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首都直下地震への備え、大丈夫? 関連調査から日本の防災を考える【けいざい百景】

2021年11月17日12時00分

 10月7日午後10時41分、東京都足立区や埼玉県川口市などで震度5強の揺れを観測する地震が発生した。震源は千葉県北西部、地震の規模を示すマグニチュード(M)は推定5.9。大きな被害はなかったものの、東京23区内で5強を観測したのは2011年3月11日の東日本大震災以来で、「今後30年に70%」の確率で発生するというM7級の首都直下地震への備えに警鐘を鳴らすメディアもあった。

 1カ月余りがたった。普段は永田町、霞が関、大手町を回り、新しいことばかりを追い掛ける生活なのだが、夏ごろから時折踏みとどまり、国の防災のことを勉強したり、取材したりしている。今回はこの間に見聞きしてきたことを素直に書いてみたい。識者にも見解を求めた。

6割超が集まれぬ恐れ

 7月下旬、東京・霞が関の某所。私は政府関係者のA氏に会い、ある統計の調査結果を開示してもらえないか頼んでいた。

 統計の調査結果とは、政府が昨年初めて実施した首都直下地震の初動態勢に関するものだ。直下地震の発生時、3時間以内に職場の中央省庁に駆け付け、初動業務に当たる「緊急参集要員」の数や居住実態などが分かるように作成されている。

 内閣府の中央省庁ガイドラインを踏まえると、要員は徒歩(時速2キロ想定)で東京都千代田区の霞が関や新宿区の防衛省に参集する決まり。速度モデルは夜間停電に伴う視界不良、路上障害物の回避、徒歩帰宅者による混雑、休憩時間などを考慮して設定されている。

 「3時間以内の業務開始」「徒歩で時速2キロ参集」のため、要員の住まいは職場から6キロ圏内が理想と考えられている。先の政府調査はこうした対応モデルを踏まえ、実際にどれくらいの要員が6キロ圏内に暮らせているのかを数量的に把握するものとなっている。

 「結果」を受け取ったのは、依頼してから2週間後くらいだったと思う。それによると、3時間以内に業務に当たるべき要員は昨年9月1日時点で計5793人で、うち6キロ圏内の居住者は2218人、圏外は3575人に上った。数字上、全体の62%が初動に着手できない恐れがあることを示していた。記事をまとめ、8月に報道した。

 ツイッターでの反響が特に大きかった。時事ドットコムのアカウントへの返信から簡単に紹介すると、「そもそも首都直下地震が起きて首都に集まるのっておかしくね?」「家賃が高すぎて住めない」などの疑問や指摘が散見された。

 多くの要員が6キロ圏外に暮らす原因は、11年の震災後に「キャンペーン報道」(関係者)として、当時のマスコミが安価できれいな国家公務員宿舎を批判したことにもある。財務省の統計によれば、昨年までに5000戸近くが削減された。ツイッターアカウントへの返信では「おまえらが散々たたいたからだろ?」「批判の成果が出ました!」といった批判も多かった。

 報道後、気になっていたのは、初動を担う要員の6割以上が目安通りに集まれない恐れがあるという政府調査の結果について、防災当局の内閣府がどう受け止めているのかということだ。諸事情があって10月中旬と遅くはなったが、都内某所でB氏、メモ係で同席したと思われるC氏と面会した。

 初動態勢に関する調査結果を示し見解を尋ねると、有識者を介して関係省庁に対するヒアリングを実施する中で、それぞれの事柄について「問題」とするかどうか判断しているという。ヒアリングを実施していない現時点で、見解を示すことはできないということだった。

 内閣府の関係者によると、11月以降、関係省庁に対し、緊急参集要員に関するテーマを含め、ヒアリングを実施しているという。国の防災に関わる識者の見解が待たれる。

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