五輪一色の中で照ノ富士がひっそりと横綱に昇進した。「不動心を心がけ…」と口上を述べた21日の伝達式や、新しい綱を作る7月27日の「綱打ち」「土俵入り稽古」など、恒例の昇進行事も新聞ではうっかりすると見落とすくらいの小さな扱いだった。
世が世なら東北、北海道など長い夏巡業の季節。行く先々で新横綱として大歓迎され、土俵入りも毎日行うことで慣れ、9月の秋場所には自信をもって臨めるが、もちろん今夏の巡業は昨年に続いて中止。照ノ富士は秋場所、ぶっつけ本番の土俵入りになる。
五輪開会式で「土俵入りを」と勝手に熱望していたのは横綱白鵬だったが、最初からオファーなどなかったようだ。五輪の前にはすっかり忘れられている相撲界だが、どっこい“悪事”では話題を提供してくれた。
元貴乃花親方が育てた十両の貴源治(24)が大麻を使用したとして、日本相撲協会から懲戒解雇処分を受けた。名古屋場所中、力士たちの間で噂話となり千秋楽後に師匠の常盤山親方(元小結隆三杉)とともに協会の事情聴取を受けた。
「使っているCBDオイルという痛み止めに大麻成分が含まれている」
「あがり症を抑えるために食べているグミにも大麻成分が入って入る」
そんな子供だましの言い訳で逃げようとしたが、翌日の尿検査で陽性が判明。名古屋場所中、宿舎近くの道路で歩きながら大麻たばこ1本を吸ったことを認めたため、協会は警察に通報した。
過去にも弟弟子をいじめたことでけん責処分を受けるなど、素行には問題が多かった。双子の兄・元貴ノ富士(現格闘家)も暴力問題で相撲界を去っている。
「大相撲改革の旗手」としてもてはやされた貴乃花親方。実情は弟子と一つ屋根の下に住まず、管理体制が問題視されていたという。
大麻解雇は“負の遺産”ともいえるが、それだけで片づけていいのか。ある元親方が嘆いた。「名古屋場所で6場所休場していた白鵬がやすやすと全勝優勝した。照ノ富士も強かったが、2人以外の力士たちは一体何をやっていたのか。協会は収入確保で本場所開催にきゅうきゅうとして力士の管理体制は二の次。大麻問題も起こるべくして起こった感じだ」
巡業がなく出稽古も止めている。部屋に稽古相手の関取がいなければ出場停止中の朝乃山のように、大関に上がっても全く進歩がない力士が出るのも致し方ない。
協会では6月下旬から力士たちのワクチン接種を行っている。名古屋場所中での感染はなかったようで、そろそろ稽古したい相手の部屋への出稽古だけでも感染対策厳守を条件に解禁しないことには大相撲のレベルは下がる一方ではないか。(作家・神谷光男)