サクセスストーリー

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社は、IoTやAIを活用したデジタル技術の普及が進む日本市場において、日本企業や在日外資系企業と協業し、日本のデジタル市場に変革をもたらすビジネスに着手している。同社代表取締役社長のアムル・ラクシュミナラヤナン氏に、日本でのビジネスの現状、同社の取り組みについて聞いた。

設立年月
2014/07
進出先
東京都

  • ICT
  • インドインド

掲載年月 : 2018/08

自動車のタタ・モーターズや鉄鋼のタタ製鉄などを含むタタ財閥のグループ企業、タタ・コンサルタンシー・サービシズ(以下、「TCS」)はインドのマハーラーシュトラ州ムンバイに本社を置く同国最大手のITサービス企業。1968年に設立したTCSは、アプリの開発や運用のほか、ITシステムの構築やコンサルティングサービスなどを提供している。タタ・グループは情報通信やエネルギー産業など7業種にわたる100社を超える企業で構成され、世界100ヵ国以上でビジネスを展開している。総従業員数は69万人を超える。

TCSの日本進出は古く、1987年に遡る。同年、インドのITサービス企業としては、国内初の営業所を東京に立ち上げ、日本市場でビジネスを展開した。2004年に日本法人、タタコンサルタンシーサービシズジャパン株式会社を設立し、2012年には株式会社日本TCSソリューションセンター(ニアショアデリバリーセンター)を三菱商事株式会社と設立。2001年に発足した株式会社アイ・ティ・フロンティア(三菱商事のIT関連企業5社を統合)と、タタコンサルタンシーサービシズジャパン株式会社、株式会社日本TCSソリューションセンターの3社が統合し、2014年7月に日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社(以下、「日本TCS」)が誕生した。

日本企業のニーズに応え、貢献することを目的に設立された日本TCSは、2018年4月1日時点で従業員約2,700名を擁し、日本向けのサービスには国内外の要員総勢7,000人体制で取り組む。2017年の売上高は約620億円にのぼり、「業績は好調である」と日本TCSの代表取締役社長、アムル・ラクシュミナラヤナン(ラクシュミ)氏は言う。「異なる企業文化を持つ会社が統合し、新しい方法でビジネス機会を見出そうとしている」と日本市場での取り組みの現状を説明する。

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社

アムル・ラクシュミナラヤナン代表取締役社長

IoT・AI技術を活用

日本TCSは、国際的なノウハウを有するTCSの日本法人と日本国内のビジネスに長けている三菱商事の関連IT企業が統合することにより、両社の長所を融合した「ハイブリッド企業」(ラクシュミ氏)である。第4次産業革命と言われるデジタル時代において、同社はIoTやAI技術を活用したビジネスに力を入れている。ラクシュミ氏は「日本市場においてIoTやAIといったデジタル分野への関心は、2016年に急激に高まり、ビジネス機会が増えている」と説明する。IoTやAIが日本の経済成長に与える影響について、総務省の推計では、2030年に実質GDPを132兆円押し上げる効果があるとしており(2017年版「情報通信白書」)、同社はその一端を担う。

日本TCSはデジタル時代の先駆者として、日本企業と協業しながら新たなビジネスモデルの展開に励んでいる。その一つに火力発電所の運営におけるIoT・AI技術の活用が挙げられる。AIを導入し、IT化を進めることにより、火力発電所の運営の最適化を図り、二酸化炭素の排出量を調整するなど、環境負荷を低減できる。

TCSはまた、全産業でIoT・AI技術を享受できるシステムも開発している。それがAIを搭載した世界初の企業向けニューラルオートメーションシステム「ignio™(イグニオ)」だ。社内の多様なオペレーションに対して、人間の頭脳のように自ら情報収集し、学習することで正確な予測や迅速な対応の自動化が可能となり業務効率が向上するほか、システム障害が起きた場合などの根本原因の特定にも役立つ。

日本企業専用の研修施設をインドに創設

ラクシュミ氏は「デジタル時代において重要なのは、第一に『マス・カスタマイゼーション』、あるいは究極の個別化『エクストリーム・パーソナライゼーション』を図ること、第二に顧客のみならず社会全体や従業員にとっても究極の価値を創造すること、第三に顧客により魅力的な商品・サービスを提供すべくエコシステムを活用すること、第四にリスクを受け入れること」と説明する。

これらが求められる現代を「Business 4.0」と捉え、いわゆるデジタル時代における企業の目指すべき姿のフレームワークとして提唱する。「マス・カスタマイゼーション」に関して同氏は、「カスタマイゼーションの対象は従来は一個人だったが、デジタル化時代では、同一個人が複数の取引をすれば、その取引ごとにカスタマイズする必要がある。こうしたアクションごとのカスタマイズはB to Cだけではなく、B to Bにおいても考えていかなければならない」と強調する。

日本企業専用のデリバリーセンター (JDC)の概観

日本TCSは、日本の顧客に対するサービス提供の体制強化のため、2015年9月に日本企業専用のデリバリーセンター(Japan-centric Delivery Center; JDC)をインドのプネにあるTCSサヤドリパーク内に開設した。日本の顧客が求めるきめ細やかなサービスを提供するため、日本のビジネス習慣や日本語を学ぶ研修施設「光アカデミー」を同時に設立し、従業員は同施設で日本に対する理解を深めている。

ラクシュミ氏は「我々が有するノウハウ、グローバル人材、日本市場に関する知識を最善の形で融合させ、お客様にサービスを提供する。それが、我々のハイブリッド・ソリューションだ。そうした顧客サービスを提供する上でJDCは重要な役割を果たしている。プネ以外にJDC拠点をナグプールにも開設し、すでに300~400名を配置した。両拠点から日本に従業員が派遣されることも、日本からJDCに従業員を派遣することもある」と説明する。

日本企業のデジタル化と海外展開を支援

インド本社のTCSはパナソニックインド株式会社との協業により、2017年4月に「インドイノベーションセンター」をベンガルールに設立するなど、他社との共同開発に力を入れている。日本TCSも同様に、他社と協業し共同でイノベーションを起こす共同開発ネットワーク(Co-Innovationネットワーク:COIN)の日本国内での構築に力を入れている。ラクシュミ氏は「大学、スタートアップ企業、顧客企業、当社内の独自開発をネットワークでつなぐことで、共同開発(Co-innovation)が成立する。一社でイノベーションを起こすより、他社のノウハウを取り入れたエコシステムを活用し、共同で開発・創造するほうが成果を得やすい。そのネットワークであるCOINの中心には我々の顧客がいる」と強調する。

日本TCSは自社の日本国内でのブランド力向上にも力を入れる。その取り組みの一つとして、2017年からスポンサーとして全日本スーパーフォーミュラ選手権に参画した。日本におけるモータースポーツの普及と拡大にも貢献すべく、日本人初のフルタイムF1ドライバーの中嶋悟氏が率いるTCS NAKAJIMA RACINGのタイトルスポンサーとなり、レーシングマシンのデータ解析の効率化や精度の向上を図っている。

今後の抱負について、「デジタル分野でイノベーションを起こす変革者(Catalyst)になることを目指す」とラクシュミ氏は語る。多くの日本企業は「日本国内でデジタル化の課題を抱えるとともに、人口減少による市場の縮小から海外展開の機会を狙っている。このようなビジネスチャンスがあるなかで、我々は、日本企業のデジタル化と海外展開を支援することができる。さらに、日本社会のデジタル化への転換期を活用して、我々は新たなビジネス展開を図ることができる」と今後のビジネスの展望を語った。

ジェトロのサポート

ジェトロは同社の大阪拠点設立に際してテンポラリーオフィスや不動産情報などを提供した。ラクシュミ氏はジェトロに対し、「大阪拠点の立ち上げに際して手助けしていただいたことに謝意を表する。日本に拠点を設立する企業、また拠点拡充を目指す企業に対して、ジェトロは必要な支援を提供するとともに、それら企業への働きかけにおいて重要な役割を果たしている」と述べた。

(2018年6月取材)

同社沿革

1968年

インド・マハーラーシュトラ州ムンバイにTCS設立

1987年

TCSがインドのITサービス企業として初めて日本でビジネスを展開

2004年

日本法人タタ コンサルタンシー サービシズ ジャパン株式会社を設立

2012年

株式会社日本TCSソリューションセンター(ニアショアデリバリーセンター)を三菱商事株式会社と設立

2014年7月

2001年に発足した株式会社アイ・ティ・フロンティア、タタ コンサルタンシー サービシズ ジャパン株式会社、株式会社日本TCSソリューションセンターの3社が統合し、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社が発足

日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社

設立

2014年7月

事業概要

ITシステム構築事業、コンサルティングサービスの提供

親会社

タタ・コンサルタンシー・サービシズ

住所

〒105-8508 東京都港区芝公園四丁目1番4号

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