全国で相次いだ充電スタンド撤去 異業種タッグで反転後押し

大阪府内で12社が連携して、EVや充電器を共用しニーズを探る実証実験
大阪府内で12社が連携して、EVや充電器を共用しニーズを探る実証実験

自動車メーカーや世界各国がこぞって舵を切った自動車の電動化。電動車の中心となる電気自動車(EV)の普及には、充電スタンドや車載電池のリサイクルといった、自動車の「周辺事業」も必要だ。だが、国内では想定よりEVの普及ペースは遅く、急増してきた充電器は一時減少した。企業側はニーズを探り直すなど立て直しを図る。EVをめぐっては、電気料金や資源価格の高騰で車載電池のリサイクルの重要性が高まるなど周辺事業にチャンスが広がる。さまざまな業界が注目し、関西でも異業種連携が進む。

採算合わず

「これからEVシフトが進む。大阪市としては契約更新を希望したんですが、採算が厳しかったようです」

大阪市役所の地下駐車場に設置されたEVの急速充電器。今月24日でのサービス終了が決まったことに、市の担当者は残念そうに話した。充電器は「エコカーの普及促進」を目指す事業の一環として、市が運営事業者と契約し、平成30年3月に設置された。

だが利用は伸びず、今年度の利用は2月末時点で68回。昨年度は42回にとどまっていた。充電するのにも駐車場代が別途かかる利便性の悪さも災いしたようで、充電器の運用事業者は「総合的に判断して契約更新見送りに至った」と説明する。

ここ数年、EV充電器の撤去は各地で起きている。

撤去が決まった大阪市役所地下駐車場のEV充電器。利用がふるわなかった=大阪市北区
撤去が決まった大阪市役所地下駐車場のEV充電器。利用がふるわなかった=大阪市北区

地図制作会社のゼンリン(北九州市)の調査によると、全国の商業施設などの公共の場所で使えるEV用充電器の数(普通充電器、急速充電器の合計)は、右肩上がりを続けていた。24年度に始まった国の大型補助金制度なども後押しし、30年度に3万基を突破。24年度から令和元年度までの7年間で約4倍に急増した。

だが、元年度の3万320基をピークに2年度には2万9233基と減少。その後微増したが、今年2月末現在も3万基には戻っていない。EVの普及が想定より進まなかったのが原因だ。

EVの普及を見込み、早くに設置された充電器は次々と耐用年数を迎え、設備を更新しても採算が合わないとして撤去するケースが増えたとみられる。

国、企業動く

政府は令和12年度に、国内のEV充電器を15万基に伸ばす計画を立てる。4年度、5年度にそれぞれ関連予算を計上。経済産業省は「充電器が減ったことは認識している。増やす取り組みをしていかないといけない」とし、テコ入れを図る。

企業も動き出した。充電器はどんな場所にどれくらいあれば利用しやすいのか。大阪府内でEVや充電器を保有する企業などが連携し、共同で実験する試みが今年2月から始まっている。

参加しているのは関西電力、家電量販店の上新電機、高島屋など12社。実験では、各社が所有する充電器とEVを参加企業間で共用(シェア)。参加企業は営業車などでEVを使いながら、充電器の利用頻度や場所などをデータ化し、需要のありそうな場所の条件を探る。データをもとに、主に法人向け用の充電器を設置していくという。

一般向けに充電器設置を拡大する際の要となるのが、集合住宅だ。日産自動車が昨年12月にまとめた、EV購入を検討する400人(30~50代)へのアンケートによると、集合住宅に住んでいるが充電設備が無いため「EV購入が難しい」と考える人は88・6%いた。

EVの充電インフラをめぐる企業の取り組みC
EVの充電インフラをめぐる企業の取り組みC

これを受け、日産は積水ハウスと組み、今月4日から横浜市内の積水ハウスの集合住宅に充電器を設置、日産のEV「リーフ」を貸し出し1泊2日でEVと充電器のある暮らしを無料で体験する実験を始めた。集合住宅でのニーズを探り、両社とも将来の商品開発に役立てる。

東京都が、新築マンションにEVの充電設備設置を義務づける全国初の条例を定めるなど、今後集合住宅への設置が進む可能性がある。住宅業界のEV対応も加速しそうだ。

リサイクルにも新ビジネス

充電器関連以外でも、EV関連のビジネスは広がる。自動車部品メーカーの業態転換を支援する経済産業省の「ミカタプロジェクト」の一環で2月、大津市内で開かれたセミナーでは、EV化を機に自動車分野への進出を強める企業が取り組み事例を紹介した。

島津製作所は、EV開発に必要な車体、電池などの耐久性や強度を計測する機器を開発。モーターの部品材料となる金属粉末を画像解析して強度を測定する機器や、エックス線を活用してEV車体の状態を高精細に判別し、廃車時の車体リサイクルにも役立てる機器など多くの商品を投入している。分析計測事業部の夏原正仁・特任部長は「リサイクルをどうしようかというのが、今のメーカーの課題と聞く。技術で解決していきたい」と話した。

EVシフトは、エンジン車にはなかったビジネスも生み出す。昨年6月に設立されたベンチャー、アプデエナジー(滋賀県近江八幡市)は、経年劣化するEVの電池のリサイクルを手がける。王本智久社長によると、国内で廃車となったEVの電池の半数が、中国やモンゴルに輸出されている。日本でのリサイクルにかかるコスト高が原因といい、王本氏は「国内に資源をとどめる仕組みを作りたい」と話している。(織田淳嗣)

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