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全長75センチほどの灰色の体に無数の白い斑点。見慣れない魚が、近畿大水産研究所白浜実験場内の水槽で泳いでいた。ハタ科の高級魚として知られる「クエ」と、同じくハタ科で東南アジアなどに生息する「タマカイ」をかけ合わせた「クエタマ」だ。
同実験場で10年前に開発された。現在、鹿児島県の奄美大島にある奄美実験場で約7000匹を養殖。升間主計・研究所長は「クエと同じくらいおいしい」と胸を張る。
同研究所では1980年にクエの養殖研究を始め、2000年頃には安定的に稚魚を得られるようになった。だが、大きな課題があった。それは成長スピードの遅さだ。稚魚から出荷サイズの2~3キロになるまで4~7年もかかる。
同研究所の主力魚のクロマグロで3~4年、マダイは1年半くらいだ。養殖期間が長いと多くのエサが必要となり、コストがかかる。
クエと同じハタ科の魚には成長が早い種類もいる。そうした魚とクエの間で人工授精させれば、クエのような味で成長が早い新種ができるかも――。そんな考えで、95年から研究を始めた。
まずはクエより約2倍成長速度が速いマハタとかけ合わせたが、「クエよりも成長速度が遅くなった」と升間所長は言う。次に、クエの倍以上成長速度が速いヤイトハタを試した。だが、稚魚どうしがかみつき合うなどして育てられなかった。研究はしばらく停滞した。
そんな中、中国などで高級魚として親しまれているハタ科のタマカイの冷凍精子を2011年に入手。「300キロにまで成長するため、成長速度も速いのでは」と期待し、クエとかけ合わせた。誕生した稚魚は狙い通り、2~3年でクエと同じくらいの出荷サイズに成長した。
大阪と東京にある近畿大の直営店舗で16年、刺し身や
クエは「幻の魚」とも言われるほど漁獲量が少ないが、市場での人気は高まっており、将来的な資源の枯渇を懸念する声もある。升間所長は「クエの代用としてクエタマが普及することで、貴重な天然クエの保護にもつながれば」と話している。