ほのぼの変わらず50年 フジのアニメ「サザエさん」 

2019年9月29日 02時00分

29日放送予定の一場面。すき焼きを囲む一家だんらんのシーン (c)長谷川町子美術館

 フジテレビのアニメ「サザエさん」(日曜午後6時30分)が10月、初回放送から50周年を迎える。高度成長期の真っただ中、1969年に始まり、昭和-平成-令和と時代は移っても、変わらぬ磯野家の物語を描き続ける。家族の在り方や生活スタイルが大きく変わった今も色あせない国民的アニメの魅力とは-。 (酒井健)
 長谷川町子(一九二〇~九二年)による原作の四コマ漫画「サザエさん」は、終戦間もない四六年に新聞連載が開始。アニメは六九年の放送開始以来、途切れることなく続いている。当初はギャグの場面も盛り込まれたが、サザエさんら磯野家の日常をほのぼのと描く路線になり、定着した。毎回、一話七分の物語を三話放送する。七九年九月には番組最高視聴率39・4%を記録。現在も10%超を続ける(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。
 制作会社「エイケン」で三十年以上、「サザエさん」に携わる田中洋一プロデューサー(57)は「人物中心の脚本づくりがモットー」と語る。アニメは原作約七千本の中から「闇市」「配給」「満州(現中国東北部)からの引き揚げ」など「現代に置き換えられないニュアンス」の作品を除き、約二千本をアレンジしながら制作しているという。

1969年10月5日に放送された第1回「75点の天才」の一場面(c)長谷川町子美術館

 サザエさんには、スマホもパソコンも出てこない。初期からテレビや冷蔵庫、洗濯機の「三種の神器」が登場するが、あとは「ちょっとラジカセが出るぐらい」と田中プロデューサー。黒電話やブラウン管テレビ、お茶の間のだんらん…昭和の薫りが漂う。季節感を大切にするため、磯野家には今もエアコンがない。「独特の世界観をつくるために、モノを取捨選択している」とフジテレビの渡辺恒也プロデューサー(37)は語る。
 モノに頼らず、家族のコミュニケーションを描き出す手法を貫く。例えば、夕方雨が降り、ワカメが傘を持ち、波平を駅まで迎えに行く場面。現代ならスマホで連絡するのだろうが、渡辺プロデューサーは「家にいるフネさんが天気を見て、ワカメちゃんに頼めばいい」と話す。昔ならよく見かけた光景も、もはやサザエさんでしか見られない。「サザエさんは現代劇だけれど、(時代との)ギャップは激しくなっている。『現代の端っこ』にぎりぎりしがみついている感じかな」。田中プロデューサーはそう表現する。
 時代に合わせ、描き方も変化している。家で堂々とたばこをふかしていた波平とマスオは、いつしか吸わなくなった。「十五年ほど前かな。『子供の前で(吸わせるのは)はやめよう』と(制作陣で)なった」と田中プロデューサー。
 三世代同居、サザエは専業主婦、マスオは転勤なし…と磯野家の物語は変わらず続くが、世の中は家族の在り方、働き方が変容している。それでも妻の実家で暮らす男性を「マスオさん」と呼んだり、日曜夜の憂鬱(ゆううつ)を「サザエさん症候群」と称したりと、日本人の暮らしにすっかり定着している番組だ。
 渡辺プロデューサーが「理想の家族像、標準の家族像を描こうという意図はない。たまたまサザエさんという一家が、こういうふうに楽しく暮らしている」と話せば、田中プロデューサーも「(長谷川は)本当によく観察され、(家族や日常の)細かいことに気づいた方だと感じる。アニメは原作の世界観を忠実に表現している。それ以上でも以下でもない」と強調した。
 フジテレビでは十一月二十四日、五十周年記念のスペシャルアニメと、実写版ドラマの放送を予定している。

アニメ「サザエさん」の魅力を話すエイケン田中(右)、フジテレビ渡辺の両プロデューサー=東京都港区で

◆自然な会話が魅力 初代マスオさんの声優・近石真介

 「サザエさん」の放送開始から一九七八年まで、初代マスオさんの声を務めた声優で俳優、ラジオパーソナリティーの近石真介(ちかいししんすけ)(88)は、サザエさんの魅力の原点を「家族の自然な会話にある」とみている。
 -当時の収録の様子は。
 日常的な会話のリアリティーに重きを置いていた。(声優が個別に声を吹き込む)抜き録(ど)りを認めず、毎週、出演者全員がスタジオに集まり、(アニメの)絵を見ながらせりふを入れた。
 -サザエさんは現在も全員が集まって収録している。抜き録りとどう違うのか?
 抜き録りは相手の音程が分からず、生きた会話にならない。せりふは会話。会話は人間関係。家族の微妙な感情が表れる。ちょっと芝居じみて、せりふっぽい話し方をすると「アニメみたいな感じだから、もっと自然に」と当時のプロデューサーにダメ出しをされた。アニメではなく、自分の生活の一部みたいな感じでしゃべった。
 -放送開始から五十年、アニメ「サザエさん」はなぜこんなに続いているのか?
 家族の自然な姿を描いている。どんなに世の中が変わっても、日本の家族はこういう事柄を、こんな会話をしながら、こんなふうに処理する。五十年前のサザエさん一家も、今の家族も基本的には同じだと思う。
 -現在は減ってきた三世代同居など、家族の「形」は別にして?
 そうそうそう。
 -今後のサザエさんに望むことは?
 原作に忠実にその精神を受け継いで、今のままずっと続いてほしい。日本の家族の姿を伝えてほしいですね。

関連キーワード


おすすめ情報

芸能の新着

記事一覧