2020年代の日本カルチャーをけん引するボカロPや、絵師・動画師を生み出してきた、ボカロ文化の立役者「初音ミク」。後編では、中国での強さ、『プロセカ』(『プロジェクトセカイ』)による変化などを解説。
版権ビジネスは中国で強さ
海外ツアーは、エリアによってチケットが高額になるといったケースもあって、必ずしも人気と収益が連動するわけではない。それは、キャラクターグッズの展開も同様だが、海外向けEC(電子商取引)サイトなどでは、日本のIP(知的財産)の中でもミクの売り上げや知名度が高いそうだ。
「グッズなども含めた売り上げの面では、中国本土が一強です。人口が多いこともありますが、15年に上海で『MIKU EXPO』を開催し、その後もコロナ前の19年まで独自のチャイナツアーを続けていて、他の地域とは異なる盛り上がりがあります。今も、中国で流通している日本のIPのなかでミクは常に上位。当社に海外ツアーやネットのデータがあったので、早くから許諾も積極的でした。
国内フィギュアメーカーが海外流通を始めたのは13年ごろからですが、その13年のねんどろいどの雪ミク(※)の売り上げからしてものすごく、北米などでもグッズやフィギュアが強いです。中国は現地代理店で、それ以外は全部自社で許諾を出しているので、版元として保護できるのも海外展開の強み。ここ2~3年は、国内売り上げはそう変わりませんが、海外がどんどん伸びて、ものによっては海外のほうが多いアイテムも増え、11年の頃のような波を海外展開に感じています」(目黒氏)
『プロセカ』でファン層に変化
ここ数年は、韓国でも人気が爆発しているという。過去には韓国ファンが自費で広告を出すセンイル広告を出してくれたり、23年は日韓同時のコラボカフェ「初音ミク×MINT HEIM」を出店。『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)の韓国版が1年半前にリリースされ、その影響もありそうだ。
「『プロセカ』の影響でファン層ががらっと変わりました。これまで韓国はあまり大きな展開をしてきませんでしたが、日本のイベントに来るファンが増えたんです。なにより日本のファンにも若い層が増23年の雪ミクなどイベントの6割が10代20代を占めるように。これまでのコアファンと、そうしたライトなファンの両方が楽しめるイベントを心掛けています。
ミクは、マンガやアニメではないので終わりがありません。親子で応援してくれるコンテンツになっていきたいですし、生まれたときからミクがいた世代が育って、ここからまた違う流れが始まると感じています」(目黒氏)
また、海外ファンにも新しい世代の増加が見込まれ、4年ぶりの海外ツアー『MIKU EXPO』への期待も高まっている。
「10周年のテーマは、あえて始まった14年と同じ“Universal Positivity”としました。テーマ曲は、15年のMIKU EXPO楽曲コンテストでグランプリを受賞された北米出身の音楽クリエーター・CircusPさんと、同じコンテストに参加された縁もある国内外で人気の音楽クリエーター・雄之助さんによる国境を越えたコラボレーションとなっています。10年たっても変わらず、ミクを通してポジティブな連鎖が広がっていくことを願っています」(布施氏)
新しいサービスの浸透には時差があり、『プロセカ』もようやく最近、音楽業界やラジオ局などから面白いねと言われるようになってきた。
「ボカロは、音楽の世界トレンドとは別軸の面白い楽曲がたくさん生まれていて、ボカロ出身のアーティストさんやボカロに影響を受けたアーティストさんも増えています。海外アーティストもミクと歌ってくれたり、そうした動きを見ていると、これからもっと活躍の場が増え、日本の音楽の再評価にもつながるのではないかと前向きに捉えています」(佐々木氏)
そして、これからのミクの世界は「掛け算」だと考えている。
「例えば、現在展開中のコラボ『ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs』も、ボカロPがポケモンで遊んできた世界を曲にするといった、夢や愛のある掛け算を目指しています。ずっと創作したいと思う人々と向き合ってきて、多くの方が活躍しているのが私たちの誇り。これからも音楽やイラストを通して若い人々にリスペクトし続けられるなら、こんな幸せはないですね」(佐々木氏)
キャラクターの設定年齢=16歳と実年齢=16周年がリンクして、新たなステージに立ったミク。世界的ディーバのますますの活躍に期待したい。
(写真提供/CFM)