アルコール依存症 形成と特徴

アルコール依存症

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/10/07 14:30 UTC 版)

形成と特徴

通常は飲酒行動を、主にアルコールによって得られる肉体的・精神的変容に求めることが多いが、初めのころは毎日飲むわけではなく、何かの機会に時々飲むだけという機会飲酒から始まる。しかし、何らかの原因で毎日飲む習慣性飲酒に移行することも多く、習慣性飲酒となると同じ量の飲酒では同じように酔うことができなくなり、次第に飲酒量が増えていくことになる(耐性の形成)。つまり、アルコール依存症になることはこの「習慣性飲酒」と深い関係があるということになる。もちろん、習慣性飲酒をする者すべてがアルコール依存症患者であるとは言えないが、何らかのきっかけがあればさらに飲酒量が増え、いつの間にか依存症に陥ってしまうという危険性は充分はらんでいると言える。

一見すると本人が自分の判断で好んで飲酒しているようにみえ、患者自身も好きで飲酒していると錯誤している場合が多い。そのため、患者にアルコール依存症のことを告げると「自分は違う」などと激しく拒絶をされることも多々あり、否認の病気とも言われている[4]。しかし、依存が重度になると断酒によって肉体的・精神的に離脱症状(禁断症状)が出るため、楽しむためではなく離脱症状を避ける目的で飲酒を繰り返すことになる[4]。このような状態に陥ってしまうと、もはや自分の意志だけで酒を断つことが極めて困難となる(セルフコントロールの喪失)[4]

また、アルコール依存症の形成を助長するものとして、アルコール依存症になる人の周囲には、酒代になりうる小遣いを提供したり、過度の飲酒で生じる社会的な数々の不始末(他人に迷惑をかける、物品を壊す、等)に対して本人になり代わり謝罪したり、飲酒している本人の尻ぬぐいをする家族など、イネーブラー (enabler) が存在することが多い[17]。イネーブラーは飲酒している当人の反省を必要とさせず、延々と過度に飲酒することを可能にしてしまうとされる。逆に、一切のイネーブラーがいなくなったり、医師から死を宣告されたりしたことをきっかけに、本人が「底つき体験」(「どん底体験」ともターニング・ポイントとも呼んだりする[17]。“このままでは大変なことになる”という意識の発生)をし、それをきっかけにアルコール依存症から立ち直ることがある[17]セルフコントロール不能のアクセプタンス[4]

さらに、アルコール依存症者の配偶者などには、アルコール依存症者に必要とされることを必要とする共依存 (co-dependency) の状態に陥っている人もいる[17][4]。そのため、アルコール依存症者本人以外の家族も問題となっている可能性もあり、アルコール依存症者本人の治療だけでなく、その配偶者などに対しても正しいカウンセリングなどが必要となるケースもある[17][4]

この他にも、アルコール依存症患者の症状およびその周囲を取り巻く社会への影響から、この病気は次のような特徴を持っている。

進行性疾患
自分が依存的に飲酒していると気付かずにそれを続けるとさらに飲酒量が増えて症状が悪化し、悪循環に陥る。
慢性疾患
一度依存に陥ると回復が極めて困難である。いわゆる「上手に酒を飲む」ということができなくなる。
人格変化を引き起こす疾患
依存に陥ったことを否認するため、周囲のせいにしたりして攻撃的・他罰的・自己中心的な性格になる。あるいは逆に自分のせいにして自虐的になり、後悔・不安・孤独に苛まれるようになる。また、アルコールの入っていない状態であっても酔っているとき同じような言動をする「ドライドランク」と呼ばれる状態になることもしばしばある。
不治の疾患
アルコール依存症になった者が元の機会飲酒者に戻ることはほとんど不可能であるとされている。たとえ身体的に回復し、数年にわたる断酒を続けていた者であっても、一口でも飲酒をすることによって再び元の強迫的飲酒状態に戻ってしまう可能性が非常に高い。そして、進行性の病気であるためにさらに症状は悪化していく。つまり、悪くなることはあっても、決して良くなることはない病気であり、寛解(かんかい)の状態で再発つまり再飲酒をどう防ぐかが治療の重要な点となる。
死に至る疾患
適切な対処をしなければ、内臓疾患あるいは精神ストレスなどによる自殺または事故死など、何らかの形で死に至る場合が多い。アルコール依存症者の予後10年の死亡率は30 - 40パーセントと非常に高く、節酒を試みた患者と通常に飲酒した患者とでは死亡率に差が見られず、断酒することによってのみ生存率が高まる[18]
機能不全家族の形成要因
飲酒による問題行動により、その家族は常にストレスに苛まれることになる。家族は常に飲酒をやめさせることばかり考えるようになり、家族まで精神疾患を罹患してしまうケースも少なくない。家族との信頼関係の亀裂に始まり、別居や離婚へと発展して家族が崩壊する原因となったりする。
アダルトチルドレン(AC、Adult Children of Alcoholics アルコール依存症の親のもとで育ち、成人した人々)の語源となっているように、アルコール依存症者のいる家庭での家族に与える影響は多大なものであり、特に親から子へアルコール依存などの嗜癖問題が世代間で伝播する現象がよく見られる。そのため、アルコール依存症は患者本人だけの問題ではなく、家族全体を巻き込み、特に機能不全家族の形成を助長する。

男女差

女性は、男性に比べ一般的に体が小さいこと、体内の水分率が男性より低いこと、女性ホルモンはアルコール代謝を阻害する要因となることなどから、同じ量のアルコールを摂取しても男性の2倍悪影響が出ると言われている。アルコール依存症患者は、飲酒歴が長期に渡っているのが特徴であるが、女性の場合短期の飲酒歴でかつ飲酒量が比較的少量でも急速にアルコール依存症となってしまう危険がある。ギリシャ語で“酒に酔わない”というところから、アルコール依存症になった女性をアメシストと呼ぶこともある。

一説によると、習慣飲酒からアルコール依存症への進行の期間は男性で約10年、女性では約6年であるとも言われている。




[ヘルプ]
  1. ^ The global burden of disease: 2004 update (Report). 世界保健機関. Part.4 Table 12: Leading causes of burden of disease (DALYs), all ages, 2004. ISBN 9241563710. http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/. 
  2. ^ a b c d B.J.Kaplan; V.A.Sadock 『カプラン臨床精神医学テキスト DSM-5診断基準の臨床への展開』 (3版) メディカルサイエンスインターナショナル、2016年5月31日、Chapt.20.2。ISBN 978-4895928526 
  3. ^ a b c d e f g h i 英国国立医療技術評価機構 2011, Introduction.
  4. ^ a b c d e f g h i j k 信田さよ子 『依存症』 文芸春秋、2000年6月ISBN 978-4166601080 
  5. ^ a b 世界保健機関 2010, ALC.
  6. ^ Kohn R, Saxena S, Levav I, Saraceno B (2004). “The treatment gap in mental health care”. Bull. World Health Organ. (世界保健機関) 82 (11): 858–66. PMC 2623050. PMID 15640922. http://www.who.int/bulletin/volumes/82/11/khon1104abstract/en/. 
  7. ^ 病棟へ凶器持ち込み…アルコール幻覚症で隣室患者惨殺 サンケイスポーツ 2005年6月4日
  8. ^ Galanter, Marc; Kleber, Herbert D. (2008-07-01). The American Psychiatric Publishing Textbook of Substance Abuse Treatment (4th ed.). United States of America: American Psychiatric Publishing Inc. p. 58. ISBN 978-1-58562-276-4. http://books.google.com/?id=6wdJgejlQzYC. 
  9. ^ Dart, Richard C. (2003-12-01). Medical Toxicology (3rd ed.). USA: Lippincott Williams & Wilkins. pp. 139?140. ISBN 978-0-7817-2845-4. http://books.google.com/?id=qDf3AO8nILoC. 
  10. ^ Idemudia SO, Bhadra S, Lal H (June 1989). “The pentylenetetrazol-like interoceptive stimulus produced by ethanol withdrawal is potentiated by bicuculline and picrotoxinin”. Neuropsychopharmacology 2 (2): 115?22. doi:10.1016/0893-133X(89)90014-6. ISSN 0893-133X. PMID 2742726. 
  11. ^ Chastain, G (October 2006). “Alcohol, neurotransmitter systems, and behavior.”. The Journal of general psychology 133 (4): 329?35. doi:10.3200/GENP.133.4.329-335. ISSN 0022-1309. PMID 17128954. 
  12. ^ Martinotti G; Nicola, MD; Reina, D; Andreoli, S; Foca, F; Cunniff, A; Tonioni, F; Bria, P et al. (2008). “Alcohol protracted withdrawal syndrome: the role of anhedonia”. Subst Use Misuse 43 (3?4): 271?84. doi:10.1080/10826080701202429. ISSN 1082-6084. PMID 18365930. 
  13. ^ Stojek A; Madejski, J; Dedelis, E; Janicki, K (May?June 1990). “[Correction of the symptoms of late substance withdrawal syndrome by intra-conjunctival administration of 5% homatropine solution (preliminary report)]”. Psychiatr Pol 24 (3): 195?201. ISSN 0033-2674. PMID 2084727. 
  14. ^ Le Bon O; Murphy, JR; Staner, L; Hoffmann, G; Kormoss, N; Kentos, M; Dupont, P; Lion, K et al. (August 2003). “Double-blind, placebo-controlled study of the efficacy of trazodone in alcohol post-withdrawal syndrome: polysomnographic and clinical evaluations”. J Clin Psychopharmacol 23 (4): 377?83. doi:10.1097/01.jcp.0000085411.08426.d3. ISSN 0271-0749. PMID 12920414. 
  15. ^ Sanna, E; Mostallino, Mc; Busonero, F; Talani, G; Tranquilli, S; Mameli, M; Spiga, S; Follesa, P et al. (2003-12-17). “Changes in GABA(A) receptor gene expression associated with selective alterations in receptor function and pharmacology after ethanol withdrawal”. Journal of Neuroscience 23 (37): 11711?24. ISSN 0270-6474. PMID 14684873. http://www.jneurosci.org/cgi/content/full/23/37/11711. 
  16. ^ Idemudia SO, Bhadra S, Lal H (June 1989). “The pentylenetetrazol-like interoceptive stimulus produced by ethanol withdrawal is potentiated by bicuculline and picrotoxinin”. Neuropsychopharmacology 2 (2): 115?22. doi:10.1016/0893-133X(89)90014-6. PMID 2742726. 
  17. ^ a b c d e f g h i j k 春日武彦 『援助者必携 はじめての精神科』 (2版) 医学書院、2011年12月、126-131頁。ISBN 9784260014908 
  18. ^ アルコール依存症の治療と回復―慈友クリニックの実践 世良 守行, 米沢 宏, 新貝 憲利
  19. ^ 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.2.1.4.
  20. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.3.3.
  21. ^ a b c d 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.3.6.
  22. ^ 山本由紀; 長坂和則 『対人援助職のためのアディクションアプローチ:依存する心の理解と生きづらさの支援』 中央法規出版、2015年10月2日ISBN 978-4805852538 
  23. ^ a b c d e f g 世界保健機関 2010, ALC1.
  24. ^ a b c 英国国立医療技術評価機構 2010, Chapt.1.1.3.
  25. ^ a b 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.3.5.
  26. ^ 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.3.5.7.
  27. ^ 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.3.1.
  28. ^ Lindsay, S.J.E.; Powell, Graham E., eds (1998-07-28). The Handbook of Clinical Adult Psychology (2nd ed.). Routledge. p. 402. ISBN 978-0-415-07215-1. http://books.google.com/?id=a6A9AAAAIAAJ&pg=PA380. 
  29. ^ Gitlow, Stuart (2006-10-01). Substance Use Disorders: A Practical Guide (2nd ed.). USA: Lippincott Williams and Wilkins. pp. 52 and 103?121. ISBN 978-0-7817-6998-3. http://books.google.com/?id=rbrSdWVerBUC. 
  30. ^ Kushner MG, Abrams K, Borchardt C (March 2000). “The relationship between anxiety disorders and alcohol use disorders: a review of major perspectives and findings”. Clin Psychol Rev 20 (2): 149?71. doi:10.1016/S0272-7358(99)00027-6. PMID 10721495. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0272-7358(99)00027-6. 
  31. ^ 英国国立医療技術評価機構 2011, Chapt.1.2.2.6.
  32. ^ Poulos CX, Zack M (November 2004). “Low-dose diazepam primes motivation for alcohol and alcohol-related semantic networks in problem drinkers”. Behav Pharmacol 15 (7): 503?12. doi:10.1097/00008877-200411000-00006. ISSN 0955-8810. PMID 15472572. 
  33. ^ Global status report on alcohol and health 2014. World Health Organization. (2014). p. s8,51. ISBN 9789240692763. http://www.who.int/substance_abuse/publications/global_alcohol_report/msb_gsr_2014_1.pdf?ua=1. 
  34. ^ Global Population Estimates by Age, 1950–2050”. 2015年5月10日閲覧。
  35. ^ OECD 2014, p. 75.
  36. ^ 精神科病院入院患者の状況 (PDF) NCNP 国立精神・神経センター
  37. ^ 被保護者調査 - 平成25年 (Report). 厚生労働省. (2015). Table.5-1. GL08020101. http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html. 
  38. ^ The National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism; U.S. Department of Health and Human Services, NIH News (2005年1月18日). “2001-2002 Survey Finds That Many Recover From Alcoholism”. National Institutes of Health. 2011年8月18日閲覧。
  39. ^ Catherine Le Galès-Camus (2004) (PDF). Global Status Report on Alcohol 2004. World Health Organization. ISBN 92-4-156272-2. http://www.who.int/substance_abuse/publications/global_alcohol_report/msbgsruprofiles.pdf. 
  40. ^ 2016年6月11日 読売新聞
  41. ^ 半年間「無職」の国民に罰金、奉仕活動の強制 ベラルーシ CNN 2015.04.18 Sat posted at 16:11 JST(2017年10月7日閲覧)







アルコール依存症と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

カテゴリ一覧

全て

ビジネス

業界用語

コンピュータ

電車

自動車・バイク

工学

建築・不動産

学問

文化

生活

ヘルスケア

趣味

スポーツ

生物

食品

人名

方言

辞書・百科事典

すべての辞書の索引

「アルコール依存症」の関連用語

アルコール依存症のお隣キーワード

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   
検索ランキング

画像から探す

さぬきうどん

920T

BMW 3 シリーズ・セダン

FXDWG

クーロン

ボルボV50

マジェスティC

イグアノドン・アセルフィルデンシス





アルコール依存症のページの著作権
Weblio 辞書情報提供元は参加元一覧にて確認できます。

  
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアルコール依存症 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2017 Weblio RSS