佐賀県・上峰町の地域ブランディングを追う連載の第2回。今回はウェブアニメを活用した地域ブランディングを取り上げる。2021年12月に公開した「鎮西八郎為朝」が話題だ。第1話の再生回数は3カ月で200万回超。20年12月に公開され、ロックバンド・ユニコーンが主題歌を担当したアニメ「鎮西八郎為朝」のミュージックビデオの反響を受けて制作した。

ウェブアニメ「鎮西八郎為朝」は2021年12月に公開してすでに200万回以上再生された
ウェブアニメ「鎮西八郎為朝」は2021年12月に公開してすでに200万回以上再生された

 ウェブアニメ「鎮西八郎為朝」は、佐賀県の小さな町、上峰町が仕掛けたプロモーションムービーだ。商業施設の跡地を新たな中心市街地として活性化させ人の流れを作り出し、観光促進などにつなげる。上峰町にゆかりがある源為朝を打ち出した「鎮西八郎(源為朝)プロジェクト」の一環で制作した。為朝伝説を町のPRに生かす狙いだ。

 「上峰町には為朝が滞在した伝説が多数残されているにもかかわらず、為朝とゆかりのあることが町民にあまり浸透していなかった」と語るのは上峰町の中心市街地活性化事業を担う合同会社つばきまちづくりプロジェクト、広報戦略担当の永山徹だ。永山は合同会社に出資する博報堂の社員でもあり、合同会社の執行社員となっている。

佐賀県上峰町 アニメ「鎮西八郎為朝」第1話 嚆矢(こうし)

 「博報堂が4年ほど前から上峰町の地域ブランディングをやっている中で、歴史の顕在化による地域ブランディングを提案しました。上峰町の中には、いろいろな歴史があります。9万年前の旧石器時代の噴火で埋まっている木があったり、先土器時代の遺跡が出てきたり、宮内庁が管轄している都紀女加王墓という皇室のお墓があったりするんです。

 鎮西山と呼ばれる為朝伝説が残る山もあります。鎮西という言葉からは、九州の人が自分たちで日本を守るというプライドが感じ取れますよね。上峰町周辺は『尚武の地』ともいわれており、武道を尊重する土地だったのです。尚武の地、鎮西というところを強く押し出し、かつ、全国に伝説がある史上最強の武将といわれる為朝の情報発信の中心としても観光地化できるのではと考えました」(永山)

 永山が鎮西山に行ってみると、山からの見晴らしがとても良い。屋形原という為朝が居住していたといわれる場所も麓にあり、佐賀平野も見渡せる。城巡りが趣味でもある永山は「山城を築くにはもってこいの場所だとピンときた」と言う。

 その鎮西山を当時はうまく活用できていなかった。為朝について紹介をしていたが、ただ看板が設置してあるだけ。上峰町の小学校でも、そのことについてはあまり教えていないようだった。源為朝を調べてみると、東の源義経、西の源為朝、いい対比で紹介されていることが多かったが、知名度は抜群に義経が上だった。ただ、為朝の伝説がある場所は、岩手県から沖縄県まで、200カ所くらいある。「であれば為朝を顕在化したときに、為朝伝説が伝わるほかの地域の人たちといい交流のきっかけになる」。永山は高いポテンシャルを感じたと振り返る。

 「最近はマーケティングでもストーリー化しなさいとよく言われる」と永山。為朝であればそのストーリーも描きやすい。あとは、それをどうやって表すか――。一番分かりやすいのはアニメだろう。アニメといえば、ソニーミュージックグループで『鬼滅の刃』や『ソードアート・オンライン』などのアニメを制作するアニプレックス(東京・千代田)の名前が浮かんだ。ソニー・ミュージックエンタテインメントには以前からの知り合いの中村美保己(ソニー・ミュージックエンタテインメント ライブクリエイティブグループ営業部チーフプロデューサー)もいる。彼女なら、ソニーミュージックグループ各社をつないでコンテンツを制作する推進力になってくれるだろう。相談したのは2019年夏のことだ。

 中村を通じてアニプレックスにアニメ制作の話を持ちかけてもらった。ただ「アニメを作るのはちょっと時間的に難しい」との回答。ミュージックビデオのようなものならできると言う。であれば、為朝のテーマ曲を作って、音楽にアニメを当てようと考えた。それが20年12月に公開された「鎮西八郎為朝」のミュージックビデオだ。アニプレックスの協力により、「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズなどを手掛けるアニメ制作のプロダクション・アイジー(東京都武蔵野市)が制作した。ロックバンドのユニコーンが乗り気になって曲を作ると言ってくれた。出来上がったのはウェブアニメの主題歌となった『TIME-TO-MORE』だ。ちょうどユニコーンがレコーディングに入る時期と重なっていたことも奏功した。

 そして21年12月、5分ほどのウェブアニメとして公開したのが、佐賀県上峰町ショートムービー「鎮西八郎為朝」だ。アニメは全13話。アニプレックスとプロダクション・アイジーが制作して、主題歌をユニコーンが歌う。佐賀県出身の女優である松雪泰子が、ナレーションを担当したほか、声優の武内駿輔が為朝役となる豪華な内容だ。「アニメのクオリティーが高いと思ったら、アイジーかよ」――。ネットでは、その座組みに驚きの声も上がる。これも話題のポイントとなった。

松雪泰子さんがナレーションを担当した
松雪泰子さんがナレーションを担当した
20年12月に公開され、ロックバンド・ユニコーンが主題歌を担当したアニメ「鎮西八郎為朝」のミュージックビデオ
5
この記事をいいね!する
この記事を無料で回覧・プレゼントする