京都の地下鉄 再建へ両輪 駅ナカ10億円突破、乗客増でキャラPR
京都市営地下鉄は乗客数の上乗せや駅ナカビジネスの拡充を急いでいる。全国の公営地下鉄で唯一、経営状況が極めて厳しいとして「経営健全化団体」の指定を国から受けているが、解除の見通しとなり、自助努力による増収策が課題となるためだ。初乗り運賃が210円と大阪市の地下鉄より30円高い現状を踏まえ、サービス向上策も求められる。
京都市の門川大作市長は2日記者会見し、2017年度決算をもって地下鉄が経営健全化団体から脱却すると発表した。指定から9年、借入金を返済する見通しが全く立たない状況が改善する。沿線への大学誘致などにより定期的な利用者が増加。好調な観光需要の追い風があり、1日あたりの乗客数が08年度に比べ2割増の38万7000人まで増えたのが大きい。
ただ、経営は再建の途上であることには変わらない。門川市長は「大阪市の地下鉄民営化は借金がないからできる。京都は20年くらいかかる」と話す。運賃の値下げについても「下げたら客が増えるわけではない」と懐疑的だ。
17年度決算の経常黒字はわずか2億円。企業債などの残高は3600億円を超える。再建を軌道に乗せるには、乗客の上乗せが欠かせない。
今年3月、増便を柱とした8年ぶりのダイヤ改正を実施した。17年7月には市とJR西日本など官民で地下鉄やバスの利用を促す団体を設立。街歩きと地下鉄利用を組み合わせる「歩くまち・京都」という取り組みも進めて、「萌えキャラ」を使ったPRポスターの掲載といった多角的な取り組みで集客増につなげる。
駅ナカのビジネスも拡大している。16年、東西線と烏丸線の乗り換え地点の烏丸御池駅の駅ナカスペース「コトチカ御池」を拡充。今年3月、烏丸線の北大路駅にも開業した。17年度は目標としていた売り上げ10億円を突破した。
足元の経営改善は市の財政面の支援が大きい。市からこれまで600億円以上の出資金を得ているが、健全化団体から脱却すれば支援も細る。改集札機など設備の更新を遅らせてきたため、設備の老朽化が一部で目立っている。市は今後10年間で700億円超の更新費用が必要になるとみている。
京都市は17年から、地下鉄事業や市バスを含めた19年度から10年間の新経営ビジョンの策定を進めている。バスを含めた連携策など公共交通全体での利用促進策も今後、課題になる。
サービス向上、大阪先行
関西には大阪、京都、神戸の3地下鉄があり、1日300万人超が利用する。少子化や人口減など経営環境は厳しく、増収は容易ではない。
京都の地下鉄について、関西大学の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「多額の債務にばかりとらわれて、車両の増備など設備投資を怠っていた」と指摘する。必要な投資を活発化させることで「混雑緩和やサービスの向上が見込め、さらに乗客数の増加につながる」とみている。
先行するのが4月に民営化し、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)となった大阪市。運賃の値下げを民営化に先駆けて実施した。2014年4月に初乗り運賃を20円値下げして180円に。17年4月には2区運賃も10円値下げして230円とした。
民営化へ向けたコスト削減に加え、インバウンド(訪日外国人)増加などの追い風もあって、18年3月期の経常利益は5期連続で最高となる見通しだ。
それでも大阪メトロは18年度から7カ年の中期経営計画では非鉄道事業を拡大する方針を打ち出した。「鉄道事業は今後の人口減少で大幅な成長が見込めない」(河井英明社長)とみるからだ。
非鉄道事業の柱に据えたのが「都市開発」だ。遊休資産を活用してマンションやオフィスビルを開発。湾岸部の人工島「夢洲」への統合型リゾート(IR)の誘致が実現すれば、同エリアに商業施設も整備する。非鉄道の売上高比率を現状の約17%から24年度に27%に引き上げる。
鉄道事業は安全性や快適さの向上に重点投資する。24年度までに可動式ホーム柵の整備に250億円、防災対策に160億円、バリアフリー対応に85億円を投じる。
京都の場合、大阪に比べて都市圏の人口が少なく、ビジネス客の伸びが期待しにくい。「身の丈」にあった経営に配慮しつつ、サービス向上に努める必要がありそうだ。(赤間建哉)