アオコ アオコの概要

アオコ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/08 23:45 UTC 版)

アオコが大発生した津久井湖

概要

水の華の一形態で、藍藻だけではなく、緑藻ミドリムシによるものもアオコと呼ぶ場合もあるが、近年では藍藻主体である場合を指すことが多い。アオコに似た現象としては、ミドリムシの大増殖や浮草の浮遊、緑藻の繁殖などが挙げられ、専門家でも見間違う場合がある[1]

アオコには独特の臭いがあり[1]、発生場所や季節によって緑色の程度が異なる[1]。甚だしいものは、ペンキに喩えられるほど色が濃くなる。

かつて「アオコ」の呼称は、構成藻類の代表種 Microcystis aeruginosa の別名として使われた。この藍藻はガス胞を持ち、寒天質で覆われた群体を形成するため、アオコとして観測されやすい。

湖沼や環境、季節によって、観察される種は変化する。以下はよく見られる属名。

藍藻
  • ミクロキスティス属 Microcystis
  • アナベナ属 Anabaena
  • アナベノプシス属 Anabaenopsis
緑藻

被害

アオコが発生すると様々な不都合が生じる。

人間社会においては、湖沼自体の利用障害となる(例えばをはじめとする養魚、淡水漁業、近隣の生活環境、親水観光産業など)ほか、取水源として利用する水道水の異臭・異味の原因となったり、さらには人や家畜への健康被害も懸念される[1]。2007年に中国の太湖でアオコが大発生した際には、住民の飲用水確保が大きな問題となった[1]。また、湖沼周辺の生態系など自然環境を損なうおそれも高い。

遮光によるもの
水面をアオコが覆うと、水草などの水生植物は光合成ができず死滅する[1]。水草の森は、魚類の産卵や稚魚の成育場所として重要であり、その消滅は生態系の破綻を招くおそれがある。
酸欠によるもの
夜間の呼吸作用により溶存酸素が消費され、魚類などの動物が酸素欠乏により死滅する。湖沼は河川に比べて酸素の供給効率が低く、新鮮水による洗い流し効果も無いため、酸欠を招きやすい。また、アオコの死骸が湖底で腐敗すると、硫化水素などの還元性物質が発生し、やはり酸素を消耗する。
毒素によるもの
藍藻には非リボソームペプチドであるミクロシスチン (Microcystin-LR、略:MC-LR)などの毒素を生産する個体群が含まれており[2]赤潮と同様に魚類のエラを閉塞させ窒息させるほか、毒素によりカモなどの鳥類(アイガモ)の肝臓組織に蓄積し斃死を引き起こす[3]ことがある。また、アメリカオーストラリアなど放牧が盛んな国では、飲用した家畜の斃死被害が多発している[1]。ヒトに対しても、1996年にブラジルで、肝不全による死者50名を出す事件が報告されている[4]ほか、発癌性(肝臓ガン)も指摘されている。

対策

浄水場での高度処理など各種の対策が研究・実用化されているが、アオコそのものを減少・消滅させるためには、湖沼の富栄養化を解消(特にリン濃度を低下)するなど根本的な対策が必要となる。すなわち下水処理における脱リン・脱窒素の高度処理の導入、流域農地での肥料使用量の適正化などである。

一方、対症療法的にアオコを増殖抑制或いは除去する技術の例(技術開発中を含む)として、

  1. 汲み上げろ過(湖沼水を汲み上げ、アオコを漉し取って水を戻し、アオコは脱水、処分する)
  2. 深層曝気(アオコが植物であることを利用し、光の届かない湖底へ送り込んで不活化する。腐敗を抑えるため、曝気して行う)
  3. 硫酸銅などの殺藻剤の利用
  4. バクテリアを利用
  5. 炭素繊維[5]と鉄を使った除去装置。2011年に館林・つつじが岡公園で実証実験[6][7]
  6. 超音波によりアオコを破壊[8][9][10][11] 、2013年には実証試験が八郎湖で行われた[12][13]
  7. 超高圧水中衝撃波[14]

など様々あるが、低コストで実用的な手法は得られていない。


  1. ^ a b c d e f g h アオコってなに?”. 京都大学生態学研究センター. 2023年7月11日閲覧。
  2. ^ 白井誠:アオコの毒性に関する研究 『マイコトキシン』 1996年 1996巻 42号 p.3-5, doi:10.2520/myco1975.1996.3
  3. ^ 中村剛也, 渡邊琴文, 石川可奈子 ほか、琵琶湖磯漁港のアイガモ斃死試料中の藍藻毒素microcystin-LRの蓄積 『日本鳥学会誌』 2013年 62巻 2号 p.153-165, doi:10.3838/jjo.62.153
  4. ^ ブラジルで透析患者50人が死亡 (マイクロシスチンに汚染された水を使用) 愛知県衛生研究所
  5. ^ 蒲生孝治、「カーボン西陣織による陸水域の自然再生」 『京都女子大学現代社会研究』 京都女子大学現代社会学部 紀要論文 2009年 第12号, hdl:11173/437
  6. ^ 「館林・つつじが岡公園 アオコ除去実験 成果着々 炭素と鉄で透明な池に」上毛新聞 2011年10月22日、社会18面
  7. ^ 館林・つつじが岡公園 池の透明度4倍に 炭素繊維と鉄で浄化 Archived 2014年12月24日, at the Wayback Machine. 上毛新聞ニュース 2012年1月14日
  8. ^ 湖沼・ダム湖水質改善に関する技術開発 西日本技術開発株式会社
  9. ^ 超音波を用いた水の華(アオコ)の制御 (PDF)
  10. ^ アルジーハンター, アオコキラー イービストレード株式会社
  11. ^ 超音波藻類処理 ウィンテックス株式会社
  12. ^ 八郎湖のアオコ悪臭防止へ実証試験 県が今夏、2河川で 47NEWS 2013年3月21日
  13. ^ アオコ抑制装置設置等業務委託プロポーザルの審査結果について Archived 2015年6月22日, at the Wayback Machine. 秋田県 環境管理課八郎湖環境対策室
  14. ^ 鈴木実, 安西竜也:超高圧水中衝撃波によるアオコの死滅処理(水中衝撃波の発生法及び微生物への影響) 『日本機械学会論文集B編』 Vol.79 (2013) No.801 p.799-803, doi:10.1299/kikaib.79.799


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