トランプ氏、体制保証を約束 拉致問題を提起
米朝共同声明
【シンガポール=永沢毅、恩地洋介】トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長は12日、シンガポールで初めて会談した。両首脳は北朝鮮が「朝鮮半島の完全な非核化」に取り組み、米国は体制保証を約束することを柱とした共同声明に署名した。ただ非核化の具体策は盛り込まず、今後の協議に委ねた。トランプ氏は会談で日本人拉致問題を提起した。
共同声明は(1)新しい米朝関係の構築(2)朝鮮半島の平和構築に努力(3)朝鮮半島の非核化を合意した「板門店宣言」を再確認(4)朝鮮半島の戦没者の遺骨回収を確認――などを盛り込んだ。米国が求めてきた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の文言は入らなかった。
トランプ氏は会談後に1人で記者会見し「完全な非核化には時間がかかる。いったんプロセスを始めれば、ほとんど終わる」と強調。非核化の詳細を詰める協議をポンペオ国務長官が来週から始めると説明した。非核化を終えるまで「対北朝鮮制裁は継続する」とした。非核化の費用は「日韓が支援する準備ができている」と語った。金委員長がミサイルエンジンの実験場を廃棄すると約束したとも明らかにした。
米朝は朝鮮戦争の終結を声明に明記しなかったが、トランプ氏は近いうちの合意に期待を表明。米韓軍事演習は「とても挑発的だ」と指摘し、米朝対話の継続中は中止する意向を示した。在韓米軍の撤退は「いつかは実現したいと願うが、いまではない」と述べた。
会談でトランプ氏は「私たちは素晴らしい関係を築ける。それを疑っていない」と敵対関係改善に意欲を表明した。金委員長も「過去を果敢に克服し、向かい合うことは平和の前奏曲となるだろう。大きな事業を始める決心がある」などと呼応し、史上初の首脳会談の意義を誇示した。
共同声明の署名式では、トランプ氏が「朝鮮半島との関係は過去と全く違ったものになる」と強調。金委員長は声明に関し「過去を払拭し、新しい出発を知らせる歴史的文書」と指摘。そのうえで「世の中はおそらく重大な変化をみることになるだろう」と語った。
首脳会談はセントーサ島の高級ホテル「カペラ・ホテル」で開いた。両首脳は現地時間12日午前9時(日本時間同10時)過ぎからまず通訳だけを交えて約40分間会談。さらに閣僚らを加えた拡大会合を約1時間40分開き、昼食をともにした。
トランプ氏は12日夜にシンガポールを出発し、米国への帰途に就いた。大統領専用機内で韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と電話し、米朝会談の結果を報告。文氏は「期待以上の成果だ」と伝えた。
金委員長も12日夜に滞在先のホテルを出発し、空港に向かった。
一方、ポンペオ米国務長官は14日、ソウルで河野太郎外相、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と会談し、首脳会談の内容を共有する。