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 印刷 2023年01月05日デイリー版6面

新年号 コンテナ物流・港湾編】JR貨物、海上コンテナ輸送を強化。生産性向上・脱炭素化。貨物鉄道への期待高まる。社会課題に対応

陸海空運の結節点となる総合物流施設「レールゲート」を整備(写真は東京貨物ターミナル駅)
陸海空運の結節点となる総合物流施設「レールゲート」を整備(写真は東京貨物ターミナル駅)
海上コンテナの大量輸送が可能
海上コンテナの大量輸送が可能
表・グラフ 表・グラフ

 貨物鉄道への期待が高まっている。トラックドライバーの残業規制が強化される「2024年問題」もあり、長距離輸送力の不足が危ぶまれ、カーボンニュートラルへの対応も必須になっている。そこで鉄道輸送は有効な選択肢になる。国際海上コンテナについても、国内輸送手段の大半はトレーラーを使うドレージが占めているため、モーダルシフトを行う余地は大きい。JR貨物も、国際海上コンテナを含め輸出入貨物の海陸一貫輸送を強化。将来を見据えてサービスの向上に取り組んでいる。

 国土交通省は2022年3月、産官学の検討会「今後の鉄道物流のあり方に関する検討会」を設置し、7月に中間取りまとめを行った。目的は貨物鉄道の利便性を高め、積極的に輸送量の拡大を目指すための方策の検討だ。

 貨物鉄道が担うべき役割は大きい。深刻なドライバー不足に2024年問題も影響し、「運べない危機」が目前に迫る。鉄道貨物協会は、28年度にはドライバーが27・8万人不足すると予測している。一方では、30年度に温室効果ガス(GHG)排出量を13年度比46%削減、50年にカーボンニュートラル実現という政府目標達成に向け、物流分野でも抜本的な効率化策が求められている。

 貨物鉄道は一度に10トントラック65台分を輸送でき、輸送効率が高い。CO2(二酸化炭素)排出原単位は営業用トラックの約10分の1、内航海運の約2分の1。コンテナ列車の定時運行率は90%を超え、正確で迅速な輸送ダイヤを維持している。おおむね600キロ以上の中長距離輸送でトラックなどと比べて優位性が高く、災害時に備えたリダンダンシー(冗長性)確保のためにも重要な輸送モードだ。

 ただ、輸送量は振るわない。国交省によると、国内貨物輸送における輸送機関別分担率も5%前後(トンキロベース)で推移している。こうした状況を打開するため、検討会は中間取りまとめで3つの視点から計14の課題について今後の取り組みの方向性を提言した(表)。

■低床貨車を追加投入

 課題の1つに、「国際海上コンテナの海陸一貫輸送への対応」も挙がっている。これについては、トンネルの高さ制限などのために40フィート背高(ハイキューブ)コンテナの輸送可能な区間が東京貨物ターミナル駅―盛岡貨物ターミナル駅に限られることがボトルネックとして指摘されてきた。

 取りまとめでは、低床貨車の活用を提言。40フィート背高コンテナの海陸一貫輸送ニーズを持つ荷主の開拓、ニーズの大きな時間帯と線区を見極めること、太平洋側の拠点港と日本海側の都市との運行に関して持続可能な輸送のあり方も含めた具体的な検討・実証実験を進めることとした。

 JR貨物は既に低床貨車を1両投入しており、今年度中に3両を追加投入する計画。低床貨車は特殊な構造のため導入・メンテナンス費用が高額だが、港湾当局など関係者と協力して事業ニーズと事業性を確認する。中間取りまとめを受け、10月に発表した25年度目標とKGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)では、事業性があれば低床貨車の追加発注を行うとした。

 加えて、同社は40フィート標準タイプのコンテナの輸送需要の取り込みにも力を入れている。背高コンテナの輸送は関東―東北間に限られていても、標準タイプであればそれ以外の区間でも輸送可能。首都圏と北陸、中部、近畿、九州間の幹線輸送に支障はない。

■ドレージの負荷を軽減

 国際海上コンテナの中長距離輸送をドレージから鉄道にシフトする効果は大きい。国内のドレージについても、一般トラックと同様に長距離を中心に年々確保が難しくなっている。鉄道を活用すれば、ドレージが近距離・域内で済むためドライバーの負荷が下がり、荷主やフォワーダー、船社も輸送を安定化できるメリットがある。環境負荷も大きく低減する。

 JR貨物の営業キロ数は約8000キロに及び、全国を網羅。主要港湾の近隣に貨物駅があり、利便性が高い。キャパシティーについても、列車の積載率は20年度で平均69・6%。積載率は季節や曜日、路線・列車によって変わるため、需要に合わせて有効活用を提案している。JR貨物の石田忠正相談役は「貨物鉄道の輸送力を最大限活用していただきたい。コンテナ物流の効率化につながり、関係者全ての負荷が軽減する」と強調する。

 実際、同社の国際海上コンテナの輸送量は増加基調にある。東京―盛岡間で運行する国際海上コンテナ専用列車「東北エクスプレス」の21年度実績は、前年度比22%増の1万262TEUだった(グラフ)。19年度に米中貿易摩擦や東北線の台風被害が響いたことを除けば好調だ。

 国際海上コンテナばかりでなく、貨物ターミナル駅構内で国際海上コンテナと鉄道用の12フィートコンテナの貨物を積み替え、全国に集配するクロスドックサービスも拡大している。東京貨物ターミナル駅の東京ICD(インランドコンテナデポ)を利用した輸送実績は右肩上がりに増えており、21年度は45%増の1760個(12フィート換算、以下同)となった。

 日中韓間のフェリー・RORO船と接続する12フィートコンテナの国際複合一貫輸送サービスも堅調に推移。下関―釜山(韓国)の関釜フェリー、博多―釜山のカメリアライン、大阪―釜山のパンスターライン、下関―太倉(中国)の蘇州下関フェリー(SSF)、神戸・大阪―上海(中国)の日中国際フェリーと連携してサービスを提供し、定時性と高速性、サービス頻度が評価を受けている。21年度はカメリアラインのルートで輸入雑貨の新規案件を受託したことなどで、取り扱い実績を前年度の2倍以上の2094個に伸ばした。

■主要港、補助制度を拡充

 地方でも貨物鉄道への需要の高まりが目立つ。例えば、秋田県大館市で21年12月、「大館駅インランドデポ推進協議会」が発足した。市と地元の荷主企業、物流関連企業など約50社が参画し、大館貨物駅を拡張してICDを整備する構想を進めている。

 これにより、大館貨物駅から京浜港まで鉄道による保税輸送を実現し、域内企業の輸出入をサポートする考え。ICDを秋田、青森両県と北海道の輸出入貨物の中継拠点と位置付け、これらの地域の荷主・物流企業が長距離ドレージを鉄道に転換しやすい環境を整える。空コンテナ輸送の削減も図る。

 同協議会には、オブザーバーとして東京都港湾局、会員として横浜川崎国際港湾会社(YKIP)も参加。港湾側も、鉄道利用に対する補助制度を拡充するなど国際海上コンテナの鉄道輸送をバックアップしている。

 例えば、東京港では都が東京貨物ターミナル駅―東京港コンテナターミナル(CT)間のドレージに片道当たり2000円を補助している。また、国際海上コンテナについて12フィートコンテナとの詰め替え、鉄道輸送する費用に関して1FEU当たり2万円を支援。横浜港ではYKIPがドレージの鉄道輸送への切り替えを対象に、1TEU当たり5000円を補助している。

 神戸港でも阪神国際港湾会社が国内輸送での鉄道利用にかかる経費の2分の1などを支援するトライアル事業を実施(今年度分は終了)。下関港では市が下関貨物駅を利用する鉄道輸送に対して、距離別に12フィートコンテナ1個当たり5000―3万円補助する制度を設けている。

■フィジカルインターネットの基盤整備

 現在、日本の物流の課題解決に向けて求められるのは、貨物鉄道の利用を拡大し生産性を上げることばかりではない。JR貨物は陸海空それぞれの輸送モードの特性を生かして組み合わせる「モーダルコンビネーション」を標榜(ひょうぼう)している。

 その象徴が東京貨物ターミナル駅に整備した巨大なマルチテナント型(複数企業向け)総合物流施設「東京レールゲートWEST」(延べ床面積約7万2000平方メートル)、同「EAST」(同約17万4400平方メートル)だ。同駅は東京港の大井CT、羽田空港、首都高速のインターチェンジに近接し、「レールゲート」は陸海空運の結節点となる。この点については、石田相談役が22年11月1日に開かれたフィジカルインターネット(PI)に関するシンポジウムで言及している。

 同社は今後、仙台、名古屋、大阪、福岡などの各駅にも同様の施設を整備する計画。既に5月、札幌貨物ターミナル駅内で「DPL札幌レールゲート」(延べ床面積約8万6000平方メートル)が竣工した。

 モーダルコンビネーションの概念は、PIにも通じる。PIはインターネット通信の考え方を物流に適用し、車両や倉庫などの物流資産をシェアリングして最適な経路で輸送する究極の共同物流システムだ。経済産業省と国交省が22年3月、PI実現会議で40年の実現へのロードマップを発表するなど、PIを実現しサプライチェーンの最適化を目指す取り組みが官民で本格化。レールゲートはPIのプラットフォームの一端を担うことが期待されている。

 国交省の鉄道物流に関する検討会の中間取りまとめでも、他モードとの連携に向けた課題としてPI実現への取り組みへの参画が言及された。JR貨物はデジタル技術を活用し貨物駅のスマート化も進めるなど、さまざまな取り組みを推進。全社を挙げて課題に対応し、社会的な要請に応えていく。