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 2022年5月25日から開催された「鉄道技術展・大阪」(27日まで、インテックス大阪)では関西に本拠を置く鉄道事業者が多く出展し、フリーゲージトレインや乗降ドアへの挟み込み検知システムなど、車両の工夫について展示した。

近鉄、2テーマで直通区間拡大を目指す技術開発

 近畿日本鉄道(近鉄)は集電方法や軌間の異なる線区への直通運転を可能にする「可動式第三軌条用集電装置」と「フリーゲージトレイン(軌間可変電車)」について説明パネルを展示した(図1)。可動式第三軌条用集電装置は、大阪メトロ中央線・近鉄けいはんな線の相互直通運転を近鉄奈良線まで拡張する目的で開発。大阪メトロ中央線と近鉄けいはんな線は、地上に設置した3本目のレール(第三軌条)から台車に取り付けた集電靴(集電装置の先端)経由で電力を得る方式だが、近鉄奈良線は架空電車線から車両屋上のパンタグラフによって集電する方式で、現状の車両では直通運転ができない。

図1 直通運転区間拡大のためのパネルによる技術展示
図1 直通運転区間拡大のためのパネルによる技術展示
2022年5月23日に発表した可動式第三軌条用集電装置に加え、18年発表のフリーゲージトレインについても改めて示した。(出所:日経クロステック)
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 第三軌条方式の集電装置は車両の下側方に突き出しており、架空電車線方式の区間では車両限界(車体断面の大きさの限界を示す範囲)からはみ出しているため、地上設備に接触する恐れがある。そこで架空電車線方式の区間では集電靴を上方に引きこむように折りたたむなどして支障をなくす。現在試作品が完成した段階で、今後さまざまな試験を開始する予定(図2)。開発には近畿車両、ドイツSchunk Transit Systems、シュンク・カーボン・テクノロジー・ジャパン(横浜市)、ニシヤマ(東京・大田)が参画する。

図2 可動式第三軌条用集電装置の試作品
図2 可動式第三軌条用集電装置の試作品
近鉄の発表資料による。(出所:近畿日本鉄道)
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 相互直通運転区間の拡張は、「2025年日本国際博覧会」(大阪・関西万博)会場で、統合型リゾートの整備なども計画されている大阪・夢洲(ゆめしま)へ近鉄奈良線から直通で旅客を輸送する目的。夢洲へは大阪メトロ中央線が延伸される計画になっている。

 近鉄は併せて、国土交通省からの委託を受けて開発中のフリーゲージトレインについてもパネルで展示した。18年5月に発表したが、あらためて開発意向を明らかにした形。近鉄南大阪線・吉野線は1067mm、橿原線は1435mm(標準軌)と軌間が異なり、これらの区間の直通運転を目指す。フリーゲージトレインは九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)や北陸新幹線では不採用になっているが、在来線同士であれば最高速度が低くなるため、実用上のハードルは低くなるとみられる。

京阪、レーザーで乗降ドアへの挟み込みを検知

 京阪電気鉄道は、2021年から13000系電車(5次車)に取り付け始めた「レーザセンサ式 戸挟検知装置」を出展した(図3)。2枚の扉が左右に開く乗降ドアの中央上部にレーザーセンサーを設け、閉まる扉に挟まれた物体を検知する仕組みで、直径8mmと細い視覚障害者の白杖(はくじょう)も検知可能。「鉄道事業者として自らものづくりに取り組むことが課題だったが、実現できた」(京阪電気鉄道の説明者)としている。

図3 京阪電気鉄道の戸挟検知装置
図3 京阪電気鉄道の戸挟検知装置
扉の絵の中央上部にある青い装置がレーザーセンサー。(出所:日経クロステック)
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図4 レーザーセンサー部
図4 レーザーセンサー部
(出所:日経クロステック)
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 レーザーによる検出では、通常、床面(足ずり部分)で反射させ、センサーから床面への距離を基準として、それより近くに物体があるかどうかで挟み込みを判定する。床面10cm程度より上でレーザー光線に当たるものがあれば確実に検知できるという(図5)。乗務員に表示灯の光と警報機の音声で警告を出す。

図5 直径8mmの白杖に当たるレーザー
図5 直径8mmの白杖に当たるレーザー
このくらいの高さのものは、レーザー光が当たりさえすれば検知可能という。(出所:日経クロステック)
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 京阪電気鉄道は既存の営業列車に取り付けて検知精度を確認した上で、新造車両への搭載を始めた。編成内の全部の扉を一括調整できるセンサーをメーカーと共同開発し、PLC(Programmable Logic Controller)用の制御プログラムを自社で作成して導入費用を削減した(図6)。

図6 戸挟検知装置の説明パネル
図6 戸挟検知装置の説明パネル
2021年から新造車に搭載している。(出所:日経クロステック)
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 戸挟検知には、ドアの端の緩衝材であるゴムに導電性のものを用いて検知する方法もあるが「例えば白杖の場合、挟まれた白杖を持ち主が動かせば検知できるが、挟まれて止まったままだと検知が難しい場合がある」(京阪電気鉄道)という。挟まれた物の動きや大きさによらず検知できる方法としてレーザーセンサーを採用した。

 ただし、ドアの合わせ目とレーザーの位置のズレが少ないことが適用条件になるため、片側開きの1枚扉への適用は難しいという。片側開きの場合、車体側に取り付けてある緩衝用ゴムが軟らかく、ドアが閉まった際に車体側緩衝用ゴムへどの程度食い込むかドアによって差が生じるため。両開きの2枚ドアであればゴムがある程度硬く、合わせ目は中央からほとんどずれない。