安倍元首相と旧統一教会系が共鳴した「家庭教育支援法案」の危うさ 地方でも推進し10県6市では条例化

2022年9月3日 06時00分

2018年から2020年に発行された旧統一教会系の月刊誌「世界思想」で家族や家庭教育支援について書かれた記事のコピー

 自民党が制定を目指した「家庭教育支援法案」は、伝統的な家族観を重視してきた安倍晋三元首相らの肝いりの政策であり、保守系団体や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関連団体が後押しをした。根強い批判の中で、地方では同じ趣旨の条例を制定する動きが進む。どんな内容か。(太田理英子)

◆家庭は「愛の学校」うたう

 「今こそ家族を守れ」「『家庭教育支援条例・基本法』で絆を取り戻せ」
 教団関連団体「国際勝共連合」の月刊誌「世界思想」の18年2月号に、特集が組まれている。神奈川県内の議会に、法制定を求める陳情が相次いで出されていた時期と重なる。
 記事は、家庭について「人間の心に腹の底からの幸せ感を体験させることができるようにする『愛の学校』なのだ」などと説明し、家庭教育支援の重要性を強調。国家による家庭への介入だとの法案への批判は「的外れ」と断じた上で、法制定を急ぐべきだと主張している。

◆「古い家族像」教団と共鳴か

 法案は家庭の教育力の低下を根拠に、家庭教育を支援する施策の推進を目指し、国や学校、地域住民の責務や役割も盛り込んでいる。基になったのは、第1次安倍政権下で06年に成立した改正教育基本法だ。「保護者が子の教育に第一義的責任を有する」とし、国や地方自治体に家庭教育の支援施策に努めるよう定めた。
 「教団は家長主義的な思想で、男女共同参画や性の多様性を否定してきた。法案には女性の社会進出の視点が欠け、古い家族像が前提となっており、教団が共鳴する内容といえる」。教団に詳しいジャーナリストの鈴木エイト氏は、関連団体が法案を推進する背景をそう指摘し、「日本会議などとも連動して地方議会から中央に意見書を出させ、法整備を働きかける動きは他の政策でも見られる」と話す。

◆支援名目で親を「教化」

 法制化と並行するかたちで、地方では同じ趣旨の「家庭教育支援条例」が導入されてきた。昭和女子大の友野清文教授(教育史)によると、今年6月までに静岡県や茨城県など10県6市が制定。自民議員が提案するケースが多く「思想が近い親学推進協会(一般財団法人としては解散)や日本会議と連動して広がった」と友野教授は分析する。
 法案や条例に対し、野党や各地の弁護士会は「家庭教育への公権力の介入を招く」と批判。法案は17年に提出を断念後、棚上げされているが、地方議会ではなおも立法化を求める意見書が昨年は5件、今年も8月までに2件が可決され、国会に提出された。岡山県議会は今年4月に条例を制定した。
 友野教授は「支援という名の下に、特定の家族像に合うよう親を『教化』する意図が見える。子どもを権利の主体でなく、客体と捉えている。条例制定は、行政があるべき家族像や子ども像を押しつける危険をはらむ」と警鐘を鳴らす。

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