イスラム国の襲撃に地雷まで… 中東で「砂漠トリュフ」が収穫期 危険だが収入源に「決してやめない」

2023年3月22日 16時00分

14日、バグダッド市内で、砂漠トリュフを買い求める男性(右)=蜘手美鶴撮影

 高級食材として知られるトリュフの一種が、中東の砂漠地帯で収穫シーズンを迎えている。「砂漠トリュフ」と呼ばれ、湾岸諸国では高値で売買される高級品だ。砂漠の遊牧民ベドウィンらの貴重な副収入となる一方で、内戦が続くシリアの砂漠地帯では、収穫中の住民が過激派に襲撃されるなどの事件も起きている。(バグダッドで、蜘手美鶴)

◆妻が大好き「早く買ってきて!」

3月上旬、エジプト北西部マルサマトルーフで、採れたての砂漠トリュフを手に取るベドウィンの男性=蜘手美鶴撮影

 バグダッドの幹線道路沿いに、じゃがいも大の砂漠トリュフを山積みにした出店が並んでいる。「これは昨日の夜に採れたばかり。今年は収穫量が多くて、例年よりも安いからよく売れる」。店主のフセイン・アルモウラさん(60)がにんまりと笑った。客がひっきりなしに車で乗り付け、数キロずつ購入していく。
 トリュフは南部や西部の砂漠地帯で多く採れ、特に今年は「豊作」という。黒や白などの種類があり、石ころ大からソフトボール大までさまざま。黒の方が香りが強く、1キロ3万5000〜4万5000イラクディナール(約3200〜4100円)ほどで売られている。
 中東では小さく切って卵やミンチ肉と炒めたり、肉と一緒に煮込んだりして調理するのが主流で、一般家庭でも広く食べられている。トリュフを買いに来たハリッド・イヤードさん(45)は「妻がトリュフが大好きで、『早く買ってきて!』と怒られたので来た。私自身も子どものころからよく食べている」と話す。

◆湾岸戦争の影響でエジプトが産地に

3月上旬、エジプト北西部で、地表から姿をのぞかせる砂漠トリュフ=住民提供

 砂漠トリュフはイラクやシリア、エジプトが一大産地で、サウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国で毎年高値で取引される。特に高級品とされるエジプト産の白トリュフは、今年は1キロ2500〜3000エジプトポンド(約1万1000〜1万3000円)。ベドウィンの重要な副収入で、エジプト北西部マルサマトルーフのハキーム・アルマーバディさん(60)は「値段は高いけど、いつもあっという間に売れてしまう」と話す。
 エジプトでトリュフが注目され始めたのは、1991年の湾岸戦争以降という。戦争の影響でクウェートがイラク産の輸入を止め、エジプト産に切り替えたのがきっかけ。以降はトリュフの価値が一変し、輸出を手がけるソブヒ・ロホーマさん(48)は「初めて売ったときは、『ただ同然のものを売っていいのか』と自分を恥じた。価値を知らなかった」と振り返る。

◆「4人の子どもを養うために」

3月上旬、エジプト北西部マルサマトルーフで、2個で重さ2キロを超える砂漠トリュフ(住民提供)

 高値で売れる一方で、シリアやイラクではトリュフ狩りに危険が付きまとう。シリアでは、過激派組織「イスラム国」(IS)が活発な中部や東部にトリュフが多く自生。収入を求めてトリュフ狩りに出かける住民が多く、シリア人権監視団(ロンドン)によると、今シーズンだけでISの襲撃や地雷が原因で130人以上が死亡している。
 内戦下のシリアでは、トリュフは非常に大きな収入源。AFP通信によると、平均月収が18ドル程度とされる中、今年は1キロ最大25ドル(3400円)で取引されることもある。また、イラクでは、南部の砂漠に湾岸戦争やイラク戦争(2003年)時の地雷が今も残るが、トリュフ狩りは非常に盛んだ。
 バグダッドでトリュフを売るワリード・アルシェブラウィさん(30)は「4人の子どもを養うために、この貴重な収入を失うわけにいかない。危険があっても何度でも行く。決してやめない」と話した。

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