ねじ 標準規格

ねじ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 00:40 UTC 版)

標準規格

ねじはその構造上、互換性が非常に重要であり、早くから標準規格が規定された。その主なものを以下に示す。これらの主な標準規格の他にもそれぞれの業界ごとや企業ごとの規格が存在する。なお、小ねじの頭の表面に小さなくぼみが付いているものはISO規格に沿っているという印であり、日本ではJIS認定工場でのみ付けることが許される[39]

メートル単位系を用いたものは「メートルねじ」と呼ばれ、インチ単位系を用いたものを「インチねじ」と呼ばれる。一般にメートルねじでのねじのピッチは1ピッチあたりの長さを「ミリ」で表すのに対して、インチねじでは、「軸方向1インチあたりの山数」で表される[40][12]

ISOメートルねじ
国際標準化機構(ISO)で規定された汎用のメートル三角ねじである。ねじ山の角度60度。接頭記号「M」で識別される。日本やヨーロッパ各国で広く使われている。日本産業規格(JIS)では呼び径に対するピッチの細かさによって、標準的なピッチの「並目」と、それより細かい「細目」とに分けて規格が採用されている。
ユニファイねじ(ISOインチねじ)
ISOで規定された汎用のインチ三角ねじである。ねじ山の角度60度。接尾記号「UN」で識別される。ねじ山は角度60度。汎用として、呼び径に対するピッチの細かさにより「並目」(UNC)、「細目」(UNF)、「極細目」(UNEF) が規定される他、航空宇宙機器用 (UNJ) がある。日本では航空機などごく一部での採用にとどまるが、米国では広範に使用されている。日本のJISには並目と細目のみが採用されている。
ウイットワースねじ
ねじ山の角度55度のインチ三角ねじである。1834年に世界に先駆けて、イギリス人のホイットワース(Whitworth)により考案された。JISでも規定されていたが、1965年に廃止されている。日本では主に建築分野で使用される。
管用テーパねじ
テーパおねじとテーパまたは平行めねじの組み合わせで使用され、気密性を必要とする管の接続に使われる。ねじ山の角度55度のインチ三角ねじで、テーパの傾きは16分の1である。最初にイギリスで規格化され、その後はJISにも導入されて日本でも広く使われている管用ねじである。その後ISOにより国際標準化された。ISOではテーパおねじ、テーパめねじ、平行めねじをそれぞれ接頭記号「R」「Rc」「Rp」で識別するが、JISの当該規格がISOに準拠する以前はテーパねじ(おねじ・めねじ共)を「PT」、平行めねじを「PS」とそれぞれ呼んでおり、現在でも慣用的に旧式の呼称が用いられる事がある。また、殆どの場合R・Rc・Rpと、PT・PSとは同義であるが、一部にISOには規定されていない呼び寸法がある。
アメリカ管用ねじ
管の接続に使われるねじ山の角度60°のインチ三角ねじである。テーパねじと平行ねじとがあり、テーパねじにおけるテーパの傾きは16分の1である。日本では一般用管用テーパねじ「NPT」や気密管用テーパねじ「NPTF」(共に接尾記号)が使用される。

注釈

  1. ^ "bolt"は「矢」や「稲妻」から、"nut"は「硬い木の実」を語源とする。
  2. ^ ホイットワースが55度という半端な数値を選択したのは、当時のイギリス工業界で流通していた多様なねじ山角度のうち、代表的なもの大方を集計した結果の平均値であったことによる。つまり技術的優位性ではなく、規格統一実現を目的に工業界全体の同意を取り付けることを優先した結果の産物であった。55度のねじ山角度は計算上半端なため、ねじ加工を行う工作機械設計の面では不利であり、ウィットウォースねじよりも後発で制定されたアメリカのセラーズねじ以降、角度算出・製図に適した60度ねじ山が一般化した。
  3. ^ 第二次世界大戦中の1943年には、ドイツの潜水艦で精密転造盤が日本に運ばれるほど、当時は高度な技術だった。
  4. ^ 「左ねじ」は動力工具の回転刃の固定、扇風機模型航空機の回転翼(プロペラ)の固定、船外機スクリュープロペラの固定、レシプロエンジンの左側クランク軸の固定、左側の車輪などの固定に使われる場合がある。またボンベにおいては可燃性ガスのボンベの口金は誤結を防ぐために充填する気体によって形状を異なったものにする規定となっており、ヘリウム水素・医療用亜酸化窒素(いわゆる笑気ガス)などは左ねじが使われている千代田溶断機カタログ2013(溶断用)pp.163-164” (pdf). 千代田精機. 2017年4月28日閲覧。高圧ガスのバルブ、継手形状”. 大東医療ガス. 2017年5月12日閲覧。
  5. ^ ピッチが細かなねじは一般にねじ部での締結力が強くなるが、ピッチの粗いねじに比べて多く回転させる必要があり作業性が劣る。
  6. ^ 不完全ねじ部は、JISでは長さに幅を持たせているだけでなく、山や谷の形状についても規定していない。必要ならばねじメーカーとユーザーの間での確認や協議が求められる。
  7. ^ 座面角度が60度[要出典]で小頭の皿小ねじ(JIS規格外)[18]、座面が円弧状になったトランペットねじ(JIS B1125 参照)[19]というものもある。
  8. ^ 超低頭ねじでは、M5で頭部の厚みが1.2 mmほど、M3では0.7 mmほどしかない。
  9. ^ 本来、「ねじ山」とはねじ軸に刻まれた螺旋の溝・歯を指すので、ねじ頭の一本線や十時に切った溝や四角・六角の穴を「ねじ山」と呼ぶのは間違いである。「ねじ頭の溝」と呼べば間違いはない。
  10. ^ 工具を使った締結時にズレの少ない「十字穴」や「トルクス」のようなねじの方が、作業性が高く大きなトルクにも対応できるため、「すりわり」を持った頭のねじは減少している。
  11. ^ 「フィリップス形」の名前は、米国のフィリップス・スクリュー社が1933年にJ.P.Thompsonの発明した特許を買い取り発売したことに由来する。
  12. ^ 「ロバートソン形」の名前は、カナダの発明家ピーター・L・ロバートソンが1907年に特許を取得。カナダにあったフォードの関連工場などに採用された。
  13. ^ "TORX"(トルクス)と"TROX PLUS"(トルクス・プラス)は、共に米カムカー(Camcar)社(CAMCAR DIVISION OF TEXTRON Fastening System Inc.)の登録商標である。
  14. ^ 携帯ゲーム機の筐体などを締める時に、使われているねじがこれである。
  15. ^ 球状の先端部も持つねじは「作用性向上ねじ」や「傷防止ねじ」と呼ばれ、取り付け時に不用意に取り付け面に先端部が当っても傷を付けないように考慮されている。
  16. ^ コーススレッドは木ねじよりも歯のピッチが粗い他は概ね似た形状である[26]
  17. ^ 戻り止めナットの一種とされる「ナイロンインサート付きプリベリングトルク形六角ナット」には軸直角振動方式ねじ緩み試験では緩み止め効果は無かったとされる。
  18. ^ 一般的なねじの種別の1つとしてのロックナットに加えて、自動車用のホイール用ナットでの盗難防止用のナットもロックナットと呼ばれるため、状況により区別が必要である。
  19. ^ 一般の木ねじより比較的大きい木ねじで、四角コーチねじと六角コーチねじとがある。
  20. ^ 「タッピンねじ」はJISでは、1種から4種までが規定されている。ホームセンター等で容易に入手できるタッピンねじは、1種である。2種と3種は先端が切り落とされて溝が切られており、2種は3種よりねじ山の間隔が広く3種は普通のねじに近くねじ山の間隔が狭い。4種は先端が尖っている。
  21. ^ ここで言う「スペーサー」とは、長ねじなどを通して支柱を構成する金属製などの円筒形の部品である。
  22. ^ 座金の使用目的の1つであるボルトのバネ定数の縮小とは、ボルトが軸方向でバネのように伸びが大きくあると座面やねじ面での初期緩みを吸収してなお軸力を維持する余力が生まれる。バネ定数の縮小のためには、ボルトが長いほうが有利であるが座金を噛ませることで距離が稼げてバネ定数の縮小に繋がる。
  23. ^ 座金の使用目的の1つである漏洩防止とは、ボルト穴が潤滑油の流路になっている場合などで、特殊な座金(ガスケットと呼ばれる場合がある)を使って油の漏洩を防ぐことがある。
  24. ^ 座金で斜面の補正を行うとは、座面が傾いている場合に傾きに合った座金を噛ますことでボルトとナットを軸に直角な面へ適正に締め付けを行うことである。
  25. ^ 熱間圧造では、材料を約1,250℃にまで加熱してから加工を行う。
  26. ^ 転造法による製造は、おねじと比較的小径のめねじに対して用いられ、とくに転造盤によるおねじの生成は、適度な精度での大量生産には欠かすことのできないものとなっている。平ダイス式転造盤と丸ダイス式転造盤では毎分数十本程、プラネタリ式転造盤では毎分千数百本程が転造できる。このように転造は量産に向いているが、ねじ山の大きさやピッチの違いごとに異なるダイス類を用意して保管し、品種の異なる作業ごとに交換するなど、コストと手間が掛かる。
  27. ^ ニッケルクロム鋼(SNC)は、鉄に炭素0.12-0.40%、ニッケル1.0-3.50%、クロム0.20-1.00%を加えたものである。耐食性、耐摩耗性に優れる。
  28. ^ クロムモリブデン鋼(SCM)は、鉄に炭素0.13-0.48%、クロム0.90-1.20%、モリブデン0.15-0.30%を加えたものである。焼き入れ性が良好で、機械的性質に優れる。
  29. ^ ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)は、鉄に炭素0.12-0.43%、ニッケル0.40-4.50%、クロム0.40-3.50%、モリブデン0.15-0.70%を加えたものである。焼き入れ性が他の鋼種より優れ、引っ張り強さ、粘り強さに優れる。
  30. ^ 製鋼メーカーが作る「冷間圧造用炭素線材」(SWRCH, carbon steel wire rods for cold heading and cold forging)を元にして伸線メーカーがSWCH材を作ることが一般的である。
  31. ^ リムド鋼は鋳隗を作る時に特別な脱酸素剤を入れないので激しく火花を飛ばしながら固まり、塊の縁にリムが付く。キルド鋼は鋳隗を作る時に脱酸素剤を入れるので鋳込む時もガスを出さずに死んだように静かに注がれる。アルミキルド鋼は脱酸素剤としてアルミを入れるものである。一般にはリムド鋼よりキルド鋼の方が組織が均一となって優れる。
  32. ^ “PEEK”(ピーク)はビクトレックス社の登録商標である[48]
  33. ^ 初期緩みによるトラブルを回避するために、1度ねじを締め付けてからしばらく後に再び締め付け直す「増し締め」と呼ばれる作業を行うことがある。
  34. ^ (社)日本建設業連合会・建築本部・鉄骨専門部会『鉄骨工事Q&A』(2011.7.1)B.工事現場施工 1.建方1-6「アンカーボルトのダブルナットの上ナット締付に規定はあるか?」(2012.9.1)にその回答として、誤った施工方法を記載しており、事例は大型の鉄骨プレハブ住宅など身近に多く見られる。
  35. ^ 偏心テーパ二重ナットには「ハードロックナット」という商品名の製品が存在する。

出典

  1. ^ a b c 意匠分類定義カード(M3) 特許庁
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 田村 2008.
  3. ^ 【探訪 地方の豪族企業】日東精工(京都府綾部市)『日経産業新聞』2017年10月14日
  4. ^ リプチンスキ 2003, p. 125.
  5. ^ a b c 門田 2010, p. 12.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o ねじの歴史”. 姫路市電子じばさん館(姫路市・公益財団法人 姫路・西はりま地場産業センター). 2020年8月1日閲覧。
  7. ^ a b 山本 2003, p. 20.
  8. ^ 山本 2003, pp. 21–22.
  9. ^ a b 山本 2003, pp. 22–23.
  10. ^ 門田 2010, pp. 12–13.
  11. ^ 門田 2007, pp. 73–74.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l 門田 2009.
  13. ^ 門田 2007, pp. 74–75.
  14. ^ 門田 2007, p. 100.
  15. ^ 門田 2007, pp. 33–35.
  16. ^ 門田監修 2007, p. 111.
  17. ^ 門田 2007, pp. 22–23.
  18. ^ 門田監修 2007, pp. 40–41.
  19. ^ 門田監修 2007, pp. 78–79.
  20. ^ a b 門田 2007, pp. 33–44.
  21. ^ a b 門田 2007, pp. 180–182.
  22. ^ a b 門田監修 2007.
  23. ^ 前田知洋 (2018年6月12日). “そのドライバー、間違ってる!? 意外と知られていないネジとドライバーのスペック”. 角川アスキー総合研究所. 2022年4月7日閲覧。
  24. ^ 門田監修 2007, p. 42.
  25. ^ 六角穴付ボルト(キャップボルト)/よくわかる規格ねじ”. www.urk.co.jp. 2020年9月20日閲覧。
  26. ^ a b 門田監修 2007, p. 82.
  27. ^ 門田 2007, pp. 36–38.
  28. ^ 門田監修 2007, pp. 112–113.
  29. ^ 門田監修 2007, p. 48.
  30. ^ 門田監修 2007, p. 50.
  31. ^ a b 門田 2007.
  32. ^ 門田 2007, p. 44.
  33. ^ タッピンねじ”. 株式会社ツルガ( http://www.tsurugacorp.co.jp/ ). 2016年7月28日閲覧。
  34. ^ a b c 山本 2003, p. 45.
  35. ^ 門田 2007, pp. 49–51.
  36. ^ 山本 2003, p. 46.
  37. ^ 門田監修 2007, pp. 96–97.
  38. ^ 門田 2007, pp. 53–54.
  39. ^ 門田監修 2007, p. 55.
  40. ^ 門田 2007, p. 24.
  41. ^ 門田監修 2007, pp. 46–47.
  42. ^ a b 門田 2007, pp. 101–140.
  43. ^ 門田 2007, pp. 163–164.
  44. ^ 門田監修 2007, p. 47.
  45. ^ 門田 2007, pp. 101–115.
  46. ^ 門田監修 2007, p. 69.
  47. ^ 門田 2007, pp. 161–164.
  48. ^ 門田 2007, p. 163.
  49. ^ 門田 2007, pp. 165–170.
  50. ^ a b 門田監修 2007, pp. 116–117.
  51. ^ 門田 2007, pp. 144–147.
  52. ^ 門田 2007, pp. 80–84.
  53. ^ 門田監修 2007, p. 31.
  54. ^ 第7話 ねじの締めつけ管理方法 | NBK【鍋屋バイテック会社】”. 鍋屋バイテック会社. 2021年5月3日閲覧。
  55. ^ 山本 2003, pp. 76–84.
  56. ^ 山本 2003, pp. 74–75.
  57. ^ 門田 2007, pp. 85–91.
  58. ^ 山本 2003, p. 75.
  59. ^ 門田 2007, pp. 91–93.
  60. ^ 門田 2007, pp. 174–178.
  61. ^ 山本 2003.
  62. ^ 門田 2007, p. 171.






ねじと同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ねじ」の関連用語


2
100% |||||

3
100% |||||

4
100% |||||

5
100% |||||

6
100% |||||

7
100% |||||

8
100% |||||

9
100% |||||

10
100% |||||

ねじのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ねじのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのねじ (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS