ウーマン村本さんが世の中に突っ込む理由 「痛み止め」より「劇薬」になりたい <空気は、読まない。>1

2020年3月4日 07時00分
 周囲の「空気」を読むのではなく、自分が信じる道を突き進む人たちにインタビューする連載<空気は、読まない。>をスタートします。第1回はお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さん。政治的発言はNGとされる芸能界で、ひるむことなく原発や基地問題についてしゃべり続ける、その心は。 (聞き手・木谷孝洋)

◆マスク姿で漫才に 表現する覚悟はあるか

 空気を読めないというのはある種の能力ですよ。空気を読むことに我慢できない人が歌を歌ったり、絵を描いたり、お笑いをやったりしてる。自分の責任で何かを表現する覚悟があるか。責任を取りたくないから同調するみたいなところがあるじゃないですか。みんなリスクが怖い。
 この前、お客さんがマスクをしてたんですよ。僕もマスク姿で漫才に出て「皆さんが不安な時はこちらも不安ですからね」と、つかみのネタにしようとした。そしたら(吉本興業の)社員が「客が本気で怒るかもしれないから、やめたほうがいい」と言うんです。劇場や社員は、オーケーと言ったら責任を取らなきゃいけないから。
 「自分が責任を取るから笑いを取ってこい」と言われたら気持ちよくできるのに、やめたほうがいいとなると芸が丸くなる。お客さんも楽しくないでしょ。やりましたよ。結局、マスクをしていた最前列のおばちゃんに「マスクを取れ」と怒られた。冗談が通じない人がいたけど、それはそれでいいかなと思って。

◆世の中突っ込みどころだらけ 無関心の怒りを漫才で

 お笑いって、社会のスケッチなんですよ。石を投げて波紋を見ないと社会の形は分からない。「ボケ」なんていらなくて、世の中に突っ込みまくった方がよっぽど面白い。突っ込みどころだらけだから。
 だって「桜を見る会」で菅(義偉)官房長官が反社会的勢力の人と写真を撮ったと言われてもおとがめなしなのに、芸人だと干される。いつの間にかこの国は、政治家より芸人の方が責任ある仕事をしているということですよ。
 安倍政権を支えているのは、中国や韓国に強く言ってくれるという期待のもとで、彼(安倍晋三首相)が赤信号を無視しても許す人たち。とても服従的で逆らわない。それは日本政府にも、米国にも。

昨年4月、「桜を見る会」であいさつする安倍首相=東京・新宿御苑で

 福島の浪江町に行った帰りに喜多方ラーメンの店に入ったら、デブリ(原子炉内に溶け落ちた核燃料)撤去のニュースを、地元の人が箸を止めて見ていた。それが衝撃的だった。沖縄で基地のニュースが流れたら見る人はたくさんいる。東京とかだと見ないですよ。無関心というか自分のことにならないと「そういうもの」と受け入れ続ける国なんだと思う。そこの怒りに、漫才で何かを言いたい。
 「働き方改革」なんかネタにしてもたたかれないのに、原発とか沖縄の基地とか韓国に触れた瞬間、ぶわっと批判する人がいる。それが僕にとって面白い。

◆匿名でないと意見言えない日本 「雑音」気にしない

 (世界初の有人飛行をした)ライト兄弟の時代にSNSがあったら、空を飛ぶのをやめてたんですかね。ばかなことをするなとか、誰が責任を取るんだとか言われて。でも、何を言われても彼らは空を飛んだと思う。
 日本って、世界でも有数の匿名でSNSをやっている国でしょ。顔を隠さないと自分の意見を言えない。沖縄で(米軍新基地建設阻止の)座り込みをしているおばさんも、マスク姿で眼鏡をかけて帽子もかぶっている。写真に撮られると家族に迷惑がかかるから。それでも意思を示したいからあそこに座るわけですよね。ネットに書き込むだけの人より、はるかに勇気があって素晴らしいこと。そこはリスペクト(尊敬)したい。
 いちばん情けないと思うのは「雑音」を言う側ではなくて、「雑音」を気にする側。僕は、ばかにされようと、本職はお笑いだからネタにすればいい。人の意見を気にしていたら、何もできませんよ。

◆沖縄、在日韓国人… 数字にならなくてもネタにする意味

 おこがましくも「アート」という言葉を使わせてもらうけど、アートは多くを追いかけてはいけない。政治家もテレビもYouTubeも、投票数や視聴率、登録者数といった数字を一生懸命追いかけるあまり、とりこぼしているトピックがある。こいつは数字にならないと決めつけて。でも、その中で生きている人もいるわけですよ。沖縄とか朝鮮学校とか在日韓国人の問題がそう。
 スキャンダルを起こした芸能人も、政治家も、ネタにされてうれしいってことあるじゃないですか。全員から無視されて「この人、いじったらだめ」となるのがいちばんつらい。お笑いは「ここにいるよ」って指さすことができる。たまに「指さすな!」と怒る人がいるけど。
 来年から米国に拠点を移そうと思っている。日本にいたら劣化しそうな気がして怖い。自分をチェンジさせたい。劣化じゃなくて変化。一部の幸福な人のための薬局に並んでいる痛み止めみたいなお笑いには興味がない。活動家と言われてもいいから、「劇薬」になりたい。賛否両論ある、きつめの薬になりたいんですよね。
        ◇
 村本大輔(むらもと・だいすけ) 1980年生まれ。福井県おおい町出身。2008年に中川パラダイスとお笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」結成。13年に漫才コンクール「THE MANZAI」で優勝。原発や沖縄基地問題、朝鮮学校など政治・社会問題を早口で風刺する。SNSでも積極的に発信。単独で米国に進出する計画を表明した。独演会を各地で展開中。

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