「効率よく仕事をしたければ、ひとつのことに集中しなさい。一度にいろいろなことをしてはいけません」

こう言われた経験が何度となくあるのではないでしょうか。

しかし私たちはその忠告を忘れてしまい、気が付くとノートパソコンを開いたままテレビの前でランチを食べていたり、TwitterやFacebookを見ながらメールを送ったり、さらにはGoogle+でチャットまでしていたりします。

課題、計画などで、何かひとつのことだけに集中するのはとても難しいものです。いったいなぜでしょうか?

人がマルチタスクを好むのは、良い気分になれるから

ひとつのことに集中すべき時に、いわゆる「マルチタスク」をしてしまうのはなぜでしょうか。とある研究によると、この理由は非常にシンプルなものでした。

(マルチタスク習慣のある人は)あまり生産的だとは言えません。彼らは自分が取り組んでいる作業から、さらなる精神的な満足感を得たいと思っているだけなのです。

研究者のZhen Wang氏は上のように述べています。つまり、いろいろなことを同時に行っていると、信じられないほど効率的に仕事をこなしているような気分になるというわけです。

しかし、残念ながら現実の成果はその正反対となっています。マルチタスク傾向の強い学生は、気分こそ良くなりますが、実際の成績はマルチタスクの習慣がない学生よりもずっと低かったそうです。

また、この研究では別の問題点も明らかにしています。たくさんのことを同時にこなしている人は、はたから見るととても効率的に働いているように映るため、周囲の人たちが「あんなふうになりたい」と思ってしまうのです。

メールを操りながら電話をかけ、片手間にブログ記事まで書ける人を目にしたら、誰だって「すごい! 私もできるようになりたい!」と考えますよね。

つまり、私たちはまったく無意識のうちに自分に強くプレッシャーをかけ、もっとたくさんのことを同時にするよう仕向けているのです。

マルチタスク時の脳で起きていること

興味深いのは、「人間の脳はマルチタスクをするようにはできていない」という事実です。ランチを食べながらFacebookのチャットウィンドウを5つも開き、さらにメールまで送ろうとしても、脳はそのすべての活動に同時に注意を向けているわけではないのです。

マルチタスクをする時には、脳がいくつかに分断され研究者が「スポットライト」と呼ぶ領域ができます。私たちの脳は、食事、メール作成、チャットでの会話といった活動を処理する各領域を必死で切り替えているだけなのです。

下の図を見ると、さまざまな活動を処理する複数の領域を、脳が切り替えていることがわかります。要するに、あなたがそれぞれの活動に集中するのに合わせて、数秒刻みで前後の領域を行ったり来たりしているわけです。

さまざまな活動を処理する複数の領域を、脳が切り替えていること

そんな中、Stanford大学の研究者Clifford Nass氏はマルチタスク習慣を頻繁に続けていれば、「情報の取捨選択力」、「複数のタスクをすばやく切り替える能力」、「作業記憶力」の3つの能力が向上するのではないかと考えました。

ところが、研究によって、それらはすべて間違っていることが明らかになったのです。

本当に驚きでした。私たちの仮説はすべて覆されました。マルチタスク傾向の強い人は、「マルチタスク」という行為に伴うあらゆる能力が劣っていることが明らかになったのです。

この研究からは、マルチタスク傾向の強い人はひとつのタスクに集中する人と比較して、関連する情報の取捨選択が苦手なうえ、タスクの切り替えもずっと下手であることがわかりました。

マルチタスクが極めて悪い影響を及ぼすということは、今や数々の研究で示されています。生産性が下がり、情報を取捨選択する能力なども低下するのです。

実際、この研究結果を読む前の段階でも、私は同じような悪影響を実感していました。そこで、生産性を取り戻し「マルチタスクときっぱり縁を切ろう」と考え、オンラインで作業する場合を中心に、いくつかの対策を採り入れてみたのです。

「シングルタスク」ワークフローで効率的なネット生活

ここで紹介したような事実を知らずにいたころの私は、せっせとマルチタスクに精を出していました。メールの受信トレイを複数開き、それと並行してTwitterとFacebook、果てはインスタントメッセンジャーまで同時進行していたのです。

絶えず「command+tab」を押しまくってウィンドウを切り替え、何か見逃してはいないかと確認を怠りませんでした。ウィンドウを切り替えるたびに、うぬぼれ度は上昇するものの、片づく仕事の量は減る一方。脳の中も仕事も、かなり混乱していたわけです。

生産性をアップするためにも、そんな状態はすぐにでも改善しなくてはなりませんでした。そこで大改革に着手。徹底したシングルタスク術を生み出そうとしたのです。

ブラウザのタブはひとつしか開かない

まずは、「シングルタブ・ブラウジング」と名づけた戦略を取り入れました。仕事中はブラウザタブをひとつしか開かないことにしたのです。これで、取り組まなくてはならない最重要タスクを優先せざるを得なくなりました。

もっと詳しくお話ししましょう。筆者には、並行して進めなければならない大事なタスクが4つあります。カスタマーサポートソフトウェアの『Help Scout』を使ったメールによるユーザーサポート、「@bufferapp」というTwitterアカウントの管理、Bufferブログへの記事投稿、そして個人的なメール処理です。

以前は、それら全てをいっぺんに開いて作業していましたが、今はひとつずつ取り組んでいます。まず、HelpScoutの受信ボックスだけを開き処理します。次にツイートに返信するために、TweetDeckだけを開きます。終わると、全てのウィンドウを閉じてからWordを立ち上げてブログを書きます。そして最後に、個人用メールの受信トレイを確認し終わったらまた全てを閉じます。

このことを実行するには、次のような改善策が必要でした。

毎晩、翌日のプランを立てる

筆者は毎晩デスクに座って、翌日に処理したい仕事をリストアップします。おそらく皆さんもやったことがあるでしょう。ToDoリストを作るだけなら、小学生でもできるほど簡単です。とはいえ、ToDoリストにはちょっとした問題があります。作ってもその通りに実行できないのです。

そこで筆者はひと工夫しました。ToDoリストをただ書き留めるだけではなく、Buffer創業者兼CEOのJoelと簡単なブレインストーミングを行なうようにしたのです。ささいなことに思えますが、これが大きな違いを生みました。

筆者とJoelは毎晩席について、翌日の仕事について手短かに確認作業を行ないます。それだけなのに、生産性の面から見て何もかもが変わりました。

単にタスクをリストアップするだけでなく、その内容についてよく考えJoelに説明せざるを得なくなったことが理由です。

「これこれこういうアイデアがひらめいたので、こういうコンテンツについてこんな記事を書こうと思っている。構成は......のようにするつもりだ」といった感じです。

ToDoリスト自体は同じですが、頭の中ではすでに仕事を半分終えたような気持ちになりました。翌日は、ただリストを確認して処理するだけです。

ToDoリストは作成するもののなかなか全てを片づけられない方は、同様に家族や同僚、友人などを相手に、毎晩10分間のブレインストーミングをしてみませんか。お互いの仕事についてやってみてもいいでしょう。きっと、毎晩顔を合わせてちょっとしたブレインストーミングを行なうのが楽しくなるはずです。

1日に1度は、仕事の場所を変えてみる

これこそまさに、生産性を向上させ、シングルタスクに集中できるようにする方法です。繰り返し言われてきたことですが、快適で集中しやすいワークスペースを持つのは必要不可欠ですね。そこで筆者は気がつきました。快適なワークスペースはたくさん必要であると。

ひとつ仕事を終えたら、次に移る前に、5分間の休憩をとったり、コーヒーで一服したりして再び集中力を高めようとしましたがうまくいきませんでした。ノートパソコンを5分間閉じてみても、デスクを離れてみても、やはりダメ。気分転換に必要なのは物理的に違う場所へ移動することだったのです。

というわけで、午前中はたいてい自宅を離れて仕事をしています。やがて、コーヒーショップやマンションのラウンジなど、行き先をたくさん持つようになりました。

もちろん、職場の環境によっては移動できないケースもあります。その代わりとして非常にユニークなアイデアを生み出した企業もありますから、参考にしてみてはいかがでしょうか。

米コンピューターゲーム製作会社の「Valve」は、別名the Bossless company(上司のいない会社)と呼ばれています。社員全員がキャスター付きのデスクを持っているので、時々仕事の場所を変えられるようになっているそうです。

最後にもうひとつ:音楽を聞きながら仕事をするのはマルチタスキングにあてはまらない

生産性アップのために音楽を聴きながら仕事をするのはやめよう、と考えている皆さんはご安心ください。そんな必要はありません。先述したClifford氏はこう述べています。

音楽の場合は少し事情が違います。脳には音楽を聴くための別の部位がありますから、仕事をしながら音楽を聴いても問題ありません

What Multitasking Does To Our Brains | Buffer

Leo Wildrich(原文/訳:梅田智世、遠藤康子/ガリレオ)

Image remixed from Vladgrin (Shutterstock).