「女性が頑張った選挙だった」 杉並区長選で岸本聡子さんが初当選 約190票差で現職破る

2022年6月20日 21時58分

当選を決め、支援者と喜ぶ岸本聡子さん(右から2人目)=いずれも20日、東京都杉並区で

 東京都杉並区長選は20日開票され、無所属新人で公共政策研究者の岸本聡子さん(47)=立民、共産、れいわ、社民推薦=が、4選を目指した無所属現職の田中良さん(61)ら2人を破り、初当選を果たした。東京23区では、2002年から14年まで3期務めた新宿区の中山弘子元区長、07年に初当選し、現在4期目の足立区の近藤弥生区長に次ぐ3人目の女性区長となる。(砂上麻子、長竹祐子)
 投票率は37.52%。与野党の事実上の相乗りで目立った争点がなかった前回18年(32.02%)を5ポイント以上、前々回14年(28.79%)を10ポイント近く上回った。
 当選を決めた岸本さんは杉並区内の事務所で「女性が頑張った選挙だった。情報共有して、皆のことは皆で決めるという原則を打ち立てたい。分断から対話と協力を進めたい」と抱負を語った。
 岸本さんは日本大卒業後、オランダに渡り、現地のNPOで自治体の公共サービスを研究。欧州で1980年代以降に広がった水道事業民営化の問題を著書にまとめた。区政刷新を求める市民団体の要請で立候補を表明したのは今年4月。出遅れたが、杉並区がエリアの衆院東京8区で、昨年、自民の石原伸晃元幹事長を立民の吉田晴美氏が破った野党共闘のネットワークがフル回転。区が進める道路拡幅、児童館廃止計画を住民参加で見直すように訴え、支持を広げた。
 現職の田中さんは、自民、公明の都議や区議の応援を受けたが、緊急事態宣言下の昨年7月に群馬県のゴルフ場に出張していた問題が批判され、支持離れを招いた。
◇杉並区長選確定得票
当 岸本聡子  7万6743票
  田中良   7万6556票
  田中裕太郎 1万9487票

◆威力発揮した「サポメンひとり街宣」

当選を決め、花束を手に笑顔を見せる岸本聡子さん

 「女性が頑張った選挙だった」。杉並区長選で初当選した岸本聡子さんは、東京23区で歴代3人目、杉並区初の女性区長となる。「女性が選挙に出られない状況を変えていきたい」と決意を語った。
 20日午後0時20分ごろ、当選の報が届いた杉並区の事務所が「きゃー」と悲鳴のような歓声に包まれた。現職の田中良さんとの票差はわずか約190票。薄氷の勝利に涙を流す人もいた。
 児童館の廃止に反対し、道路拡幅計画の見直しを公約に掲げた。「児童館守ってゆうゆう館(廃止予定の高齢者施設)守ろう。商店街守って街並み守ろう」。集まった支援者と声を合わせて気勢を上げた。
 選挙戦で威力を発揮したのが「サポメンひとり街宣」。女性支援者が1人で区内の駅に立ち、岸本さんの主張を知らせた。「私の選挙じゃなくてみんなの、自分事の選挙、草の根の市民の選挙をやりたかった」
 福祉や介護、保育など地域住民を支えるケアワークの担い手は多くが女性だ。「地域にいることが多い女性を、地方自治の分野にどんどん出していかなくてはいけない」と岸本さん。
 任期は7月11日から。「皆さんの声をもっと聞きたい、勉強したいという気持ちが、この人は話を聞いてくれるという共感の輪になり、特に女性に響いたのかなと思う」と勝因を分析した上で、区長としても「トップダウンではなく、話し合って一緒にやっていきたい」と力を込めた。(長竹祐子)

◆「杉並の奇跡」再現に支援者沸く 敗れた現職田中さん「力不足」

 新人の岸本聡子さんが現職らを破って初当選を決めた杉並区長選。昨年の衆院選東京8区(一部を除く杉並区)で自民候補を野党統一の立民候補が破った「杉並の奇跡」の再現に、支援者らは喜びを爆発させた。
 阿佐ケ谷の岸本さんの事務所では、当選が決まると集まった支援者らがコールする声を響かせ、抱き合って喜びを分かち合った。区在住の東本久子さんは「市民革命です。住民のための区政にしたいという思いが実現した。住民の声に耳を傾ける区政にしてほしい」と期待した。

当選し支持者と喜び合う岸本さん

 岸本さんと毎日のように街宣した立民の吉田晴美衆院議員は「自分の1票で政治は変えられると知った区民が再び力を発揮した」。岸本さんを擁立したのが、昨年の衆院選の8区で初当選した吉田氏を支えた区民らだ。1月に市民グループをつくり、メンバーの知り合いでベルギー在住の岸本さんに白羽の矢を立てた。
 知名度も準備も足りない中、立民や共産の都議、区議も街頭に立った。れいわの山本太郎代表や社民の福島瑞穂党首も応援入り。「野党がつくった枠に区民が思いを込めた」と吉田氏。区民らは岸本さんのポスターを持ち自発的に駅頭に立つ「サポメンひとり街宣」もした。SNSも駆使。しだいに支援の輪が広がっていった。
 一方、4選を逃した現職田中良さんは午後12時10分ごろ、西荻の事務所に姿を現した。「政策を伝えられなかった。私の力不足」と敗戦の弁を述べた。(砂上麻子、長竹祐子)

◆記者解説 表明からわずか2カ月、区民の不満表れ 

 杉並区長選は得票差がわずか187票ながら、出馬表明から2カ月で投票日を迎えた岸本さんが当選し、現区政への区民の不満が表れる形となった。
 田中区長は都の緊急事態宣言中の昨夏、群馬県のゴルフ場に公用車で出張して批判された。区内の道路拡幅計画や児童館廃止・機能移転計画では反対する区民の声を「話し合いも結構だが決めるのは区長」と切り捨てた。区長に意見できる区職員も少なかったという。
 「開かれた区政」を掲げ、諸問題の再考や徹底した情報公開、区民との対話を訴えた岸本さんへの区民の期待は大きいだろう。が、区議会は現職を支援した自民と公明が多数を占め厳しいかじ取りが予想される。  
 「今の杉並は分断がたくさんある。保守もリベラルも関係ない。私に投票しなかった人とも一緒に区政をしたい」と岸本さん。コロナ禍では基礎自治体の役割の重要性が改めて浮き彫りになった。疲弊した経済対策や物価高対策など課題は多い。区長、区役所、議会に必要なのは対話だ。(砂上麻子)

 選挙や政治家をテーマに取材するフリーライターの畠山理仁(みちよし)さんの話 投票率が上がったのが今回の選挙結果をもたらした。象徴的だったのは、岸本氏が支援者の応援演説を会場の最前列で座って拍手しながら聞いている場面。『私の声を聞いてくれる人がやってきた』と有権者に伝わった。選挙戦中に区民の声を聞いて政策をアップデートし、民主主義を実践してみせた。投票率が5%上がるだけで現職が敗れるという大きな結果につながった。

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