西村由紀江、デビュー35周年 被災地に届けたピアノの力
2011年の東日本大震災直後から「スマイルピアノ500」という活動を続けてきた。使われなくなったピアノを集め、被災地の家庭でよみがえらせる。必ず搬入に立ち会い、弾き初めをしてきた。10年で届けた数は60台あまり。音色に涙する人もいた。「ピアノには心を解きほぐす、すごい力があると感じた。これからもっと大事に弾いていきたいという気持ちにさせてもらった」
活動のきっかけはテレビのニュースで、ある少女を見たこと。衣食住もままならない状況で「ピアノがほしい」と言った。「この子に届けなきゃと思った」。同年9月、道路が所々寸断されている中で、最初のピアノを仮設住宅に届けた。
パーソナリティーを務める東北のラジオ番組などでピアノの希望者を募ってきた。当初は殺到したが、ここ1年ほどは寄せられていない。「ピアノが被災した家庭には、ある程度行き渡ったのでは」
10年間の集大成として「スマイルピアノ」という曲を作り、新アルバム「ピアノスイッチ2」に収めた。「何もなかった場所に草木が生え、人が集まり、希望が広がっていくというイメージの曲」
活動は新たなステージに入る。「これからは届けたピアノを長く愛してもらうことをやりたい」。1月には被災地を対象に、オンラインレッスンを開いた。
21年にデビュー35周年を迎えた。デビュー当時は、自作を演奏するスタイルがなかなか受け入れられなかったという。だが弾き続けるうちに「ピアノの楽しさを自分自身が感じて、伝えていくしかないと思うようになった。するとすごく気持ちが楽になり、迷いがなくなった」。自らも、ピアノの力に救われた一人だ。