パソコン新機軸打ち出せるか VAIO新会社
ソニーが投資ファンドに売却したパソコン事業部門が1日、新会社VAIO(バイオ、長野県安曇野市)として業務を始めた。ソニーの構造改革担当バイス・プレジデントから新会社に転じた関取高行社長は同日の会見で、2015年度に30万~35万台を販売し、パソコン事業を黒字化する方針を表明した。
「240人の小さな会社になったからこそ、思い切った事業の集中と選択のほか、事業の変化にも迅速に対処できる。ユーザーが求める本質を突き詰め、一点突破の特徴を持つパソコンを作り出す」。同日の会見で関取社長はこう強調した。
そうした特徴を持つ新製品の発売時期については明言を避けたが、早ければ今年の年末商戦の発売を目指しているもようだ。
新会社は当面、国内向けの製品開発を進める計画で、基本ソフト(OS)に米マイクロソフト(MS)のウィンドウズを搭載したパソコンに絞り事業展開する。上位モデルは安曇野市内にある本社工場で生産。低価格モデルは台湾などのEMS(電子部品の受託生産サービス)企業で生産するが、安曇野で仕上げと検品をする体制を取ることで品質を確保する。
販売面の戦略も転換。従来は家電量販店など幅広いルートを使っていたが、ソニーマーケティング(東京・港)が総販売代理店となり、ソニーの直営店や直販サイトでの販売に注力するほか、家電量販店は一部に絞り製品の展示やオーダーメード商品を販売する計画だ。
ソニーがVAIOブランドでパソコンの製造・販売を始めたのは1996年。当初は薄型モバイルノートの先駆けとなった「バイオノート505」が人気を集めた。その当時はまだOA機器との位置づけが強かったパソコンに銀色や紫色の色彩を採り入れるなど、奇抜なデザインなどをてこに人気ブランドの地位を確立した。
ここ数年は上位モデルで処理速度の速さやAV(音響・映像)機能の豊富さを打ち出した。ハイエンド層のニーズに応えつつ、低価格モデルではデザイン性で他社との違いを鮮明にし、10年度には世界で870万台を販売。MM総研(東京・港)によると、国内シェアは7位だった。
パソコン販売が傾いたのはその後のことだ。米国勢や中国・台湾勢などが低価格製品の販売を本格化。消費者はスマートフォン(スマホ)やタブレット(多機能携帯端末)にシフトし始めたのに加え、MSが12年に発売した新OS「ウィンドウズ8」の不振やVAIOの需要を下支えしていた新興国の景気低迷などが重なり、13年度には期初見通しより190万台少ない560万台にとどまるなど、販売不振に陥っていった。
主力のエレクトロニクス事業の黒字転換を最優先課題と位置づけるソニーは、テレビ部門の分社化と並ぶ構造改革の柱としてVAIO部門の売却を決断。投資ファンドの日本産業パートナーズ(東京・千代田)が95%、ソニーが5%を出資して設立したVAIOがパソコン事業を引き継いだ。売却前に約1100人いたソニーのVAIO部門の従業員はグループ内の配置転換と希望退職により約240人まで減少した。
「ソニーを離れて大丈夫かと不安を感じる人もいるだろう。だからこそ、本質とプラスアルファを追求した製品を出すことで、この会社なら応援するかと思ってもらえるブランドづくりをしたい」と話す関取社長。パソコン市場が停滞するなか、どのような新機軸を打ち出すのか。時間的な猶予はあまり残されていない。
(電子報道部 金子寛人)
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