ヒジャブ着用抗議デモ、イラン政府が再び取り締まりを強化 抗議が再燃?「この政府は変わらない」

2023年8月16日 17時00分

昨年12月、ヒジャブ着用者と非着用者が混在するテヘラン市内の市場

 イスラム教徒の女性が髪を覆う布「ヒジャブ」の着用を巡ってイラン全土に拡大した抗議デモは、9月で開始から1年となる。「女性、命、自由」をスローガンに始まった抗議デモは、政府の弾圧によって封じ込められたが、その後も街頭では髪を出した女性が多い状態が続いていた。しかし政府は7月からヒジャブ着用を巡る取り締まりを再び強化した。抗議再燃の可能性も指摘されるが、市民の間には複雑な思いが交錯している。(蜘手美鶴、写真も)

◆「警告はしてくるけど、そぶりだけ」

 「(ヒジャブ取り締まりなどを行う)風紀警察は警告はしてくるけど、取り締まるそぶりを見せているだけ。拘束が相次いでいるわけじゃない」。テヘラン市内の大学に通う女子学生ザハラさん(20)は今月上旬、オンライン取材で市内の様子をこう説明した。
 大学構内に入る際や一部の飲食店を利用する際は、ヒジャブの着用を求められるようになったが、「取り締まりの再開は、政府が私たちを恐れていることの表れだ」と抗議を続ける意思は変わらない。
 一方、会社員モハンマドさん(28)は「ヒジャブは法律で定められた服装。警察の取り締まりは仕方ない」と漏らす。自身も当初はデモを支持したが、多くの若者が治安部隊との衝突で負傷し、命を落とす様子を目にし、気持ちが沈んだ。友人もけがを負い、「この政府はデモぐらいでは変わらない」と痛感している。

◆違反すれば禁錮刑か罰金

 イランでは1979年のイスラム革命以降、イスラム法(シャリア)に基づく政治体制が敷かれている。ヒジャブの着用もその一環で、9歳以上の女性は国籍や宗教を問わず、着用が義務付けられている。違反者には最長2月の禁錮刑または罰金が科される。
 イスラム教徒の女性がヒジャブを着用するのは、イスラム教の聖典コーランの記述が根拠とされる。コーランでは、女性は美しさを目立たせないために体を覆うよう言及している。地域によって異なるものの、女性は髪を覆うヒジャブのほか、全身を覆うチャドルやブルカ、目以外を隠すニカブなどを着用している。
 そうした状況に変化が起きたのが昨年9月だ。テヘラン市内でヒジャブの「不適切」着用を理由に、クルド人マフサ・アミニさん=当時(22)=が風紀警察に拘束され、その後死亡した。これを受け、女性の権利拡充を訴える抗議デモが各地に広がった。女性や若者だけでなく、有識者や文化人も抗議の声を上げるなど、イランでは異例の事態となった。

◆500人以上が死亡、2万人以上が拘束

テヘラン市内のカフェで昨年12月、ヒジャブをかぶらず談笑する女性たち

 政府はイスラム体制を揺るがしかねないデモを容赦せず、治安部隊が催涙弾や実弾でデモ隊を暴力的に鎮圧。昨年12月以降に拘束者の死刑執行が始まったことを機に、デモの勢いは次第に衰えた。人権団体の調べでは、これまでに500人以上が死亡、2万人以上が拘束されたという。
 抗議を抑え込んだ政府は、昨年9月以降は黙認してきたヒジャブの「不適切な着用」に対し、再び規制を強化する動きを見せている。国営イラン通信などによると、イラン警察の報道官は7月中旬、「ヒジャブを不適切に着用した者に対し、警察のパトロールを始める」と発表。風紀警察の巡回が再開した。
 イスラム体制護持を掲げる保守強硬派や聖職者の一部が風紀警察の消極的な取り締まりに不満を募らせていたことが、規制強化の背景にあると指摘される。5月には風紀警察を所管する政府機関トップが交代したほか、政府が国会に提出したヒジャブ規制強化法案の中身を巡り、一部議員から「規制内容が弱すぎる」と反発の声が上がっていた。

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