相撲にもっと親近感を抱いてほしい-。元関脇でタレントの豊ノ島が日刊スポーツの単独インタビューに応じた。1月に相撲協会を退職し、約4カ月。連日の様にテレビやラジオに出演するなど引っ張りだこだ。角界から離れたからこそ、伝えたい相撲の魅力があると意気込む。第2の人生を歩む、今とこれからを聞いた。【取材・構成=島根純】

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トークの瞬発力は土俵上と遜色なかった。自身の「しゃべり」について振ると、コンマ数秒でバチーンと返ってきた。

豊ノ島 振られてしゃべるのは得意なんですけど、MC的なのはちょっと…。「まわし」が苦手なんですよ、力士のくせに。

撮影をしていたカメラマンが思わず吹き出した。笑いに包まれるインタビュー部屋。しゃべれるタレントとしての姿が、すっかり板についている。そう水を向けると「まだまだですよ」と苦笑いを浮かべた。

豊ノ島 こういう場だと緊張しないで、面白いことが浮かんで、言えるんですけどね。今は結果を出さないといけないというプレッシャーがすごくて。まだ遠慮気味というかね。ダウンタウンの浜田さんに言われたんですよ。『編集も利くし、しゃべりたいことをしゃべった方がいいで』って。でも、まだまだ。周りを見てしゃべらないとという緊張感が抜けない。稽古が足りないですね。

相撲協会を退職し、タレントとして第二の人生のスタートを切った。日々の仕事で結果を残すことが、また次の仕事につながっていく。スポーツバラエティだけでなく、お笑いのネタ番組などにも出演。活動の幅を広げる毎日を「楽しい」と表現する。

豊ノ島 引っ越ししたときみたいな感じですかね。まだ新鮮で、テンションが上がるというか。相撲界にいたら大体年間のスケジュールって決まっているんですよ。この時期は本場所、この時期は巡業とか。タイムスケジュールも一緒じゃないですか。今は朝ゆっくりの日もあったり、遅くまで仕事があったり、泊まりがあったり。そういう意味では生活の刺激はめちゃくちゃある。でも、そのうち慣れたら、普通の風景になるかもしれない。そんな感じだと思っています。

相撲界への愛情は人一倍深い。現役時の最高位は関脇。引退後は部屋付き親方として後進の指導にも当たっていた。目指すタレント像を聞くと、想いをにじませた。

豊ノ島 相撲に関することが得意なんで、やっぱりそこなんですよ。相撲協会を離れたけど、相撲が盛り上がってほしいと思っているんです。相撲が好きなんで。この間の大阪場所も相撲好きの中では盛り上がった場所でしたけど、WBCがすごくて完全に消されちゃいましたよね。比べたらダメなんですけど、盛り上がるようになってほしい。昔で言えば、野球よりも相撲の方が人気という時代もあったと思うんですよ。今は、相撲を見る人が少しでも増えたら、盛り上がったらと考えています。

SNSでのつぶやきも精力的に取り組む。ツイッターでは場所中の取り組みの一言コメントなど、日々様々なことを発信し続けている。

豊ノ島 柔らかく、若い人に相撲を見てもらいたい、知ってもらいたいなと思って。力士が良い相撲を取っても、興味がなければ世間とつながらない。相撲に興味を持ってもらって、つなげたい。自分のSNSファンは相撲ファンだけじゃなくて、断髪式とかをみてフォロワーになってくれた人もいると思うんです。だからそういう人たちが少しでも興味を持ってくれたらなと思っています。

相撲に親近感を持ってもらいたい。そんな願いを込めて5月17日(水)にはトークイベント「豊ノ島の部屋」(池袋・ミクサライブ東京)を開催する。初回のトークテーマは「相撲の真面目なお金の話」。イベントに先立って、食事の際のお金について聞くと、横綱たちとのとっておき話が飛び出した。

豊ノ島 稀勢の里(現・二所ノ関親方)が引退したときにお疲れ様会で食事に行こうと。稀勢の里、琴奨菊(現・秀ノ山親方)と自分の3人で、大阪場所でふぐを食べにいったんですよ。やきふぐが名物で、最初に5人前頼んだら、稀勢の里が止まらなくなっちゃって(笑い)。『これうめーな!』って、5人前追加、5人前追加って繰り返していたら、3人で25人前。お店の人に過去最高ですと言われました。リーズナブルなお店だったんですけど、3人で14~15万円だったかな。その後に巡業に行ったら巡業先で、そのお店に行った人がいて「この間3人が来て、過去最高に食べて行かれた」と、食べ過ぎてちょっとウワサになってました。

ちなみに、この仲間で食事に行くとお酒は飲まない。ただひたすらに食に没頭する。しかし食べる量が尋常ではないため、思わず目ん玉が飛び出るくらいの金額にもなるそうだ。

豊ノ島 これも大阪で、稀勢の里が一緒だったんですけど。稀勢の里と自分と稲川親方と知り合いの方の4人で、ハリハリ鍋を食べに行ったんです。ハリハリ鍋ってクジラの肉を薄くスライスしたやつと水菜なんですけど、そうしたら鯨の尾の身が出てきて。いやー、これ高いんじゃないのって言いながら、しゃぶしゃぶで食べたんですけど、まぁうまい。

お店は大阪でもちょっと外れたところだったんで「もし、これが北新地とかで食べたら1人5万円じゃ利かないな」なんて言いながら、結構食べたんですよ。で、お会計。見たら2万5000円って書いてあったから大将に「安すぎますよ!気を使わないでください!」っていったら、向こうがポカンとしてるんです。何言ってんだ? みたいな顔して。えっ? て思ってもう一回お会計を見たら、0が1つ足りなかった。25万円でした。すっごい恥ずかしかったですね。北新地じゃなくても5万円でした。笑い話にしながら、割り勘で払いましたよ(笑い)。

さらに話は盛り上がる気配だったが、インタビューは時間いっぱい。続きは「豊ノ島の部屋」で披露される。

最後にこれからの意気込みについて聞くと、相撲普及への想いを口にした。

豊ノ島 「国技」という冠があると、みんな少し身構えちゃう部分もある。他のアスリートの方々と共演したときに感じるんですけど、力士っていうと、何だか一目置かれるというか…。ありがたいことにすごいリスペクトを感じるんですよね。これは国技と呼ばれて、ちょっとミステリアスな部分もあるからかもしれません。その堅いイメージも大事なんですけど、そこを崩さないで、もう少し柔らかく感じてもらうことで若い人に見てもらって、知ってもらいたい。だから、いろんな人に来ていただきたいと思っています。

曇りなく相撲を愛し、多くの人に知ってもらいたいと言い切る豊ノ島。タレントとしての第2の人生はまだ始まったばかり。豆腐のように柔らかで、万人に愛される存在になっていく。