日本の議論

余っていたはずの公認会計士がなぜ不足? 受験離れの背景に金融庁の失策も…

公認会計士試験の願書提出者数と合格者数の推移
公認会計士試験の願書提出者数と合格者数の推移

かつて公認会計士試験に合格したにもかかわらず就職できない人たちがあふれかえった時期があった。それが今では、受験離れが進んで合格者数の落ち込みが激しく、主な受け皿となっている監査法人が人材確保に苦慮する事態となっている。背景には、かつての就職難のイメージを払拭できないことに加え、需要が増加すると見込んだ金融庁の見通しの甘さも指摘されている。公認会計士を取り巻く環境はどのように変化してきたのか。(田中俊之)

「年間2千~3千人の試験合格者を」、構想は描いたが…

「平成30年ごろまでに公認会計士の総数を5万人程度の規模と見込むこと」

「年間2千人から3千人が新たな試験合格者となることを目指すこと」

これは、有識者らでつくる金融庁の金融審議会公認会計士制度部会が14年12月にまとめた報告書の内容だ。将来の適正な公認会計士の数を算出することは困難としながらも、金融庁に一定の目標と見通しを持つよう提言。監査法人だけでなく一般企業でも会計士の需要が広がっていくとの期待もあった。

そこで、金融庁は18年から試験制度を変更。旧制度の試験は1次(大卒であれば免除)、2次(短答式試験と論文式試験)、3次(実務経験後の試験)があったが、新制度では旧制度の2次の中身を拡充することで試験回数を減らすなど簡素化。社会人でも資格取得を目指しやすくした。

しかし、もくろみは外れてしまう。新制度後の18~20年は2万人以上が受験し、各年3千人以上が合格したが、監査法人だけで合格者を抱えきれなかったことに加え、一般企業への採用も進まず、就職できない合格者があふれかえった。

その後、リーマン・ショックの影響で監査法人が採用を絞ったことも重なり、受験離れが加速。願書提出者は18~23年は2万人を超えていたが、その後は急速に減り続け、昨年は1万870人にまで減少した。18~20年に各3千人を超えていた合格者も昨年は1102人で、新試験で最少だった。「平成30年ごろまでに5万人程度」と銘打った会計士の総数も2万7千人程度にとどまっている。

監査法人も人材確保に苦慮

一時は余っていた公認会計士だが、リーマン・ショック後に大規模な人員削減を実施した監査法人もあり、現在は一転して人材が足りないという事態に陥っている。

大手監査法人の新日本、トーマツ、あずさの3法人は今年、いずれもほぼ計画通りの300人程度を確保。しかし、ある大手監査法人の中堅社員は「マネジャークラス、いわゆるベテランの流出が深刻で、新人だけで補うのは苦しい。若手が多くなり、人材の量はもちろんのこと、質の問題も大きい」と漏らす。監査法人を退職した会計士は、新たに会計事務所を立ち上げ、報酬の高いコンサルティング業務などをしているケースがあるという。

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