うどん
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/23 09:44 UTC 版)
概要
手軽な庶民食、米飯と同様に主食として、また、祝い事に際して振る舞われる「ハレ」の食物として、古くから日本全国で食べられてきた。地域によって調理法や具材が異なる。
麺を大きな鍋で茹で上げる場合には、鍋の周囲に引っかけた状態で茹でられるよう、金属製あるいは竹製で深いザル状の「鉄砲ざる」(略して「テボ」「てぼざる」とも言われる)が用いられることも多い。
供する器には、丼(かけうどん)や、皿(うどん鉢など)、ざる(ざるうどんなど)、鍋(鍋焼きうどん)のほか、桶(うどん桶)、たらい(たらいうどん)なども用いられる。
専門店以外にも、蕎麦も並行して提供する店舗があるほか(立ち食いそば・うどん店など)、外食チェーン店などのメニューともなっている。また、麺のみの販売もスーパーマーケットなどで乾麺、茹で麺、生麺の状態で行われており、カップ麺としても多くのメーカーが多様な種類を販売している。価格帯も幅広い。
自動販売機による販売も行われており、カップ麺タイプ(パッケージがそのまま出てくるものや、湯を注ぎ完成したカップ麺が出てくるもの[1])だけでなく、完成された温かいものが出てくるタイプ(冷蔵麺を茹で→湯切り→温かいつゆを注ぐ→完成という工程を踏んでいる)も存在する[2]。
歴史
発祥には諸説あり定かではないが、時代順に並べると以下のようになる。
- 遣唐使の一行が索麺の製法を、遣唐使船の寄港地であった肥前国 松浦郡 上五島の人々に真っ先に伝えた説。中国・浙江省岩坦地区に現存する「索麺」の製造方法が、五島うどんの製造方法に酷似しており、素麺発祥と謳っている三輪素麺に素麺を供給していた島原素麺などの製麺技術が古代から同地域に発達している事など地理的に考えても有力な説である。
- 奈良時代に遣唐使によって唐から渡来した小麦粉の餡入りの団子菓子「混飩(こんとん)」に起源を求める説。
- 青木正児の『饂飩の歴史』によれば、ワンタンに相当する中国語は「餛飩(コントン;中国語の発音ではhún tún)」と書き、またこれを「餫飩(ウントン、コントン)」とも書き、これが同じ読み方の「温飩(ウントン;中国の発音ではwēn tún)」という表記になり、これが「饂飩(ウドン;中国語の発音ではyún tún)」となったとする説。
- 平安時代に遣唐使として唐に渡った空海が饂飩を四国に伝えて讃岐うどんが誕生したという伝説。
- 平安時代の989年、一条天皇が春日大社へ詣でた際に「餺飥(現代ではほうとうと読むがはくたくと読む。神饌として奉納された)」を食べたという『小右記』の記述から、発祥は奈良とする説[3][4][5]。また、それ以前の奈良時代までは索餅・はくたくのいずれも醤で調味しながら野菜とともに煮て現代のほうとうと同様に食べられていた。
- 仁治2年(1241年)に宋から帰国した円爾(聖一国師)が製粉の技術を持ち帰り、饂飩、蕎麦、饅頭などの粉物食文化を広めたとする説。承天寺(福岡市、円爾建立)境内には「饂飩蕎麦発祥之地」と記された石碑が建っている[6]。また製粉機の詳細を記した古文書『水磨の図』が残されている。
- 中国大陸から渡来した切り麦が日本で独自に進化したものであるという説。
- 奥村彪生によれば、麺を加熱して付け汁で食するものは中国大陸にはなく、日本の平安時代の文献にあるコントンは肉の餡を小麦の皮で包んだもので、うどんとは別物であり、うどんを表現する表記の文献初出は南北朝時代の「ウトム」であるとする説[7]。
- 南北朝時代末期の『庭訓往来』や『節用集』などに「饂飩」「うとん」の語が現れる。江戸時代は「うどん」と「うんどん」の語が並存し、浮世絵に描かれた看板などに「うんとん」と書いてあることがよくあり、明治初期の辞書『言海』には「うどんはうんどんの略」と記されている。
- 室町時代に記された『尺素往来』に「索麺は熱蒸し、截麦は冷濯い」という記述があり、截麦(切麦)が前身と考える説もあるが、その太さがより細く、冷やして食されていたことから、冷麦の原型とされている。切麦を温かくして食べる「温麦」と冷やして食べる「冷麦」は総じてうどんと呼ばれた[注 2]。
いずれにせよ、江戸時代前期には現代の形のものが、全国的に普及して広く食べられるようになっていた。
- 備考
- 中国大陸では「乌冬面」、台湾などの繁体字文化圏では「烏龍麵」と表記するが、いずれも日本語の発音に基づく当て字であり、起源・由来とは関係がない。
- 江戸時代中期までは、薬味はコショウだった。江戸時代後期にトウガラシ栽培が軌道に乗るに連れ、その地位を奪い今日に至っている[8]。
- 第二次世界大戦中の1940年9月、食堂などで提供されるうどんに公定価格が設定された。65匁以上の量で一杯10銭[9]。以降、味の良し悪しは関係なく10銭で売られることとなったため、材料入手難と相まってうどんの劣化が進んだ。
文化
日本におけるうどんの文化は、歴史的には蕎麦(蕎麦切り)より、うどんの方が古い。また、小麦の原産地は中央アジアから西アジアとされており、小麦は米作に向かない地域で耕作され発展している。「門前蕎麦」と同じく、参拝者などに対する「門前饂飩」として古い歴史を持った社寺にまつわる文化的なうどんが各地に存在している(加須うどん、吉田のうどん、伊勢うどんなど)。
日本東西のうどん・そば文化
主に関西で好まれ、蕎麦が好まれる関東ではあまり好まれないとされるが、蕎麦=東日本、うどん=西日本とするのは正しくない。
江戸時代前期の江戸の市中においては、麺類としての蕎麦(蕎麦切り)が普及しておらず、蕎麦がきなどの形で食べられていた。蕎麦切りの元祖は信州そばであり、蕎麦切りの最古の記録は、天正2年(1574年)に木曽の定勝寺で落成祝いに蕎麦切りを振る舞ったというものである。これが信州から甲州街道や中山道を通して江戸に伝えられたものとされる。蕎麦切りが普及したのは、蕎麦と蕎麦屋が独自の文化を育む母体となっていったこと、脚気防止のために冷害にも強い蕎麦が好まれたからである。
蕎麦は江戸で広がっていった。一方で関東地方でも、武蔵野や群馬県を中心として、それぞれの名物である「武蔵野うどん」や「水沢うどん」をはじめとする専門店も多い[10]。実際、2004年度(平成16年度)のうどん生産量は、1位は日本全国に向けて宣伝をしている讃岐うどんの香川県だが、2位は埼玉県であり、群馬県もベスト5に入っている。これらの地域では、二毛作による小麦栽培が盛んで、日常的な食事であり、かけうどんや付け麺(もりうどん)にして食べられることが多い。
天正12年(1584年)に、大坂で「砂場」という蕎麦屋が開業した記録があるなど、近畿地方でも早い時期から蕎麦が食べられており、蕎麦切りも普及していった。近畿地方では「そば屋」よりも「うどん屋」が多いが、京都では近隣の丹波地方で蕎麦作りが盛んだったため、蕎麦文化も根付いており、専門の「そば屋」も多いうえににしんそばは京都の名物ともなっている。「出石そば」をはじめとする近畿北部の蕎麦文化は、江戸時代に信州(現在の長野県)から導入されたものだという。
讃岐国(現在の香川県)を除く西日本の大部分の地域では、大阪や京都、福岡、鳴門など腰が弱めでつゆ[注 3]を吸いやすい、柔らかい麺が好まれている(柔肌の大阪うどんより)。また、関西では「かやくご飯」(二番出汁を有効活用した炊き込みご飯)と一緒に供することも多く、吸い物の感覚として好まれている。
日本三大うどん
「日本三大うどん」という呼称があるが、日本うどん学会によれば、これは特定の機関が認定したものではなく、それぞれの地域が独自に称しているにすぎないとされる。例えば、以下のものが候補として挙げられる。
注釈
- ^ 「饂」の字の右半分「𥁕(昷)」は温の字の正字。音はウンまたはオン(ヲン)である(『新明解漢和辞典』三省堂)。「饂」は国字であるため字音は決め難い。「ウンドン」または「ウドン」であることは『日葡辞書』に見え、「Vndon (ウンドン)ただし、ウドンと発音される」とある。
- ^ 後に、日本農林規格等により、うどんが区別されるようになった。
- ^ 大阪ではつゆを出汁(だし)と呼ぶことがあるが、出汁とは昆布や鰹節からうま味を抽出したものであり、つゆは出汁に醤油や味醂などの調味料を加えたものである。大阪など一部の地域で混同して呼ばれていることが見受けられる。
- ^ 生めん類の表示に関する公正競争規約 (PDF) では一部特産品を除き「太さに関する具体的な数値による基準」や「形状に関する具体的な規定」を設けていないため、「うどん」「細うどん」「ひやむぎ」「素麺」等は見た目の形状や製造・販売業者の意向等により、一般消費者に誤認されない範囲で自由に選択して名付けられる。
- ^ この「玉」という言葉は量の目安となり、「1玉、2玉」などという表現で使われる
- ^ 麻糸を紡ぐ時に使った糸巻き(糸車)のこと。
- ^ 中信地方の山間部に伝わる郷土料理として、柄の長い竹かごで蕎麦を茹でる「とうじそば(投汁そば)」なるものがあり、関連性があると思われる。共に標高の高い寒冷地であり、暖かくした麺を食べるための手法という点も共通している。
- ^ ごく一部の博多の人は濁音を嫌う傾向から「うろん」と発音する者もいる。
出典
- ^ 食品自動販売機:自動販売機ジャパンビバレッジグループHP(閲覧2017年1月12日)
- ^ 「熱々うどんの自販機、どんな仕組み?機械の内部を拝見」朝日新聞デジタル(閲覧2017年1月12日)
- ^ 「うどん発祥の地に名乗り 13日に奈良でイベント」[リンク切れ]『朝日新聞』
- ^ 「麺のルーツを味わう - 奈良公園で索餅まつり」『奈良新聞』2014年9月14日(2020年5月18日閲覧)
- ^ 「古代人が食べていた!?うどん再現 奈良公園のイベントで披露」[リンク切れ]『産経新聞』
- ^ うどん・そばも饅頭も 発祥の地博多 博多の魅力(2020年5月18日閲覧)
- ^ 「うどんのルーツに新説」[リンク切れ]『四国新聞』2009年(平成21年)3月25日閲覧
- ^ 鈴木晋一『たべもの噺』(平凡社、1986年)p.72
- ^ うどん、そば、洋酒にもマル公(昭和15年8月31日 中外商業新聞)『昭和ニュース辞典第7巻 昭和14年-昭和16年』p155 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年
- ^ 【沿線おでかけリポート】第12回 伝統を味わう武蔵野うどん JR東日本八王子支社(2020年5月18日閲覧)
- ^ 【継ぐメシ!つなぎたい郷土食】でんぷんうどん(北海道俱知安町・留寿都村)戦時の農家料理復活『日本農業新聞』2021年8月7日8-9面
- ^ 【論説】うどん用小麦/地場の個性 広域流通を『日本農業新聞』2020年7月8日3面(2020年7月9日閲覧)
- ^ a b 乾めん類品質表示基準 (PDF)
- ^ a b c 丸麺では断面の直径、角麺では幅を指す。
- ^ 生めん類の表示に関する公正競争規約 (PDF)
- ^ 『軍隊調理法』p.382
- ^ a b 『うどん大全』旭屋出版、2006年。ISBN 9784751105696。
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- ^ うどんは釜揚げがもっともおいしい - 北東製粉
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うどんと同じ種類の言葉
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