埼玉知事選 来月6日投開票 激戦一変「オール与党」へ 大野さんと自民、4年で接近

2023年7月6日 07時34分

大野さん(中央)の事務所開きには、自民県連の小谷野五雄幹事長(左)ら県内の与野党幹部が顔をそろえた=さいたま市内で

 一カ月後に迫った埼玉県知事選(二十日告示、八月六日投開票)は、二〇一九年の前回選と構図が一変している。前回は国政与党候補と事実上の野党統一候補が激戦を繰り広げたが、今回は自民党をはじめ主要政党が相次いで現職の大野元裕さん(59)の支持を表明。さながら「オール与党」の状況だ。(杉原雄介)
 接近を感じさせる場面だった。今年の年明けにさいたま市内で開かれた県幹部と県議による賀詞交歓会の終了後、県議会最大会派の自民党県議団の幹部たちが真っ先に大野さんの元へ訪れた。ともに笑顔をたたえ、和やかに会話を交わした。
 前回知事選では、旧民主党系の参院議員だった大野さんが上田清司前知事の後継として立候補し、立憲民主、共産など野党四党の支援を受けた。一方、上田前知事とたびたび対立していた自民は、公明党とともに候補者を擁立。激戦の末、大野さんが初当選を果たした。
 それからの四年間、禍根を残さず円滑に県政が行えるよう、大野さんが自民との関係修復に努めてきたことがうかがえる。昨夏の参院選や今春の県議選では、野党だけでなく自公の候補の元へも応援に駆け付けた。
 その成果か、今回の知事選を前に、野党に先駆けて真っ先に支持を表明したのは、自民県連だった。表明の記者会見で、自民柴山昌彦県連会長は「コロナ対策をはじめ、大きな成果を挙げた」と力量に触れた上で、「統一選でも自民の候補を支援してくれた」と感謝を述べた。続いて公明県本部も支持を表明した。
 大野さんと自民の接近について、自民の元県議で、前回選でも県連の方針とは別に大野さんを応援した奥ノ木信夫・川口市長は「大野さんの祖父は川口市長を務め、『川口自民』(と呼ばれる強固な自民の地盤)をつくり上げた人。知事本人の考え方も保守で、自民ももともと悪い感情を持っていなかった」と明かす。選挙後は大野さんと県議団幹部が交流を重ね、関係を築いていったという。
 奥ノ木市長は「地方自治では与野党の政策に大きな違いはない」として「自民からすれば、自分たちの要望に耳を傾け、県民のニーズに応える知事なら良い。大野さんも、自分と考え方が同じ最大会派とけんかするのはおかしいと思っているだろう」と語る。
 野党からも、大野さんと自民の接近に対する批判はあまり聞かれず、立民、国民民主、維新の三党も県組織が大野さんの支持を表明した。立民と国民の支援団体、連合埼玉の幹部は「大野さんが共産党と協定を結ぶというなら困るけど、それ以外なら問題ない」と言い切る。
 共産は態度を明らかにしていない。今春引退するまで同党県議を七期務め、保守系や革新系の知事四人を見てきた柳下(やぎした)礼子さん(76)=所沢市=は、「大野さんは県議会の答弁で自分の意見を述べており、政策面でも自民に擦り寄っているとは感じなかった」と評価。しかし、今回の構図については「自民が県政与党となって、要望をねじこもうとしているのでは」と懸念し、「県民のためにならない要望をはねのけられるか、大野さんの政治家としての力が問われている」と語った。
 主要政党の「相乗り」について記者団に問われた大野さんは、「前回も今も、自分のスタンスは『県民党』で変わらない。四年間でいろいろ理解いただけたのだと思う」と話した。

◆山口さん出馬表明

 知事選には諸派新人の中島徳二さん(63)と、無所属新人の大沢敏雄さん(69)、無所属新人の山口節生さん(73)も立候補を表明している。

◆平成国際大・石上教授「県政へのチェック弱まる恐れ」

 平成国際大(加須市)の石上泰州(いわがみやすくに)教授(政治学)によると、一九七〇年代ごろの全国の知事選は野党勢力が強い都市部を中心に、保守系と革新系の有力候補による選挙戦が目立ったという。その後は、革新系だった公明党や旧民社党と自民党の選挙協力が進んだこともあって「与野党が同じ候補に相乗りしたり、野党勢力が弱くて候補を出せないケースが多くなった」と話す。
 与野党相乗りの候補が当選した場合、「県政運営の執行部と県議会の関係がスムーズになって、政策が進みやすくなるが、議会の本来の役割である執行部へのチェック機能が弱まる恐れがある」と指摘。議会側に対し、知事となれ合い関係にならないよう「積極的に条例を提案するなど、主体的に政策を進めることが必要」と求める。

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