インクジェットプリンター インク

インクジェットプリンター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/12 08:52 UTC 版)

インク

インクジェットプリンターの4色インクカートリッジ

インクジェットプリンターでの印刷に使用されるインクは、オンデマンド型プリンターではほぼすべて水系のインクが使用されている。これは主に染料インクと顔料インクの2系統に分けられる。

色インク

インクジェットプリンターでカラー印刷を行う場合は、シアン(C)・マゼンタ(M)・イエロー(Y)を混ぜて他の色を表現する減色法減法混合)が使われる。黒色はこの三色を混ぜることで理論的には表現できるが完全な黒色にすることは難しく、また三色のインクを同時に使用することはインク使用量を増やす結果となるため黒色表現のためのブラック(Bk)インクを搭載している。通常はC+M+Y+Bkの4色のインクで表現できるが、淡い色(人肌など)の粒状感を低減するために高級機種では通常より薄い(1/4~1/6程度)シアンとマゼンタを持つ物が多い。更にプロ向けの機種では、鮮烈な原色や発光色などを表現するため色空間を広くするための追加のインクを搭載するものもある。また普通紙への文書印刷における文字のにじみを低減する観点から染料インクとは別に顔料のBkを用意している、もしくは4色インクのうちBkのみ顔料という機種も多い。

染料系インク

染料系のインクは被印字媒体に対して色素を染み込ませて色をつける。初期のインクジェットプリンターに採用され、現在でもインクジェットプリンター用のインクとして広く普及している。染料系インクの長所は以下の通りである。

  • 色再現性が高い。
  • 光沢が出やすい。
  • 乾きやすい。

短所は以下の通りである。

  • 耐水性が低い - 水に濡らすと、にじみが生じやすい。
  • 耐光性が低い - 太陽光などが長時間当たると、色あせ(退色)を起こしやすい。
  • 印刷後の色の変動が大きい - 色が落ち着くまで24時間程度必要

耐水性の低さに関しては、水性のマーカーペンで印字物をなぞるだけでにじみを発生させ、インクジェットプリンターの欠点として大きく取り上げられたこともあったが、近年は改良が進んでいる。また、耐光性についても、メーカーにより差はあるものの、インクの分子構造を工夫するなどして改良が加えられている。

顔料系インク

顔料系のインクは、水に分散しているインクの色素を被印字媒体表面に付着させ水を蒸発させて定着させ色をつける。顔料系インクの長所は以下の通りである。

  • 耐水性が高い。
  • 耐光性が高い。
  • 印刷後の色の変動が少ない。

短所は以下の通りである。

  • 耐摩擦性が低い - 顔料粒子が紙内部に浸透しないため印刷面をこすると色落ちしやすい
  • 溶液としての安定性が悪い。
  • 粒子であるため比較的ノズルの目詰まりを起こしやすい。
  • 光沢が出にくい。
  • 乾燥が遅い - 顔料インクが乾燥しにくいため、印刷直後に印刷物表面を触ると印字面が汚れやすい。このため両面印刷では、染料インクのものに比べて乾燥時間を長めに設定している。

今日の家庭用プリンターには、普通紙印刷における文字のにじみを低減する観点から染料インクとは別に顔料ブラックインクを用意、または染料ブラックインクを省きブラックインクは顔料のみ、という機種を販売しているメーカーが多い。この他、ブラックインクだけでなくカラーインクも顔料を採用した機種があり(後述のプロ向けの機種に多い)、リコーのジェルジェットと呼ばれるインクジェットプリンタは全色顔料である。

また、プロ写真家向けのプリンターについては多くが顔料インクのプリンターである。それは顔料インクは印刷後の色の安定が早いため調整がしやすく、自分が望む思い通りの作品を作り出ことが出来るからである。顔料インクの短所である光沢感の不足を補うため、顔料粒子に樹脂コートが施されたインクや、光沢を出すための透明インク(グロスインク)を導入している機種もある。

固体インク

固体インクを使用するプリンタもありテクトロニクス社で開発された。染料系のインクを、常温では固体であるワックス樹脂で固める事で他のプリンタのように液体インクよりもにじみにくい、インクが少なくなっても印刷品質に影響しにくく、トナーや液体インクを入れるカートリッジが不要なので使用済み消耗品に起因する廃棄物の発生量が減るといった利点を有する[8]。画質が良い反面、約60度の温度で液体化して用紙に転写されるのでプリンタの電源が入っているときは、常にこの温度を保つ必要があり、プリンタの電源を一度切って、再び入れなおすと、一度固体化したインクは再度温められて、ウォームアップの際に一定量捨てられ、10回も電源の入り切りを繰り返すと、機種によっては固形インクがなくなってしまうという欠点も併せ持つ[9]。固体インクの技術は精密な立体出力に適するので3Dシステムズ社は2013年にゼロックスからソリッドインクの開発チームを一部買収した。[10]

その他のインク

ミマキエンジニアリング社UVインクジェットプリンタ UJF-3042HG

水系インクは紙や布などの液体を吸収する素材に対して有効であり、金属やプラスチックなどの媒体には印刷できない。これらの素材で使用されるインクジェットプリンターには油系インクが用いられる。さらには加熱して溶融状態で塗布するソリッドインク、インク着弾時に紫外線電子線など電磁波を照射してインクを固まらせるUV硬化インクなども存在する。

また、屋外広告など特に耐候性が求められる分野ではソルベントインクなどの有機溶剤系インクが用いられる場合もある。


注釈

  1. ^ モノクロで低解像度のものとしては、電卓用プリンターなどとして商品化されたこともあった

出典

  1. ^ a b 8年前に製造された中古プリンターがオークションで高額取引される謎
  2. ^ 1984年6月、インクジェットプリンタ「IP-130K」 マイルストンプロダクツ”. セイコーエプソン. 2008年12月5日閲覧。
  3. ^ HPの歩み-1980年代”. 日本ヒューレット・パッカード. 2009年8月4日閲覧。
  4. ^ キヤノンの歩み、1985年、世界初のバブルジェット方式インクジェットプリンタ「BJ-80」発売”. キヤノン. 2008年12月5日閲覧。
  5. ^ キヤノンの歩み、1990年、バブルジェット方式ノート型プリンタ「BJ-10」”. キヤノン. 2008年12月5日閲覧。
  6. ^ 1996年11月、カラーインクジェットプリンタ「PM-700C」 マイルストンプロダクツ”. セイコーエプソン. 2009年8月4日閲覧。
  7. ^ PM-700C --- “写真印刷”を初めて標榜”. 日経BP. 2009年8月4日閲覧。
  8. ^ FXPS、「ソリッドインク」方式を採用したA4カラーページプリンタ
  9. ^ ソリッドインクカラープリンタがイケてない理由
  10. ^ 3D Systems To Acquire a Portion of Xerox’s Oregon Based Solid Ink Engineering and Development Teams
  11. ^ インクジェット印刷”. 東静容器. 2009年8月12日閲覧。
  12. ^ エプソン. “純正インクが選ばれる4つの理由-1”. 2010年6月4日閲覧。
  13. ^ エプソン. “エプソン純正品について”. 2010年6月4日閲覧。
  14. ^ キヤノン. “キヤノン:インクジェットプリンター 消耗品紹介”. 2010年6月4日閲覧。
  15. ^ キヤノン. “Canon Sustainability Report 2008”. pp. p.39. 2009年8月17日閲覧。
  16. ^ ブラザー工業. “消耗品に関する独・デュッセルドルフ高等裁判所における勝訴判決について”. 2009年8月17日閲覧。
  17. ^ ブラザー工業. “ブラザー純正インクのご案内”. 2008年11月16日閲覧。
  18. ^ アリオン. “公開レポート”. 2008年11月16日閲覧。
  19. ^ 郵便局株式会社. “使用済みインクカートリッジを回収しています”. 2009年8月19日閲覧。
  20. ^ 郵便局株式会社. “ブラザー、キヤノン、デル、エプソン、日本HP、レックスマークは日本郵政グループと協力し使用済みインクカートリッジの共同回収を開始”. 2009年8月19日閲覧。
  21. ^ ITmedia. “かくして“つよインク”は生まれ変わる――エプソンのリサイクル工場見学”. 2010年6月4日閲覧。
  22. ^ こまもの本舗「よくある質問」より
  23. ^ 「「インク警告」、「インクわずか」メッセージが表示される」HPカスタマーケア
  24. ^ セイコーエプソン株式会社. “気兼ねなくプリントできるエコタンク搭載プリンター3機種 国内新規投入”. 2021年8月1日閲覧。
  25. ^ BCN. “特大容量タンクを備えた「G3310」など、インクジェットプリンタ3機種”. 2021年8月1日閲覧。
  26. ^ コトバンク・ピエゾクラフとは






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