平成20年5月22日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
大韓民国 光州科学技術院 高等光技術研究所
財団法人電力中央研究所
大阪大学レーザーエネルギー学研究センター

レーザー駆動陽子線の生成効率向上を実現
−医学利用や産業利用を目指した小型陽子線加速器の実現へ大きく前進−

独立行政法人日本原子力研究開発機構【理事長 岡ア俊雄】と大韓民国 光州科学技術院 高等光技術研究所【所長 Jongmin Lee】、財団法人電力中央研究所【】、大阪大学レーザーエネルギー学研究センター【センター長 三間圀興】の共同研究グループは、一部屋に収まるサイズで、かつ、発生するレーザーパルス光のエネルギーが1ジュール級の小型超高強度極短パルスレーザー装置を用いて効率よく陽子線を発生することに成功しました。

超高強度極短パルスレーザーを金属や高分子などの薄膜状の物質に照射することにより、特定の方向に高エネルギーの陽子線(レーザー駆動陽子線(用語解説1参照))が発生することが知られています。ところが、これを産業、医療利用するためには、より小型のレーザー装置を使って、所定の陽子線照射量を定められた時間内に得ることが課題となっています。そのためレーザー照射あたりの陽子線数の向上(強い陽子線)や一定時間内の繰り返し回数の増強が必要とされています。このうち陽子線数向上のためには、レーザー光のエネルギーから陽子線エネルギーへの変換効率(以下、「効率」と呼ぶ)の向上が必要不可欠です。これまで数%以上の高い変換効率を得るためには、繰り返し回数が低い大型のレーザー装置(レーザーパルス光のエネルギーが数十ジュール級以上)が必要でした。小型のレーザー装置を用いた場合の効率は、従来は1%程度以下の状態でした。

本研究において、ターゲットとして厚さ7.5ミクロン(ミクロン:100万分の1メートル)の絶縁体薄膜を使用し、時間波形を制御した極短パルスレーザー光を使用することにより、数百万電子ボルト級のエネルギー領域において、陽子線を効率3%で発生することに世界で初めて成功しました。他の小型レーザーを用いた先駆的な実験結果と比較しても、今回の結果は3倍あるいは10倍となっています。これは粒子線がん治療(用語解説2参照)に向けた加速器開発において、効率に関して要求値を十分満たしており、さらに、小型レーザーを用いた薄層放射化装置等、産業利用へ向けた開発に弾みをつける結果となっています。

なお、本研究成果の一部は、米国物理学会協会出版の論文誌Physics of Plasmas(issue5, vol.15)に掲載される予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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