症例は77歳, 男性. 昭和61年 (74歳) 頃より下肢の易疲労性を自覚. 昭和62年には階段を昇れなくなり, 同年8月, 当センター第1回入院. 血清CPKは494IUと上昇し, 近位筋の萎縮および筋力低下, 深部腱反射の減弱があった. 知覚障害は認めず, 筋電図および筋生検 (H.E. 染色) では特異的な所見はなかった. また, 心不全徴候は認められなかった. 原因不明のミオパチーとして経過観察していたが筋萎縮, 筋力低下は進行性で, 平成元年11月には歩行困難と息切れが出現し再入院となった. 入院時, 肺野に湿性ラ音を聴取し, 下腿に浮腫を認めた. 胸部X線では心胸郭比63%と拡大し, 両側に胸水を認めた. 心電図は2:1の心房粗動で, V
1~3はQS型, V
4はrS型を示し, V
5,6にST低下と陰性Tを認めた. 心エコー図では心室壁の肥厚と granular sparkling, 全周性壁運動低下 (駆出率22%) を認め, 心不全と診断した. 巨舌, 肝脾腫, 腎障害は認められなかった. 心不全は進行性で, 同年12月, 心室頻拍のため急死した. 病理解剖では骨格筋に筋線維の大小不同, fiber splitting と間質への細胞浸潤を認め, コンゴ・レッド染色ではアミロイド沈着を認めた. 心重量は570gで, 左室の著明な肥大と両心房の中等度の拡大を認めた. 左室筋の組織像では血管周囲のみならず心筋線維をも巻き込む著明なアミロイド沈着を認めた. その他, 肝, 腎, 消化管などにも高度のアミロイド沈着を認めた. 本例は心, 骨格筋症状の著しい原発性全身性アミロイドーシスと診断された. 原発性アミロイドーシスは一般に心不全, 腎障害として発症することが多く筋萎縮は稀な病態である. しかし, 原因不明のミオパチーの鑑別診断にアミロイドーシスも念頭に置く必要がある.
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