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MAMAMOOファサにリモート取材。自分だけが信じる、“美しさの基準”がうまれた経緯。

ステージの上に立つ彼女は、おそろしくかっこいい。でも、時に素顔は、とてつもなくあどけない。 いくつもの表情を見せてくれる 韓国発のアーティスト、MAMAMOOのファサ。固定された概念を、 静かに壊す言葉、歌、表現。そんな彼女に、海を超え、リモート取材を敢行した。
MAMAMOOファサにリモート取材。自分だけが信じる、“美しさの基準”がうまれた経緯。
人と比べない、他者を巻き込まない姿勢。

ドレス(参考商品)/DOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

美しさの基準がかすかに変わる瞬間。それは時代の節目、節目に存在する。それは、ここにいるファサの影響力も例外ではない。 彼女は2年前のライブ会場で、約10年(練習生時代を含め)のアーティスト人生を振り返った際にこう語った。「この時代がいう美しさの基準に自分が合わないのなら、私自身が違う基準をつくればいい」。このメッセージは、SNSのタイムラインを瞬く間に彩り、韓国のみならず世界中のファンを沸かせた。もちろん、この考え方を知り、新たなファンも増えたというのは、言うまでもないだろう。

この発言に到るには経緯がある。 過去、ファサはオーディションで言われた一言、「あなたは個性もあり、歌も上手い。でも、太っていて可愛くない」というセリフに傷つき、ファサは自分と対話を始めた。その先に見つけたのが、「人と比べない」という答え。デビューから7年、MAMAMOOという4人の共同体の中でも圧倒的なオーラを放ち、デビュー当時から「新人らしくない新人」と評されてきた。グループとしては 40 以上の賞を受賞。「第 35 回ゴールデンディスクアワード」では、ソロアーティストとして栄光ある本賞を受賞している。そんな、栄誉ある賞を抱えきれないほど抱えた韓国のトップ・アーティストだが、 午後2時にスタジオに現れた彼女は、とても穏やかで、たおやかな表情をしている。まず、「私は私」と行き着くまでに、今までどんな努力をしてきたかを聞くと「最初は、どうすればまわりからキレイに見えるかを追求していま した」と、優しく答えた。

「私に似合う、私らしい美しさがあるはずなのに、当時は“まったく別”の美しさを欲していました。 その時、美しさは不自然なものになっていた気がします。そして、 実際に私が宿す美しさはもっとほかにあるはず、と感じていました。 そして、自分自身をもっと知る努力を始めたんです。“私”を知ることは内面的にも外面的にも、両方においてです」

セットアップ/スタイリスト私物

「あなたは可愛くない」と否定され、涙で視界が曇ってしまった日に、ファサは一晩中考えた。そしてあるアーティストの動画を一晩中観続けて、他者と比べることをやめる。それは誰の動画だったかというと、「ビヨンセリアーナ。 ポップアイコンとしての二大巨頭 です。多くの人々が彼女たちからインスパイアされていますが、それは私にとっても。彼女たちが発するものから、癒しもらったり、 パワーをもらったり、多くのことを学んだ気がします。そして、彼女たちのようになりたい、と思うよりも、私は私として力強くなる必要があると気づくことができたんです」。

以前から、何かに向かって突き進みすぎてしまうことが多かったというファサだが、「以前は自制心が欠けていたかも」と冷静に分析。今は、他者とではなく、自らと向き合うというシンプルな努力、 姿勢に切り替えた。結果、彼女はとてつもないエネルギーを放つ存在となってる。ステージで空気を切る、鋭い眼差し。人間としての色香が漂うしなやかな動き──ここには彼女の生き様が宿っている。

「今日は久々の撮影だったので慣れるまで時間がかかりましたが、 いつも“ここだ!”というタイミングが来るんです」。ステージと一緒である。たしかに、鮮烈な赤を纏い、メイクを施した時に彼女の表情は一瞬で変わった。一方、 ブラウンの衣装を着た撮影では、「もっとメイクを落として、素顔にし ましょうか」というファサの提案 で、ほぼすっぴんのままの姿を見せてくれたのだ。「もちろん、ステージでは強烈なメイクアップが好き。でも、基本的には普段の素顔が一番好きです。メイクをしたとしても、ベージュのような柔らかでナチュラルなトーン。いずれにせよ、 飾っていない、奥ゆかしい感じが好みなのかもしれません」

こちらはほぼすっぴんで撮影された。 セットアップ/スタイリスト私物 イヤリング 176,000KRW/HERADI x AMONDZ

ファサはバラエティ番組やSNSで、完全なすっぴんを披露することがある。パワフルなディーバとしての姿とはまったく真逆の姿だ。韓国女性に聞くと皆「親しみのわく顔」と答える。そこには、まったく飾っていない等身大の25歳の姿があるのだ。とあるテレビ番組では、豪快にコプチャン(韓国のホルモン焼き)をたいらげる姿も披露し、ファサは「アーティスト」と「女の子」を行き来しているかのよう。今はみな、完璧なだけの虚像には共感できない。このはざまに、女性たちは(もちろん一般の男性たちも!)熱狂しているのかもしれない。そして、 美醜にとらわれがちな韓国の固まった美意識をほどく、ひとつの “装置”となっている。「いつから今のような柔軟な考えになったか、正確にはわかりません。しかし、時間が経過していくにつれて、水が流れていくように自然に考えが変化していきました。 でも、自分が変わったとしても、世の中には未だに偏見はあるようです。例えば、清純なイメージだったのに少しでも意外な行動をとると、なんで? と言われがちですよね。でも結局“答え”は、すべては自分の中にあるものだと考えています」

低音を生かしたラップに、センシュアルでハスキーな歌声。さらに、うなじや腕にはタトゥーも刻 まれている。これは、(昔でいう)アイドルのセオリーに従っていない。そんなファサが、私たちが想像できないほどの葛藤や悔しさを乗りえてきたことは、容易に想像がつく。「アイドルはこうでなくてはいけない」「目は大きいほうが可愛い」。ファサは、他者がつくり上げたいくつもの基準と静かに戦いながら、ここに来た。

音楽が突き動かし、痛みが美しい景色を創る。

ドレス(参考商品)/DOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

そもそも、無条件に押し付けられてきた基準から脱却できた最大の理由として、ファサの音楽への純粋な愛がある。 「デビュー当時は、どうすれば人々に私ならではのこの歌声が伝わるかを、ずっと考えていました。 そこに執着していた部分はありますね。今は、どう歌えばいいかという部分ではなく、どう“盛り込むか”という部分を大切にしています。私は歌う時に自分の気持ちを込めて、私自身が見つめる“何か”の視点を盛り込むことで、音楽を続けていける。そう気付いたのです。意味もなく、ただ歌うだけの音楽はまったく面白くない。 歌いたくないし、やる気も出ない。 とにかく、私の考えを込められたと思える瞬間、この歌には価値があると思える。そんな音楽を生み出せたら、 逆に私自身も勇気づけられる。私と一緒に楽曲制作をしているウサンオッパ (音楽プロデューサーのパク・ウサン)やメンバーと力を合わせて、もっといい音楽を! と考えています」

大ヒット曲「HIP」(2019) では、バウンシーなトラックに合わせ、他人を批判する目線をはね返すポジティブなリリックを繰り出している。リリース当時、ファサはこう語っていた。「他人の目線や基準を意識しない人生、自分らしくなれる人生について伝えたかった。この楽曲を聴く人たちには、自分自身を大切にして、そして、愛してほしい」。ソロの楽曲 「LMM」(2020)では、冷たい雨が降り注いでも、いつか花は美しく咲き誇る──そんなメッセージを、滴り落ちていく雫のようなバラードに綴った。ともに彼女のライティングである。

「以前は曲を書きたいと思ってはいませんでした。私にはその能力があるとは思っていなかった」と話すが、自然と生まれてくる言葉の数々は、きっとファサの人生からふとこぼれ落ちてきた、そのもの。だから、押し付けがましくなく、人のハートに寄り添って、 人々の悲しみや喜びと呼応する。「長い時間をかけて痛みを味わいながら生み出した曲の数々です。 私たちの人生って環境は違えど、 結局、経験する人生の流れは似たものなのかな、と考えています。 そういった部分で、私の感じた痛みだったり、悲しみだったり、前向きな気持ちが受け入れられているのかもしれません」

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悲しみを理解し、咀嚼する努力を重ねてきた人特有の強さが存在する。ファサには、そんなただ強いだけじゃない、等身大の飾らない強さがある。昨今、しばしば “自己肯定”がキーワードとなっているが、アドバイスを求めると謙遜しながらこう答えてくれた。

「私は自己否定のアイコンでもあります(笑)。ひとつ言えることがあるとしたら、『そういうこともあるよ』という考え。それが大切なのではないでしょうか。例えば、朝から失敗続きで頭の中もごちゃごちゃしてしまう。さらに、他人にも厳しくあたってしまったり。でも、そんなことだってあります。いつだって完璧で前向きで いるなんて難しい。それより、ありのままの自分を受け入れて、無理に肯定せず、いずれ訪れるポジティブなタイミングを待つ。私たちには、それしかできないのではないでしょうか」

コロナ禍というアーティストにとってダメージとなる昨今の状況 に関しても、嘘偽りなく語る。「最近、中世を舞台にした映画をたくさん観ているのですが、いつだって同じなんです。大変な時期というのはどんな時代にもある。 でも、逆境や苦難がありますが、これを乗り越えれば、世の中はより強くなり、もっと前に進めるはず。そして、悲観する時期も必要だと思います。いつも『ポジティブに勝ち抜けよう!』とは言えない。嘆き続けている自分に自然と気付いた時が、変わる時です。すべての感情には理由がある。だから、悲観的な気持ちも無駄にする必要はない。必ず、前に進める方法が見つかるはずだと、私はいつも信じています」

どんな時でも背伸びせず、感情に嘘をつかない。彼女が見据える未来は、痛みを噛みしめた先にある極上に美しい景色──そこに立つファサは、きっと、さらに美しい。

ドレス(参考商品)/DOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

問い合わせ先/ドルチェ&ガッバーナ ジャパン 03-6419-2220
HERADI x AMONDZ  www.heradi-jewelry.com

Profile
ファサ(Hwa Sa)
シンガー、アーティスト。4人組のガールズグループ、 MAMAMOOのメンバーで、2014年デビュー。エキゾチックな顔立ちとステージで魅せるパフォーマンスで一躍韓国での知名度を上げ、アメリカやアジアでのビルボードランキングにも名を連ねる。2020年にはソロアルバム『MARIA』をリリース。高い評価を受け、多数の章を受章。

※『VOGUE JAPAN』2021年7月号「ファサ、私だけの視点」派生記事。

Photos: Hyea W. Kang Stylist: Bona Kim at BONABONA Makeup: Seonsuk Kim Hair: Minju Park at mepci Coordinator: Shinhae Song at TANO International Editor: Toru Mitani