丹下姓 なぜ愛媛に多い

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 愛媛には「丹下さん」が多い。記者が愛媛に赴任して丸3年で、何人もの「丹下さん」に出会った。名字や家紋の調査会社、リクスタ(千葉県)の「名字由来net」によると、全国の丹下姓約7700人のうち、県内には約1100人もいる。数では愛知県の約2100人に負けているが、人口密度は全国1位だ。感覚ではなく、実際に多い。

 「実は丹下姓は愛媛がルーツではないらしいです。大阪が発祥だそうですね」。先日取材で会った、とある丹下さんが教えてくれた。

 気になって地図を調べてみると、地名としては残っていないが、大阪府羽曳野市に「丹下公民館」があった。漢語をまとめた平安時代の辞書「和名類聚抄」によると、かつて河内国丹比郡(現在の堺市や羽曳野市などの一部)に「丹下」という地名があったそうだ。姓氏研究家の森岡浩さんは「主要なルーツは大阪だと思います。丹下に住んだ一族が名乗ったのでは」と推し量る。

 では、なぜ愛媛に丹下が多いのか。県内の郷土史家が集まる伊予史談会が所有し、県内の一部氏族の成り立ちが載った「伊予不動記大系図」に「丹下氏」の項目があった。

 同会の柚山俊夫副会長は「家系図は権威付けのために偽造されることも多い」と断りを入れつつ、史料の読解を手伝ってくれた。

 年号などから見るに、歴史上初めて愛媛(当時は伊予国)に「丹下さん」が渡ったのは室町時代。応仁の乱の頃とみられる。当時、守護を務めていた河野氏などに仕え、今治、西条両市を中心に定着したという。中には神職になった者もいた、と記されている。柚山副会長は「応仁の乱に参戦した河野氏と丹下氏が接近し、愛媛に渡ってきた可能性はある」と話した。

 江戸時代には、一部が今治藩の家臣として登用され、剣術師範を務めた記録も残る。森岡さんは「武家は拠点を転じることが多い。転じた先で家が栄えるのはよくあること」と指摘する。

 かくいう私も「丹下」の一人。「東予の生まれなんですか?」。愛媛に着任してから、地元出身の前提で聞かれることがほとんどで、その度に「大阪生まれ大阪育ちなんです」と説明してきた。予想を裏切るようで申し訳なく思いながら。

 それがいつの間にか定番の会話となり、話の「つかみ」になっている。名字が愛媛との縁をつないでくれている。河内国から伊予国に移った「丹下」一族に身を重ね、愛媛に根を張る記者になれればと思う。(丹下巨樹)

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4277790 0 伊予の風 2023/06/22 05:00:00 2023/06/22 05:00:00 2023/06/22 05:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2023/06/20230622-OYTAI50000-T.jpg?type=thumbnail

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