農業・漁業集落の美しい風景が広がるが、冬場は一転、季節風が吹き付け荒涼とする兵庫県淡路島の西岸「西浦（にしうら）」。淡路島内で住民が長年、慣れ親しんできた呼び方だが、近年は若い年代を中心に、おしゃれなイメージの「西海岸」が定着してきた。播磨灘の夕日を売り物にする島外資本の観光施設が相次いで進出し、地域の魅力が再発見されたことが大きい。ほぼ海沿いを走る県道３１号（通称サンセットライン）を南下した。（西竹唯太朗）

　真っ青な海と空に映える白い建物－。淡路市野島平林の観光施設「クラフトサーカス」で昼時、老若男女が列をなして料理の注文を待っていた。忙しく働く従業員に声を掛けると、「島外からのお客さんが多いです」。新型コロナウイルスとの闘いが続く中、癒やしを求めて訪れるのか。

　淡路島への本社機能の移転で注目を集める総合人材サービス・パソナグループが２０１６年から営業する。同グループは過疎化で閉校した野島小学校の校舎を再利用した観光施設「のじま　スコーラ」を１２年に開業するなど需要を開拓している。これを呼び水に大阪などからの出店が増え、地元の業者の開業も続いた。

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　「こんな観光地になるなんて、思いもよらなかった」。昨年、淡路市育波にテークアウト方式の軽食店「ニコニコ食堂」を開店した地元の石岡慎平さん（２９）が変化に驚く。

　島西岸は、大阪湾に面して商業が集まる洲本や志筑などの街と対照をなしてきた。風景はのどかで、冬は寒い「西浦」には地元愛と自嘲が入り交じる。

　石岡さんは大学卒業後、島外で就職したが、地域活性化に関わりたいと考えて３年前に帰郷した。祖父母が営むスーパーを継ごうとしたが、人口減などで苦しい経営が続いていた。そこで、観光客の増加に目を付け、島の産品を売る市場として再出発させた。

　ニコニコ食堂は、市場に続く第２弾の試みで、売り上げは好調という。「元々店があったから、思い切れた」と、受け継いだ地の利を生かそうとする。

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　西浦は島北部の淡路市に限らない。隣接する洲本市からさらに南へ、車を走らせる。南あわじ市の景勝地「慶野松原」周辺にも、新たなカフェや宿泊施設が目立つ。

　砂浜に出ると、同市出身の原田京典さん（２８）が、マリンスポーツ「スタンドアップパドルボード（ＳＵＰ）」を家族連れに手ほどきしていた。今年６月、体験施設「けいのＳＵＰ」をオープンさせたばかり。「コロナ禍で不安はありましたが、滑り出しは順調」と話す。

　近年の西海岸の人気が新規開業の背中を押したといい、「島北部だけでなく南部も盛り上げていきたい」と意気込む。

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■コロナ禍　近場観光に需要　急速な開発、渋滞に苦情も

　淡路島西岸で進む開発に旅行業界も注目する。日本旅行神戸支店の真島祐行（ひろゆき）担当課長は、「もともと淡路島にある食材や温泉、自然といった観光資源にオプションが追加された。若い層も引きつける」と話す。

　新型コロナウイルス禍で海外旅行などの遠出は難しい。近場観光の比重が高まっており、「リゾート感があるエリアができ、旅行プランも組みやすくなる」という。

　自治体は地域活性化を期待する。淡路市によると、市内で起業する人への補助事業は、２０２０年度の申請件数が１８件と、事業を始めた１３年度の３倍超になった。商工観光の担当者は「西海岸で急増しているのは間違いない」と話す。

　今春、５期目に入った門康彦市長は「西海岸リゾート構想」に言及。観光戦略の重要な地域となり、南あわじ市の慶野松原でも住民らでつくる委員会がキャンプ場や農産物市場の設置などを目指す。

　一方で、急速な開発に伴い、県道３１号沿いで渋滞や違法駐車へ住民の苦情も出ている。片側１車線の生活道路だけに、淡路市は「県と連携してトラブルを防ぎたい」とする。（西竹唯太朗）