シーメンス、稼ぎ頭あえて上場 医療機器M&A機動的に
独シーメンスの医療機器部門シーメンス・ヘルシニアーズが16日、フランクフルト証券取引所に上場した。シーメンスにとって同部門は電力ガスなどを含めた主要8部門で最大の稼ぎ頭だ。その株式を放出し、あえて上場させるのはなぜか。
ドイツで「株式の日」の16日、ヘルシニアーズ株の取引は公開価格を4%上回って始まった。初値での時価総額は291億ユーロ(3兆8千億円)。事前予想は最大5兆円とも言われたが、落ち着いた滑り出しとなった。
シーメンスは上場で発行済み株式の15%を売り出した。ジョー・ケーザー社長は「今後もマジョリティーは維持する」と話す。裏を返せば残る85%を持ち続ける必要はないということ。同社幹部は「独立した上場企業になるということは、M&A(合併・買収)をしやすくなること」と言い切る。株式交換によるM&Aや資本提携が増えれば、資本の面でも独立性が高まる可能性はある。
ヘルシニアーズの2017年9月期の売上高は138億ユーロ、営業利益は24億9千万ユーロで連結営業利益の約3割を占めた。屋台骨をあえて切り出すのは、医療機器市場に「パラダイムシフト」(ヘルシニアーズのマイケル・セン会長)が迫っているため。データ活用が進み、個々の患者に合わせた治療などが普及すると、医療機器の利用法や開発手法も変わってくる。
例えば開発中の「シネマティックレンダリング」と呼ぶ技術。コンピューター断層撮影装置(CT)の技術と病理学の知見に、ビッグデータ分析や人工知能(AI)を組み合わせ、患者個人の病状を反映した体内の映像をフルカラーで映し出す。自社で蓄積した研究成果に加え、外部の資源を貪欲に取り込む構えだ。
データ活用の普及が業種を超えた連携を促す。米ゼネラル・エレクトリック(GE)はスイスの製薬大手ロシュと組み、がんを早期診断できるシステムの共同開発に乗り出した。生体情報や遺伝子のデータに、患者のカルテや最新の研究結果を統合し、効率的な診断ソフトの販売を目指す。
医療機器は参入障壁が高く、価格競争も起きにくい特殊な市場だった。医師が治療に使うため、販売には各国政府などからの承認が必要。法規制への対応も不可欠で、新参者を阻んできた。しかしデータやAIがカギになると、従来と違うライバルも登場してくる。
1月末の決算発表でケーザー氏は米アマゾン・ドット・コムの名前を挙げた。アマゾンはウォーレン・バフェット氏の運用会社などと共同で、良質で安価な医療を提供する新会社の設立を発表。具体的な施策は明らかになっていないが、ケーザー氏は「医療システムを大きく変える可能性がある」と警戒する。
日本勢も医療機器分野の強化に動いている。だが、売上高ではオリンパスの世界19位が最高だ。ダイナミックに動き始めた世界との距離を縮めるのは簡単ではない。
(フランクフルト=深尾幸生、秦野貫)