[自民党の派閥とは?]かつては「一致結束・箱弁当」…今も総裁選で影響力
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自民党総裁選は、党所属の衆参両院議員による「国会議員票」と、地方議員を含む党員らによる「党員票」で争われます。このうち、国会議員票に大きな影響を及ぼすのが、派閥の動向です。
自民党の派閥は「党中党」とも称される議員集団で、1955年の結党時から存在しました。三木武夫、田中角栄、大平正芳、福田赳夫、中曽根康弘5氏による「三角大福中」5大派閥の合従連衡や、安倍晋太郎、竹下登、宮沢喜一3氏による「安竹宮」3大派閥の
所属議員は領袖に忠誠を誓う代わりに「ポストとカネ」の配分を受け、長年領袖を「党総裁=首相」に押し上げる組織として機能してきました。
選挙応援も重要な派閥の機能です。田中角栄氏が率いた田中派は最盛期に140人を超え、「一致結束・箱弁当」を合言葉に、勢力を拡大しました。
仲間の選挙に「秘書軍団」を派遣し、若手議員には選挙のノウハウを伝授したとされています。
「締め付け」から「政策」「親睦」へ
党内には、現在、七つの派閥があります。最大派閥の細田派の96人を筆頭に、麻生派53人、竹下派52人、二階派47人、岸田派46人、石破派17人、石原派10人と続きます。
派閥はそれぞれ国会周辺に事務所を持ち、毎週木曜に定例会を開いています。新型コロナの感染拡大前は、昼食を一緒に取るなどの光景も見られました。マスコミに公開される派閥領袖のあいさつが政局を読み解くヒントになることもあります。
「脱派閥」を掲げた小泉純一郎氏以降、「派閥均衡・順送り」と呼ばれ、「滞貨一掃」などと批判も浴びた人事の流れは崩れました。徐々に派閥の統制は弱まり、政策や選挙を通じた親睦のための結びつきが強まることで、総裁選でも各自の判断にゆだねる「自主投票」を決める派閥も出てきました。
一方で、今でも首相が各派の意向を人事の参考とすることはあり、読売新聞でも組閣報道などでは、閣僚などの経歴に必ず出身派閥を明記します。
選挙の構図を決める多数派工作
派閥の支持が総裁選の行方を大きく左右するのは現在も同じです。2020年の総裁選は、菅首相が最大派閥の細田派をはじめ、麻生、竹下、二階、石原の計5派閥と無派閥議員から幅広く支持を集め、7割超の得票で圧勝しました。岸田文雄氏と石破茂氏は、自派閥内の支持にとどまり、敗れました。
2018年の総裁選では、安倍晋三前首相の出身派閥の細田派のほか、第2派閥の麻生派と第5派閥の二階派が安倍氏支持を早々に打ち出し、連続3選への流れを作りました。派閥単位による議員票の囲い込みの結果、石破茂氏は議員票で大きく後れを取り、安倍氏に敗れました。
今回は、党内7派閥中、岸田派が岸田文雄氏の支持を決めただけで、ほかの派閥は様子見という状況です。各派が態度決定に時間をかけるのは、選挙戦の構図が固まっていないことに加え、衆院選を直後に控えているという事情も大きいようです。党の衆院議員275人(議長除く)のうち、当選3回以下は126人と、半分近くを占めます。地盤の弱い若手は、所属派閥の意向よりも自分の選挙を優先する傾向もあり、派閥が意見集約を急げば、若手の造反で内紛が表面化する恐れもあるからです。
衆院の当選3回以下を中心とする派閥横断の議員約70人が集まり、「派閥にとらわれない総裁選が望ましい」との意見をまとめるなどの動きも起きています。
3人以上の候補が争い、1回目の投票で過半数を得た候補がいなかった場合、上位2人による決選投票になります。候補乱立や、派閥の統制弱体化で国会議員票が割れ、決選投票になるとの観測も出ています。党内には「決選投票を見据え、他派との協力関係を築いておく必要がある」との声もあり、総裁選の展開次第では、派閥が存在感を示す局面もあり得ます。