追悼・渡部昇一さん

教科書検定「侵略→進出」は大誤報だった 「虚に吠えた中韓」暴いた渡部昇一さん

北朝鮮も反発。戦争の一方的な加害者であるソ連のモスクワ放送までが軍国主義の復活などと日本を非難した。韓国では釜山の日本総領事館が投石され、日本人に対する販売拒否、タクシー乗車拒否が行われた。香港では歌手の三原順子さん(現・参院議員)が出演予定だった音楽祭や、さだまさしさんの公演などが中止された。

日テレ記者のミスを各社見逃す

だが、56年度の教科書検定で中国への「侵略」を「進出」に書き換えさせたケースはなく、大誤報だった。

なぜ各社そろって間違えたのか-。当時、文部省の記者クラブ「文部記者会」は教科書検定報道の準備の際に、膨大な冊数の教科書のチェックを各社が分担し、持ち寄って報告しあう慣行があった。実教出版の「世界史」を担当した日本テレビの記者が「『日本軍が華北を侵略すると』という記述が、検定で『日本軍が華北に進出すると』に変わった」と報告した。実際には検定前から「進出」と書かれていたが、各社が自社の責任で確認せずに報じたのだ(現在はこの分担取材は行われていない)。

文部省は誤報と知っていた。7月29日から30日にかけて、衆院の文教、外務、内閣の各委員会や参院文教委員会で鈴木勲初等中等教育局長や藤村和男教科書検定課長が「『侵略』を『進出』にしたケースは、56年度検定の教科書の中では見当たらない」などと答弁した。

マスコミ各社も気付き始めたが、目立たない軌道修正で済ませ、訂正やおわびは行わなかった。産経新聞は28日付で「中国政府に誤解もある」「検定前も『日本軍が華北に進出すると…』であり、『中国への全面的侵攻を開始した』である。検定で変わってはいないのだ」と書いた。30日付の朝日新聞は参院文教委のやりとり詳報の中で鈴木局長の答弁を紹介。同日付の毎日新聞も「これまでの調べでは今回の検定で『侵略』が『進出』に言い換えられた例は見つかっていないという」と触れただけだった。

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