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『エブエブ』監督ダニエル・クワン、映画制作がきっかけでADHDと診断

日本でいよいよ公開がスタートした映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。監督のダニエル・クワンは、主人公エヴリンのキャラクター設定をしていく上でADHDについて調べていくうちに、自身の脳の特性に気づきADHDの診断に至ったという。

2023年2月、プロデューサーズ・ギルド・オブ・ アメリカ・アワードに出席した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエル・クワン。劇場映画賞を受賞した。Photo: Axelle / Bauer-Griffin / FilmMagic

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、通称“エブエブ”。2023年のアカデミー賞で、作品賞や主演女優賞、監督賞など最多10部門11ノミネートを獲得し、オスカー最有力候補として世界の注目を集めている。そのエブエブの監督のひとりダニエル・クワンは、この作品づくりをきっかけにADHD(注意欠如・多動症)の診断に至ることができたと公表した。

作品づくりを始めた当初はADHDであるということを自覚していなかったクワン。主人公エヴリンというキャラクターの初期設定では、彼女にはADHDがあり、その症状ゆえに別の世界に入っていけるというアイデアだったが、ADHDを安易に扱っていないかと心配になったクワンはリサーチを進めた。そうしていくうちに、自身にADHDの要素があることに気がついたと、オンライン雑誌「サロン」に語った。

「リサーチを始めたらその手が止まらなくなり、気がついたら明け方の4時でした。私は泣きながら手当たり次第に資料を読みあさり、『私はADHDなのかもしれない』と気がついたのです」

それからクワンは1年かけてセラピーに通い、30代にして精神科の医師にADHDであると診断された。今は治療を受けながら過ごしているという。

「この映画がきっかけでADHDと診断されました。それによって、なぜ自分の人生がこれまでこんなにハードだったのかを理解することができました。心が浄化されていくような美しい経験でした」

「エブエブ」の主人公エヴリン演じるミシェル・ヨー。Photo: Allyson Riggs / © A24 / Courtesy Everett Collection

そして自身の脳の特徴に対する新たな知識を得たことで、エヴリンというキャラクターを新しい視点で見ることができるようになったと映画のリリースで語っている。

「ADHDという設定にしたことで、エヴリンを個性的で生き生きとした人物として描くことができました。僕も人生の大半を、いろんなことをやりたいと思いながら、何もできていないと感じながら過ごしてきたから、そこに彼女を重ねました」

そんなクワンは、最近2冊の絵本を出版。マルチバースなベッドタイムストーリーである『24 Minutes to Bedtime!(原題)』と、犬の探偵がトンネル事故の犯人を突き止める物語の『I'll Get to the Bottom of This!(原題)』だ。なんとこれらの絵本は、不可能なパズルのようなエブエブのストーリーを組み立てていく際に、パンクしそうな頭の中を整理し休めるために書き始めたという。自分にとってADHDとの最適な付き合い方を見出したのかもしれない。昨年11月のUS版『Vanity Fair』の取材では以下のように語っている。

「スローモーション・マルチタスク(ゆっくりと長期間かけてさまざまなタスクを遂行し続ける人には成功者が多いという考え)という言葉があります。これは非常に有益な方法です。歴史上の偉大な人物を見てみると、彼らはいつも、大きな傑作と同時に、興味深い副業を行ってきました。例えば、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』を書くのと並行してミミズに関するサイドプロジェクトを持っていたように」

Text: Mina Oba