37.
  31. ^ 伊藤 2011, p. 96.
  32. ^ a b シングルトン 2014, p. 99.
  33. ^ ポール・ブラントン 著、日本ヴェーダーンタ協会 訳『秘められたインド 改訂版』日本ヴェーダーンタ協会、2016年(原著1982年)。ISBN 978-4-931148-58-1 [要ページ番号]
  34. ^ デーヴィッド・ゴッドマン編 著、福間巖 訳『あるがままに - ラマナ・マハルシの教え』ナチュラルスピリット、2005年、249-267頁。ISBN 4-931449-77-8 
  35. ^ a b シングルトン 2014, pp. 45–52.
  36. ^ a b 伊藤雅之「現代ヨーガの系譜 : スピリチュアリティ文化との融合に着目して」『宗教研究』84(4)、日本宗教学会、2011年3月30日、417-418頁、NAID 110008514008 
  37. ^ シングルトン 2014, p. 5.
  38. ^ Yoga India Inscribed in 2016 (11.COM) on the Representative List of the Intangible Cultural Heritage of Humanity Intangible Heritage UNWSCO





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