原点の遊撃手、プライドにじむ ロッテ・鈴木大地(上)
"デビュー戦"は散々だった。中学2年生だった14歳の秋。静岡県裾野市の野球チーム「静岡裾野リトルシニア」の新チーム初戦で、遊撃手として出場した鈴木大地(24)はエラーをし、チームは負けた。まだ外野からコンバートされたばかり。「無理だと思っていた」という本人の悪い予感は見事に的中する。
■「失格」から10年でベストナイン
「おまえは史上最低のショートだ」。試合の後に当時の指導者から投げかけられた言葉も追い打ちをかけた。
詳しい試合経過は忘れてしまった。ただ、悔しくて泣いたことだけは覚えている。それでも、野球をやめようとは思わなかった。「うまくなってやる」。涙を流しながら決意し、春の大会までの間、遊撃守備の練習に没頭した。
今になれば、厳しい叱責も負けず嫌いの性格を見込んでの発破だったということは理解できる。「シュンとならずに向かっていこうと思えた。そういう気持ちで(遊撃手として)スタートを切れたことが、良かったのかもしれない」
「失格」の烙印(らくいん)を押されてから10年が経過した2013年、鈴木は「遊撃手」としてパ・リーグのベストナインに選ばれた。
■地肩の強さ生かした堅実なプレー
東洋大では三塁も守った。プロでは内野のユーティリティープレーヤー(万能選手)との評価も高い。それでも、「原点」といえる遊撃手というポジションについての思いは強い。「長くやってきたというこだわりはある」。さらりという言葉にプライドがにじむ。
「野球はセンターラインといわれる。大リーグを見ても、ショートにはすばらしいスターがいる。そのポジションを守ることに恥じないようなプレーをしなければならない」
地肩の強さを生かした堅実なプレーが売り物だ。昨季は123試合でショートの守備につき、失策9、守備率9割8分3厘は規定試合数に達した遊撃手の中でリーグトップ。
決して派手ではないものの、練習量に裏打ちされた安定性が評価されてベストナインに選出された。
■「練習するしかない」決意は今も
ただ、現状には満足はしていない。まだまだ発展途上ということは自覚している。「ベストナインはうれしいが、打撃(打率2割6分4厘)も含めて胸を張って受賞できる数字ではない。監督、コーチ、スタッフら、みんなにとらせてもらったと思っている」というのが本音だ。
今季は背番号が35から7に変わる。10年にロッテが日本一になった時にキャプテンとしてチームを引っ張った西岡剛(現阪神)が大リーグに移籍してから誰も着けなかった番号だ。
強烈な個性を放った先輩遊撃手のイメージはいまだに残るが、「僕の色をしっかり出さなければいけない」と言葉に力を込める。
チームの看板ともいえる背番号を背負うことになっても、やることは涙を流した中学時代から変わっていない。「レベルアップするには、練習するしかない。自分を見失わないように、追い込んでいきたい」。プロ3年目のシーズンに臨む気持ちにはブレがない。
(敬称略)
〔日本経済新聞夕刊1月20日掲載〕