露、ソ連とナチスの「同一視」禁止

6月30日、国民とのテレビ対話で質問に答えるロシアのプーチン大統領(タス=共同)
6月30日、国民とのテレビ対話で質問に答えるロシアのプーチン大統領(タス=共同)

【モスクワ=小野田雄一】ロシアでこのほど、第二次大戦に関する旧ソ連とナチス・ドイツの行動を同列に扱うことを禁じる新法が発効した。プーチン露政権は、大戦勃発の端緒がナチスとソ連の密約にあったとの見方を封じ、ソ連を「ファシズムからの解放者」「偉大な戦勝国」とする国定史観の徹底を図る構えだ。歴史認識をめぐる国内での締め付けがいっそう強まる流れとなった。

新法は「演説や著作物、メディア、インターネット上でソ連とナチスの目標、決定、行動を同一視すること」を禁止する内容。法制定はプーチン大統領自身が主導し、今後、罰則も定められる見通しだ。国内では「学術的な研究さえ不可能になりかねない」との危惧が出ている。

ナチス・ドイツとソ連は1939年8月に独ソ不可侵条約を結び、付属の秘密議定書に基づいてポーランドに侵攻した。欧州議会は大戦勃発から80年だった2019年9月、ナチスとソ連という「2つの全体主義体制」による密約が大戦に道を開いたとする決議を採択した。

大戦期のソ連の行動を神聖視し、「戦勝」を国威発揚に利用してきたプーチン政権は決議に強く反発した。プーチン氏は昨年6月に米政治外交誌で反論を発表したほか、今年6月にも独誌に「ソ連軍は欧州と世界を奴隷化から救った」とする論文を寄稿した。

近年のプーチン政権は歴史教育の強化や史料の機密指定を通じて歴史認識の「国家一元管理」を進めており、今回の新法制定もその一環だ。昨年7月に発効した改正憲法には「祖国防衛の偉業をおとしめること」を禁じ、「歴史の真実を守る」との条項も設けられた。政権の歴史認識は、北方領土を「戦利品」とし、その占拠を正当だと主張することにもつながっている。

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