鉄道開業150年 日常の姿にも鉄道愛を 撮り鉄ブームのいま、最長寿月刊誌1000号 編集長に聞く

2022年6月15日 06時59分

1000号(2022年7月)の表紙=いずれも電気車研究会提供

 全国で10万人以上といわれる鉄道ファン。根強い人気を背景に、実物の鉄道を専門に扱う雑誌では最長寿の月刊誌「鉄道ピクトリアル」は、先月発売の7月号で創刊1000号(臨時増刊号含む)を迎えた。手ごろなカメラの性能が向上し、「撮り鉄」と呼ばれるファン層は拡大。一部の人が線路に立ち入って列車を止めたり、沿線の住民ともめたりすることも。鉄道趣味の現状は…。
 「トラブルは昔からあったことですが、最近は興味の持ち方が狭くなっているような気もします」と同誌の今津直久編集長(65)。一九六〇年代に旧国鉄が蒸気機関車(SL)の廃止へと動きだして「SLブーム」が起きたころを振り返り、「当時は目当てのSL以外にもカメラを向ける人が多くいました。今は、さよなら運転などの目的の列車を撮り終えると、さっと帰ってしまうようです」。

「鉄道ピクトリアル」の今津直久編集長=千代田区で

 SLの後は寝台車「ブルートレイン」が人気に。今はダイヤ改正で「引退」する車両などに多くの人が集まる。
 「さまざまな(鉄道の)見方があるのは承知していますが、総じて『非日常』の楽しみを追うだけにみえます。写真を写して『ああきれいな電車だ』と。ストレスは解消するかもしれませんが、その先がない」。撮影の技術を磨く、車両の研究をする、暮らしの中で鉄道のあり方を考える−。「そんな姿勢がおろそかにされているのでは」と今津さんは言う。
 長年、東京学芸大などで教授を務める傍ら同誌の編集に協力した地理学者の故青木栄一さんは「本来、趣味は教育。いろいろ勉強をし、人間性を高めるのが趣味のあり方だ」と話していたそうだ。

500号(1988年9月)の表紙

 熱心なファンの中には、列車の写真に他人が写り込むのを嫌い、際どい場所で撮影して問題になるケースも。そのため、鉄道会社は会費や参加費を取り、車両基地などで人数限定の撮影会を開くことが多くなった。
 JR東日本は昨秋、「撮り鉄コミュニティ」を立ち上げ、有料会員(月額税別千円)限定の企画開催もうたう。「現在、会員は七百人ほど。コア(熱心)なファンが中心なので、ライトな方々をどう取り込んでいくかが課題です」とJR東日本スタートアップの担当者。各社の撮影会は一回数千円から数万円が多いが、昨年十一月のJR東の「EF64形電気機関車37号機の運転台操作体験&撮影会」は一人十万円だった。
 「さよなら運転などは、列車とともに撮影する人たちが写り込んでいる方が記録として貴重です」と今津さんは指摘する。それでも「(車両の姿を克明に残すため)人の入らない写真も重要です。撮影会は、警備費用がかかるため、有料もやむを得ないと思います」。

創刊50周年記念特大号703号(2001年7月)の表紙

 温暖化対策などで、鉄道会社としては鉄道輸送のメリットを広く訴えていくことが大切だ。JR貨物の真貝康一社長は「貨物駅の公開イベントを無料で取り組んでおり、数を増やしていきたい」と語った。
 交流サイト(SNS)などで瞬時に運行情報が駆け巡る時代。今津さんは「速報を意識せずに、むしろ、後世に歴史の資料として残るニュース記事を掲載するよう努めています。(正確で)充実した記録を次世代へつなげることで、鉄道の発展に少しでも貢献できれば…」。そこに雑誌の生き残りを懸けている。
<豆知識> 日本で最も古い鉄道趣味誌とされるのは1929年から30年代まで刊行された「鉄道」。鉄道模型専門誌「鉄道模型趣味」は50年から月刊に。「鉄道ピクトリアル」は51年創刊。60年代からの「鉄道ファン」「鉄道ジャーナル」も多くの読者を持つ。

創刊50周年記念特大号703号(2001年7月)の表紙

 文・嶋田昭浩/写真・笠原和則
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