酒田南(山形)出身の楽天下妻貴寛捕手(23)が1軍初先発で「初勝利」を挙げた。4日オリックス戦に「9番捕手」で2年ぶりに1軍出場。5回までマスクをかぶり、最少失点に抑えた。3回には送りバントをきっちり決めて、先制点をお膳立て。途中出場した過去5試合は負けゲームか引き分けで、1軍の勝利に初めて貢献した。12年夏の甲子園で、印象に残る選手宣誓を行った男が、プロでも確かな足跡を残した。

 ベンチに戻りながら、下妻はガッツポーズを繰り出した。同点の5回表、2死満塁。代わったばかりの新人菅原を強気にリードする。カウント1-1から速球を要求し、中島を二ゴロに打ち取る。相手に流れが行きかねないピンチを見事に防いだ。

 下妻 あそこはスライダーで打ち取るつもりでした。その前に(菅原の)腕を振らせるために真っすぐを要求したんですが、いいところに決まってくれた。

 成長の証しだった。2回表、先発古川に3球続けてスライダーを放らせ、駿太に適時三塁打を許した。中島の打席でも2球続けてスライダー。しかし、今度は速球をはさむ組み立てを考え、結果、打ち取った。昨秋、23歳以下の世界大会で優勝した経験がリードに幅を持たせた。

 正捕手嶋の離脱、先発投手が気心の知れた古川とあって、プロ5年目にして初めての1軍先発マスクが巡ってきた。「やってやろうと思っていましたが、初回はさすがに緊張した」。1回の2死満塁を切り抜けると、冷静さを取り戻した。3回裏には、自ら「100点満点」という送りバントを決め、茂木の同点犠飛につなげた。

 5回裏に代打を送られ交代も「最少失点に抑えようと思っていたのでよかった」。過去の1軍出場は14年1試合、15年4試合で、いずれも負けか引き分け。勝ち試合に初めて貢献し、「うれしい。試合をつくることができました」と、端正な顔をほころばせた。

 3日の試合後に先発を言い渡され、この日山形から両親(父晋介さん=54、母紀美子さん=51)を呼び寄せていた。「いいところを見せられたと思います」。12年夏の甲子園で選手宣誓を行い、「わき上がる入道雲のようにたくましく、吹き抜ける浜風のようにさわやかに」と声を上げた。あれから5年。春の日差しがそそぐ仙台で、首位のチームにさわやかな風をもたらした。【沢田啓太郎】