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【一聞百見】火箸風鈴の音色は「東洋の神秘」 明珍家第53代当主・明珍宗敬さん

「10年を超えて多少自信がついた」と話す明珍宗敬さん=兵庫県姫路市(柿平博文撮影)
「10年を超えて多少自信がついた」と話す明珍宗敬さん=兵庫県姫路市(柿平博文撮影)
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 つるされた一対の火箸(ひばし)が触れ合うたびに、心地よい澄んだ音色が響き渡る「明珍(みょうちん)火箸風鈴」。遠方の偶然入った店先でふと、この涼やかな音が聞こえると、ファンは全国にいるのだと気づかされる。製作を手掛けるのは、兵庫県姫路市に工房を構える明珍家。平安時代の甲冑師(かっちゅうし)の流れをくむ鍛冶職人の家系だが、今春、その長い歴史に新たな一ページが加わった。約30年ぶりの世代交代。第53代当主に就任した明珍宗敬(むねたか)さん(45)の心境を聞こうと、工房を訪ねた。(聞き手・姫路支局長 小林宏之)

30年ぶり世代交代

 世界文化遺産・姫路城から北に約1キロ。にぎやかな街の一角に明珍の工房がある。中をのぞくと、薄暗い作業場に赤紫の炎が燃え盛る炉。その中で紅色に輝くコークスの塊。炉の前に座る宗敬さんは、その炎から取り出した細い鋼(はがね)の棒を金床に載せ、金づちでリズミカルに鍛え続けた。「ふと気づけば、たたくリズムは先代と同じ。きっとここに、いい音を出す秘密が隠されているんでしょうね。私たちが継承しているのは、このリズムなのではないかと思うんです」

澄んだ音色にファンが多い「明珍火箸風鈴」
澄んだ音色にファンが多い「明珍火箸風鈴」
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 明珍家の歴史は平安後期にさかのぼる。近衛天皇に鎧(よろい)などを献上した際、轡(くつわ)の触れ合う音を「音響朗々、光明白にして玉のごとく、類いまれなる珍器」とたたえられ、この姓を授かったと伝わる。「家の始まりに深くかかわっている『音』という要素。シンセサイザー音楽の第一人者、冨田勲さんも火箸風鈴の音を愛してくれた方で、自身の楽曲の中に再三、火箸風鈴の音色を取り入れてくれました。彼の紹介で音を聴いた米歌手のスティービー・ワンダーさんは『東洋の神秘』と称賛してくれたんです」

 このほかにも、火箸風鈴の音に惹(ひ)かれるアーティストやクリエーターは数知れず。映画監督の山田洋次さんも「たそがれ清兵衛」や「武士の一分」などで効果音に火箸風鈴を使用したそうだ。「明珍家は『音』によって生まれ、生き残ってこられた。これから先も『音』がキーワードであり続けると思います」

 52代当主の父の宗理(むねみち)さん(79)が高齢のため体力の衰えを感じるようになったことから、一線を退く決意を固めた。そして今年3月31日、代替わりの神事を同県宍粟市一宮町の伊和神社で執り行った。

 「責任は重大だが、明珍の長い歴史の中では通過点の一つ。日々の仕事をこなしながらチャレンジ精神も大切にしたい」。境内で決意表明した新当主は、きょうも工房で鋼の棒に『音』の魂を込めるべく金づちを振り下ろす。

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