インコタームズ インコタームズの概要

インコタームズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/01/22 03:23 UTC 版)

貿易取引における運賃、保険料、リスク(損失責任)負担等の条件に関する売主と買主の合意内容について、国によって用語の解釈に不一致があると貿易が円滑に行われないため、国際的に統一的な定義を取り決めたもの。 任意規則であるため、強制力はなく、貿易取引の契約書に「本契約で使用されている貿易条件は、インコタームズ2000によって解釈する」というような約款を入れることが一般的である。また、両当事者が合意すれば、例えば1990年度版に準拠することも自由にできる。

インコタームズの本文(和英対訳)は、国際商業会議所日本委員会で入手することができる。(外部リンク参照)

沿革

貿易取引において、価格を決めるために決めておかなければならない条件は、使用する通貨とその取引における費用計算の基準である[1]。費用計算の基準とは、業務・責任の売り手と買い手の間での分担のことで、具体的には、輸送料、輸送保険料、通関費用、関税などの費用の分担をさす。各々の取引で都度決めてもよいが、多くの場合いくつかの典型的な基準のどれかに当てはまる。インコタームズではじめて定型の基準を決めたわけでは無く、インコタームズ以前にも類型化された基準があった。例えば、東京高商(現一橋大学)のブロックホイス教授(Prof. E. J. Blockhuys)教授は、1913年に出版された自著[2]の中で19種類の費用計算基準に関する用語をあげている[3]。そこには、「free on board」など現在使用されている貿易取引条件に通じるものも見ることができる。また、1920年[4]に設立したICCは、1923年に「Trade Terms Definitions 1923」(Digest No. 43)、1929年に「Trade Terms 2nd 1929」(Brochure No. 68)として、当時の貿易定型取引条件の調査結果を発表している[5]

事実上の業界標準として定型条件があったとしても、それは完全な統一条件として確立したものではないので、当事者間の理解が常に全く同じかどうかはわからない。そこで各定型条件を明確に定義し、当事者間の紛争を回避するため[6]、1936年にインコタームズが発表された。その後1953年、1967年、1976年に改訂が行われている。1980年の改訂では、FRC、DCP、CIPが追加されたが、これは複合一貫輸送(コンテナ輸送)が盛んになった時代背景と関係がある[7][8]。また、このときの改訂で3文字の略号が決められた。これは自動データ処理での利便性を考慮した結果である[9]。1990年の改訂では、4類型(Eグループ、Fグループ、Cグループ、Dグループ)に分類され、それにあわせて条件の呼称・略号も変更された。EDIの普及を反映して、電子データで書類がやり取りされることも想定した規定にされている[10]。2000年の改訂では特に大きな変更は無かった。ただ、実務上の利便を考慮し、FAS条件における通関義務が買い手から売り手に移った[11]。2010年の改訂では4類型は廃止され、バラ積み船用の規則(インコタームズ2000以前では「条件」)とそれ以外の規則の2類型に分けなおされた。また仕向地での受渡し条件を整理した。

インコタームズ2000

2000年1月1日に発効したインコタームズ2000では、以下の13の貿易条件が定義され、E、F、CおよびDの四つのグループに分類された。グループの名前は略号の最初の文字で、それだけで条件の概要がわかるようにしてある。Dグループは揚地条件[12]で、他は積地条件[13]である。積地条件でも、Cグループは受け渡し後の費用(輸送費や保険料)も含まれることを意味する。

Eグループ(出荷)

EXW (Ex Works)
出荷工場渡し条件。売主は、売主の敷地(工場)で買主に商品を移転し、それ以降の運賃、保険料、リスクの一切は買主が負担する。

Fグループ(主要輸送費抜き)

FCA (Free Carrier)
運送人渡し条件。売主は、指定された場所(積み地のコンテナ・ヤード等)で商品を運送人に渡すまでの一切の費用とリスクを負担し、それ以降の運賃、保険料、リスクは買主が負担する。
FAS (Free Alongside Ship)
船側渡し条件。売主は、積み地の港で本船の横に荷物を着けるまでの費用を負担し、それ以降の費用及びリスクは買主が負担する(売主は、船に積み込む必要はない)
FOB (Free On Board)
本船甲板渡し条件。売主は、積み地の港で本船に荷物を積み込むまで[14]の費用を負担し、それ以降の費用及びリスクは買主が負担する。

Cグループ(主要輸送費込)

CFR (C&F Cost and Freight)
運賃込み条件。売主は、積み地の港で本船に荷物を積み込むまで[14]の費用及び海上運賃を負担し、それ以降の保険料及びリスクは買主が負担する。1990年のインコタームズ改正まではC&Fと呼ばれており、現在でもC&Fと呼ばれることがある。
CIF (Cost, Insurance and Freight)
運賃・保険料込み条件。売主は、積み地の港で本船に荷物を積み込むまで[14]の費用、仕向け地までの海上運賃及び保険料を負担し、それ以降のリスクは買主が負担する。
CPT (Carriage Paid To)
輸送費込み条件。売主は、指定された場所(積み地のコンテナ・ヤード等)で商品を運送人に渡すまでのリスクと海上運賃を負担し、それ以降のコストとリスクは買主が負担する。CPT条件は保険をどちらが付保するのか決めていないが、通常リスクを負担する買主が付保する[15]
CIP (Carriage and Insurance Paid To)
輸送費込み条件。売主は、指定された場所(積み地のコンテナ・ヤード等)で商品を運送人に渡すまでのリスクと海上運賃、保険料を負担し、荷揚げ地からのコストとリスクは買主が負担する。

Dグループ(配送)

DAF (Delivered At Frontier)
国境持ち込み渡し条件。売主は、指定された国境で商品を運送人に渡すまでのリスクとコストを負担する。陸上に国境がない日本では行われない条件。
DES (Delivered Ex Ship)
仕向港着船渡し条件。売主は、仕向港までの費用、海上運賃、保険料及びリスクを負担する。仕向港に着船した時点で所有権は買主に移転し、それ以降の費用(関税を含む)は買主が負担する。
DEQ (Delivered Ex Quay)
仕向港埠頭渡し条件。売主は、仕向港までの費用、海上運賃、保険料及びリスクを負担する。仕向港で荷降しした時点で所有権は買主に移転し、それ以降の費用(関税を含む)は買主が負担する。
DDU (Delivered Duty Unpaid)
仕向地持ち込み渡し・関税抜き条件。売主は、指定された目的地まで商品を送り届けるまでのすべてのコストとリスクを負担するが、輸入通関手続き及び関税については買い主が負担する。
DDP (Delivered Duty Paid)
仕向地持ち込み渡し・関税込み条件。売主は、指定された目的地まで商品を送り届けるまでのすべてのコスト(輸入関税を含む)とリスクを負担する。

  1. ^ 中村、p.59
  2. ^ E. J. Blockhuys "The Technique of Foreign Trade" 明治大学出版部、1913年
  3. ^ 中村、p.61
  4. ^ 当時の海運業界の動きとして、例えば1924年には船荷証券統一規則が採択されている。
  5. ^ 1936年インコタームズに先立って作られたICCの Trade Terms Definitions 1923 と Trade Terms 2nd 1929 に冠する一考察」日本貿易学会第48回全国大会報告要旨(開催: 2008年5月30-6月1日青山学院大学。2011年1月12日閲覧)
  6. ^ "It is better for two parties to a contaract to mean the same thing by the term they use than to quarrel afterwords as to which of the two meanins is the best."(契約に対する両者にとって、両者で使っている規則が同じことを意味している方が、2つの意味のどちらが最適なのかを後から議論するより良い。) - インコタームズ1936の前文より。
  7. ^ 中村、p.63
  8. ^ 1973年にICCは「複合運送書類のための統一規則」を制定している。
  9. ^ 中村、p.63
  10. ^ 中村、p.64
  11. ^ FAS条件とは積込港の船の横で受け渡す条件だが、遠く離れた買い手が積込港で通関するのは不便である。類似のFOB条件ではもともと売り手に通関義務があった
  12. ^ 典型的には買い手の地の港ないし指定場所でリスクが移転する、つまり積荷を受け渡す条件。
  13. ^ 典型的には売り手の地の港ないし指定場所で受け渡される条件。なお、受け渡し場所がどこかということは、海上輸送費や保険料を払うかどうかとは無関係である。例えばCFR条件は売り手が海上輸送運賃と保険料を負担する条件であるが、受け渡しは積込港となる。つまり、海上輸送中に事故が起こった場合、それは買い手が買った後に壊してしまった、ということになる。
  14. ^ a b c インコタームズ2000およびそれ以前のインコタームズでは、FOB、CFR、CIFについて、「本船に荷物を積み込むまで」とは、厳密には「本船の手すりを越えるまで(the goods pass the ship's rail)」 の意味である
  15. ^ 基本的な貿易制度に関するQ&A」ジェトロのウェブサイト(2010年12月30日閲覧)
  16. ^ a b c d 日本語訳は「基本的な貿易制度に関するQ&A インコタームズ」-ジェトロのウエブサイト(2010年10月時点の調査、2011年1月3日閲覧)-に倣った。
  17. ^ a b インコタームズ2010 について」三井住友海上のウェブサイト(2010年10月25日付け、2011年1月3日閲覧)
  18. ^ procure(入手・調達)とは、典型的には売買契約が締結されるという意味である。
  19. ^ FOBなどを、港以外の場所で、あるいは船以外の物(トラック、航空機など)に積み込む場合に使ったとき、インコタームズでは解釈できない。「建値条件の間違った使い方の実例」-中小企業基盤整備機構のウェブサイト(2010年1月付け、2011年1月3日閲覧)-も参照。
  20. ^ インコタームズ2010では、FAS, FOB, CFR, CIFをコンテナの海上輸送に用いるべきではないことが明記されている。
  21. ^ インコタームズにないが、慣習的に使われることのある他の貿易条件の例: 「インコタームズにない建値条件の実例と留意事項」中小企業基盤整備機構のウェブサイト(2010年1月付け、2011年1月3日閲覧)


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