アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/15 01:30 UTC 版)
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 | |
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基本情報 | |
艦種 | ミサイル駆逐艦 |
命名基準 |
海軍・海兵隊功労者 1番艦は第15代アメリカ海軍作戦部長のアーレイ・バーク大将に由来する。 |
建造所 | |
運用者 | アメリカ海軍 |
建造期間 |
1988年 - 1996年(フライトI) 1995年 - 1997年(フライトII) 1997年 - 現在(フライトIIA) 2019年 - 現在(フライトIII) |
就役期間 |
1991年 - 就役中(フライトI) 1998年 - 就役中(フライトII) 2000年 - 就役中(フライトIIA) 2023年 - 就役中(フライトIII) |
計画数 | 92隻予定 |
建造数 |
フライトI:21隻 フライトII:7隻 フライトIIA:47隻予定 フライトIII:17隻予定 |
前級 |
スプルーアンス級(DD) キッド級(DDG) |
次級 |
ズムウォルト級 DDG(X) |
要目 | |
#諸元表参照 |
2005年にスプルーアンス級が全艦退役したため、アメリカ海軍が保有する駆逐艦は本級とズムウォルト級のみである。タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の減勢もあって、本級のフライトIIIは対空戦指揮艦を担うことが増えると想定されたことから、艦長には大佐が充てられる事となった。
来歴
DDX研究
1970年代後半、アメリカ海軍は、1980年代から1990年代にかけて艦齢30年に達する58隻に及ぶ防空艦を更新するための新しい駆逐艦の計画に着手した。更新対象とされていた艦と、艦齢30年に達するタイミングは下記の通りであった[3]。
- ジョン・P・ジョーンズ級(フォレスト・シャーマン級DDG改装型)×4隻:1983年度
- チャールズ・F・アダムズ級×26隻:1989~93年度、また近代化改修を受けていた3隻は1997・8年度
- ファラガット級×10隻:1990~92年度
- ロング・ビーチ:1999年度
- リーヒ級×9隻:1992~4年度
- ベインブリッジ:1999年度
- ベルナップ級×9隻:1995~8年度
- トラクスタン:1997年度
1978年度より、新しいイージス艦であるタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦の整備が開始されていたが、これは極めて高コストの艦であり、このように膨大な所要を満たすことは困難であった。また、同級はもともと、5,000トン級の小型安価なイージス駆逐艦(DG/Aegis)を起源としつつも大型化を繰り返し、9,000トン級の巡洋艦へと発展していったという経緯もあり、イージス艦を小型安価に収めることの困難さは明らかであった[3]。
このことから、海軍作戦部長府(OpNav)において1978年5月よりフォンテーン少将の指揮下に設置されたDDX研究グループにおいては、ゼロベースでのコンセプト開発が行われた。この研究では、タイコンデロガ級とキッド級ミサイル駆逐艦、スプルーアンス級駆逐艦、オリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートという4つの現用艦を含めて、11の試案が作成された。これらの試案は全て62口径76mm単装速射砲を艦砲としていたが、その他の装備については極めて多彩であり、ペリー級の船体を延長してVLSを追加しただけの満載4,690トンの案(FCSはMk.92のみ)から、タイコンデロガ級からヘリコプター格納庫と52番砲を省くなどしてダウングレードした満載9,060トンの案(イージス艦)まであった[3]。
DDGX研究とDDG-51
その検討結果は1979年6月に報告され、これを踏まえて、8月より、海軍作戦部長トーマス・ヘイワード大将は、次期ミサイル駆逐艦DDGXの研究を開始させた。DDGX研究にあたって、海軍作戦部長は「戦闘能力を最優先」「取得性・性能・残存性の重視」「艦隊における分散的攻撃力としての寄与」を方針としてかかげた[4]。これに基づき、DDGXは排水量3,500~7,800トン(5,500~6,500トンが望ましい)で、コンセプトは下記のように策定された[5]。
- 攻勢的な長射程のウェポン・システム
- イージスシステムに準ずる強力な対空戦システム
- 船体装備ソナーおよび対潜哨戒ヘリコプター
- 29ノット以上の速力および5,000海里の航続距離
- 十分に強力な残存性
DDGXの実行可能性研究は、通例通りNAVSEAによって行われた。この研究の対象となる試案は、巡洋艦級(Ship 1)、先進的な電気推進艦(Ship 2)、中型艦(Ship 3)、小型艦(Ship 4)、そしてVLS搭載フリゲート(Ship 5)にカテゴリ分けされたが、実際には1、3、5番目の艦のみが開発された。この研究は、トレードオフ分析によって、1990年代において最適な水上戦闘艦のコンセプトを策定するためのもので、SPY-1に代わってCバンド・レーダーや回転式のレーダー、更にはターター-Dシステムまで検討の俎上に載せられるほどであった。これらの試案は1979年12月までには完成し、1980年1月に報告された。海軍資材部長は7,400トンのイージス艦である3A案をリコメンドし、海軍作戦部長もこれに同意した[5]。
1981年、レーガン政権下で、レーマン海軍長官は600隻艦隊構想を掲げており、海軍力の増強が求められるようになった。またソビエト連邦軍による経空脅威の増大も踏まえて、タイコンデロガ級の建造数増加がなされていたが、レーマン長官は更なるイージス艦の増強を求めていた[6]。この情勢を踏まえて、1981年4月、アメリカ議会予算局(CBO)は、1990年代における水上戦闘艦 という報告書を上程した。このなかで、DDGXとタイコンデロガ級、またタイコンデロガ級の計画段階で検討されていた改バージニア級(CGN-42級)、そしてDDGXより小型・高速で6インチ砲搭載の外洋駆逐艦(DDGY)の4案を代表例として、トレードオフによる検討を行った。これを受けて、海軍ではタイコンデロガ級とDDGXによる構成を選択し、DDGX研究を踏まえた実用艦として設計されたのが本級である[7]。1番艦(DDG-51)が1985年度計画で発注されて、建造が開始された[6]。
DDV研究とフライトIII
アーレイ・バーク級は、その後も継続的な改設計を受けており、「フライト」として区別されている。最初に建造されたのがフライトIだが、2番艦「バリー」(DDG-52)では、さっそくヘリコプター甲板でのLAMPSヘリコプターへの補給に対応するという改良を受けており、フライトIAとして区別された。また「マハン」(DDG-72)以降は、JTIDSやTADIXS-Bへの対応、AN/SLQ-32(V)3電波探知妨害装置の搭載、トマホーク巡航ミサイルの運用に対応した電波方向探知機の搭載、SM-2ブロックIVミサイルの運用への対応を図ったフライトIIとなった[8]。
1988年、海軍作戦部長は、アーレイ・バーク級の全面的な改設計型としてフライトIIIの設計を命じた。NAVSEAによって作成された試案では、タイコンデロガ級と同様にVLSのセル数を122セルに増やすとともにLAMPSヘリコプター2機の搭載能力を付与し、満載10,722トンとなる予定であった。ただしこれはあまりに高価として建造されなかった[8]。
その後、1991年にはDDV(Destroyer Variant)研究が開始された。これはコストパフォーマンスに優れ、また湾岸戦争の戦訓を反映した駆逐艦を求めた研究であり、上記のフライトIIIにあたるDDV-Hをハイエンドとして、VLSのセル数を96セルとするなど多少コスト低減を図ったDDV-9から、対空兵器はRAMのみとしてVLSを8セルまで削り、主機やソナーをペリー級と同程度までダウングレードした廉価型であるDDV-1まで10個の試案が作成された。研究結果は1992年2月28日に報告され、DDV-9が採用されることになった。これを具現化したのがフライトIIAである[8]。
フライトIIAの建造は1994年度より開始され、2005年度で一度中断した。本来はここで打ち止めになるはずだったが、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦の建造数削減に伴って2010年度より再開されており、これ以後の建造分は「フライトIIAリスタート」と称される。また同年度でCG(X)計画が中止されたことから、その代替も兼ねて、2016年度からは、フライトIIIの建造も開始されることになった。これは1988年に検討されていた案と直接の関連はなく、フライトIIAをもとに装備の更新などを図った改良型となる予定である[9]。ただし流石にこれ以上の発展は難しく、2020年代に入ると、本級とタイコンデロガ級巡洋艦の後継艦としてDDG(X)の計画が本格的に推進されることになった[10][11]。
設計
本級は、ロー・コンセプト艦として設計されたオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートより、ハイ・コンセプト艦として設計されたタイコンデロガ級に近い、中等コンセプト(Mid-Mix)艦として設計された[6]。
船体
幅広な船体
本級の設計を特徴づけるのが幅広の船体である。従来の米軍艦ではL/B比の大きな細長い船体を採用していたが、特に第二次世界大戦後、アメリカ海軍軍人が同盟国やソビエト連邦の艦艇に便乗する機会があった場合、自国艦より荒天時の乗り心地が良いことが実感されていた。このことから、ソ連艦船の研究成果や、1960年代にNSRDC(Naval Ship Research and Development Center)で行われた研究を踏まえて、L/B比が小さく幅広で、トランサムに顕著なフレアを付し、艦首側形状も従来のU形ではなくV形にし、キールの上への反り返りも従来より艦尾側から始まるようにして、ビルジもより厳しくするなど、従来と大きく異なる設計案が作成された[6]。
しかしこの設計では、従来型の船体よりも造波抵抗が大きいという問題があったことから、NAVSEA部内では、これとあわせて従来通りの細長い船体の案も検討された。この時点で、1番艦がアーレイ・バーク提督にちなんで命名されることは決まっていたことから、バーク提督の「31ノット・バーク」という異名にあわせて、高速性能に優れた細長い船体のほうが良いのではないか、という冗談も飛ばされた[6]。しかし結局、いずれも一長一短で甲乙つけがたかったために、最終的にコイントスで決定されたという冗談のようなエピソードがある[12]。
この幅広船体は、確かに平水中での速力に劣る面はあったが、一方で荒天時の速力維持という面ではむしろ有利であり、ネームシップの海上公試では、波高35フィート (11 m)、風速60ノットという苛烈な海況においてすら30ノットの速力を維持できた[2]。
なお幅広船体によって増大した抵抗を少しでも低減するため、艦尾にはウェッジが付されており、後には燃費改善のため固定フラップも備えられた。またスプルーアンス級やタイコンデロガ級と同様にフィンスタビライザーは備えられていないが、本級では舵に減揺機能が組み込まれている[2]。
建造費削減のために配管などの部分をスプルーアンス級と共通にしたり、内火艇を廃止して7メートル級複合艇を搭載するなどの工夫をしている。イージスシステム関連の重量の問題から各所で軽量化に気を配っており、例えば投揚錨装置は主錨、副錨、揚錨機各1基という同規模の艦に比べて貧弱なものになっており、これは海上自衛隊では2,000トン程度の小型艦(DE)でのみ用いられる方式である[13]。
生残性の向上
DDGX研究では生残性の向上も対象になっており、その成果は本級にも盛り込まれた。外見上の特徴となっているのが傾斜船型で、これはレーダー反射断面積(RCS)低減のために導入されたものであった。また船室がコーナーリフレクターのような効果を示すのを防ぐため、舷窓には金属のメッシュが施された[6]。マストも、従来までの骨組みが剥き出しの伝統的なラティスマストではなく、平面を組み合わせた新型のマストとなっている。
抗堪性の観点から、本級では主船体のみならず上部構造物も全鋼製とされた。ただし傾斜船型の採用による上部重量増大に対応するため、マストや煙突にはアルミニウム合金が使用されている。またタイコンデロガ級や改修後のスプルーアンス級と同様に、本級でも枢要区画には装甲が施されており、戦闘指揮所周囲の70トンを含めて、艦全体ではケブラーおよびプラスチック装甲あわせて130トンに達する[2]。
主船体内は12の主隔壁により区分されている[13]。本級は、アメリカ軍艦として初めて包括的なNBC防護を導入した。艦内は与圧され、独立した給排気系を備えた複数のシタデルに分割されている[6]。
機関
基本的な機関構成はスプルーアンス級・タイコンデロガ級のものが踏襲されており、GE LM2500-30ガスタービンエンジン4基をCOGAG方式で組み合わせて可変ピッチ・プロペラ2軸を駆動している。本級では出力向上型のモデルが採用されており、当初はこれにあわせて推進器の新規開発が必要と見られていたが、後に既存の推進器でも対応可能であることが判明した[6]。
開発段階では、航続距離延伸のため、ガスタービンの排熱を回収して蒸気タービンを駆動するRACER(RAnkine Cycle Energy Recovery)システムの採用が検討されており、後日装備も予定されていたが、開発の遅延のために放棄された[6]。
機関区画は抗堪性に配慮してシフト配置とされており、第1・2機械室のあいだに中間区画として補機室を配置して抗堪性を確保している。本級では、中間区画の長さを十分に確保できなかったことから、隔壁に特殊な耐弾防御などの措置を講じているとされている[13]。
電源は、アリソン 501-K34ガスタービン発電機(2,500キロワット)を採用するという点ではタイコンデロガ級と同様だが、搭載数は3基に削減された[6]。1号主発電機は第1機械室、2号主発電機は第2機械室、3号主発電機は後部発電機室に設置されている[13]。またフライトIIIでは、発電機の出力は1基あたり4,000キロワットに増強される予定となっている[7]。
注釈
出典
- ^ a b c d e f g h i Saunders 2009, pp. 924–927.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Wertheim 2013, pp. 851–854.
- ^ a b c Friedman 2004, pp. 391–402.
- ^ a b c 大熊 2006, pp. 89–115.
- ^ a b Friedman 2004, pp. 402–407.
- ^ a b c d e f g h i j Friedman 2004, pp. 411–425.
- ^ a b c d 山崎 2016.
- ^ a b c Friedman 2004, pp. 425–429.
- ^ a b c 泉 2012.
- ^ a b Megan Eckstein (2021年6月4日). “US Navy creates DDG (X) program office after years of delays for large combatant replacement”. DefenseNews
- ^ U.S. Naval Institute Staff (2022年1月19日). “Report to Congress on DDG(X)”. USNI news
- ^ 『世界の艦船』1986年5月号、『ジェーン海軍年鑑』1983-84年版序文等。
- ^ a b c d e 海人社 2002.
- ^ a b c 岡部 2006.
- ^ a b c d e f 海人社 2010.
- ^ DOT&E 2016.
- ^ Polmar 2013, pp. 140–146.
- ^ 多田 2017.
- ^ Mark Zimmerman. “MK 41 Vertical Launching System (VLS)” (PDF) (英語). 2017年8月20日閲覧。
- ^ a b c d e 井上 2019.
- ^ a b 岡部 2012.
- ^ Aviation Week (2011年). “U. S. Navy Cruiser and Destroyer Modernization” (PDF) (英語). 2017年8月19日閲覧。
- ^ 稲葉義泰「米海軍イージス艦に「ダンボの耳」追加!? 取ってつけた巨大な張り出し これぞ“超能力”の証!」『乗りものニュース』、メディア・ヴァーグ、2024年3月14日。
- ^ GE Marine & Industrial Engines (1998年2月25日). “GE Delivers LM2500 Gas Turbines For U.S. Navy's DDG 80 Arleigh Burke-Class Destroyer” (英語). 2013年6月26日閲覧。
- ^ US Navy to name next destroyer after Medal of Honor recipient John Basilone - NAVALTODAY.COM(英語)。2016年8月15日、2016年9月5日閲覧。
- ^ Navy Awards General Dynamics Bath Iron Works $644 Million for Construction of DDG 51 Class Destroyer - ゼネラル・ダイナミクス公式サイト(英語)。2016年3月31日、2016年9月5日閲覧。
- ^ Document: Notice to Congress on 8 Proposed Navy Ship Names - USNI News(英語)。2016年8月3日、2016年9月5日閲覧。
- ^ David B. Larter (2020年3月7日). “Destroyers left behind: US Navy cancels plans to extend service lives of its workhorse DDGs”. Defense News
- ^ “米海軍、SPY-6搭載のジャック・H・ルーカスは期待通りの性能を発揮した”. grandfleet.info (2024年1月15日). 2024年1月24日閲覧。
- ^ David B. Larter (2020年10月13日). “US Navy eyes new design for next-generation destroyer”. Defense News
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