現代レスラーの身体づくりに影響を与えた食事と肉体改造法「ハイブリッド・レスラー」船木誠勝選手インタビュー【レスラーめし】

食えたことも、食えなかったこともレスラーをつくる。新弟子時代から現在までの食にまつわる話を、さまざまなレスラーにうかがう連載企画「レスラーめし」。今回は「ハイブリッド・レスラー」船木誠勝選手の登場です。

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「ハイブリッド肉体改造法」の船木は何を食べていたのか

15歳11カ月で新日本プロレスでデビュー。ヨーロッパ遠征後にUWFへと鈴木みのると共に移籍し、前田日明・高田延彦・藤原喜明らと並ぶ新星エースとして活躍。その後、藤原組を経て自らの団体パンクラスを鈴木らと旗揚げします。

 

それまでの格闘技指向を究極まで突き詰めたスタイルのプロレス「ハイブリッドレスリング」をスローガンに掲げ、その結果として1分もかからずに勝負がつくこともしばしば。そういった試合を称した言葉「秒殺」は流行語にもなりました。

 

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写真提供:@闘宝伝承Y1968

 

また徹底的な肉体改造で絞り上げたパンクラス所属選手のボディは、これまでのプロレスラー像を覆すもの。その頃に沸き上がっていた総合格闘技ブームもあり、パンクラスは大きな話題を集めていました。

 

そんな中で船木選手が書いた単行本『船木誠勝のハイブリッド肉体改造法』(ベースボールマガジン社)は、体の鍛え方から食生活までを詳細に解説したこれまでにないプロレスラー入門書としてベストセラーに。当時のプロレスラー志望者で読まなかったものはまずいないと断言出来ます。

 

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写真提供:@闘宝伝承Y1968

 

選手としての船木選手は、鈴木みのるにケン・シャムロックバス・ルッテンといったトップ選手に加え、近藤有己ら後輩選手たちと激戦を繰り広げました。そして2000年には当時世界最強と言われたヒクソン・グレイシーと対戦するも、チョークスリーパーで破れ、その場で引退を表明。

 

その後2007年に総合格闘技に復帰、2009年には全日本プロレスでプロレスラーとして再びリングに立ちます。そこから新日本プロレスやNOAHなどへの参戦、三冠ベルトの奪取などを経て、今も緊張感のある闘いを繰り広げています。

 

蝶野・武藤とサボって連帯責任スクワット2000回!

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15歳で新日本プロレスデビューした船木選手。

 

寮に暮らす同期には三銃士(橋本真也・武藤敬司・蝶野正洋)、そして先輩に獣神サンダー・ライガー高田延彦と、強烈なキャラクターに囲まれた環境でのスタートでした。

 

ただ、前回の蝶野さんへのインタビューで聞くかぎりでは揃ってハートが強いというか図々しい世代だったようで……その辺りの話からスタートです。

 

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──ちょうど前回が船木選手と同期の蝶野さんのインタビューで、船木選手のお話も出たんですよ。みんな豚ちりしか作らなくなっちゃて、新日本プロレスのちゃんこシステムが崩壊したという話も(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:ああ、そうなんですね。蝶野さんとめしの思い出っていうと、新弟子の頃はちゃんこはまず先輩が食べて、我々は一番最後に食べられるんですよね。12時半くらいに練習が終わって、自分たちが食べられるのが14時くらい。そこまでが長くって! それで蝶野さんが「そこのラーメン屋で自分らで金払って食えばいいだろう」って言い出したんですよ。まだ入門してそんなに経ってない時期に。

 

──自分たちのちゃんこの順番まで待てない、と。それはマズそうな……。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:それで武藤さんも「いいな! じゃあオレも」って言って、僕らでラーメンを食べに行っちゃったんです。練習直後だから美味しいんです。でも帰ってきたら高田さん(高田延彦)が立ってて、「お前ら、どこ行ってたの?」って聞かれて、武藤さんが「ラーメン食ってきました!」って普通に答えて。そしたら「他の新弟子も全員連れてこい」って言われて、橋本や笹崎さん(笹崎伸司)、野上さん(野上彰/現・AKIRA)ら全員呼んできて「はい、今からスクワット2000回」って。

 

──きつい連帯責任!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:もともと新弟子は外出禁止なんですよ。試合出るようになるまでは、先輩と一緒じゃないと外出しちゃいけないってルールがあったんです。橋本真也は「自分は食ってないです!」って言ったけど、全員がやらされましたね。その時は「とうとう始まったな!」って思いましたね。これが「プロレスの非日常か!」って。

 

──しかし蝶野さんもよく抜け出しましたね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:「こんなことやらされるの、今だけだよ!」って言ってましたね。デビューしたらこんなことないから、って。そのあたり、先を見てるんですよね。

 

──その後、抜け出してラーメン食べに行ったりは?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:さすがになかったですね。ただ、先輩から怒られるのはしょっちゅうです。理由もなく集合かけられて「お前らたるんでる!」って怒られたり。ただダラケないために、ってだけだと思うんですけど、そういうのも何回かありましたね。

 

高田延彦直伝のチーズ&バナナ

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──新弟子時代のちゃんこの話は蝶野さんからもうかがったんですけど、船木選手の場合は入団が15歳ですから、本当に体が大きくなるのはそれからですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:自分が入ったときは体重が75キロ。それをまず3ケタ、100キロに乗せろってずっと言われてて、最低ちゃんこを5杯、ごはんを5杯ずつ食うのがノルマでしたね。ただ、ちゃんこも自分が食べる最後の方は肉がなくなってて、野菜ごはんって感じでしたけどね。

 

──ひたすらちゃんこで体を大きくしていった感じですか。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:あとは6Pチーズを1箱と、バナナ1房をノルマにして毎日食べてました。巡業に行っても昼夜分けて食べたりして。これは高田さんからのアドバイスだったんです。

 

──体をより大きくするメニューを。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:寮に入って1カ月くらいですかね、「もうこいつは辞めないな」って思われた頃だと思うんですけど、地方で「船木、めし行こうか」ってお昼ごはんに連れていかれたんです。いろいろ話を聞いた後「チーズとバナナを買いに行こう。これ食べて鍛えると、大きくなるよ」って言われて、それからですね。

 

──高田さん直伝のメニュー。それは初めて聞きました。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:そうですよね。それは高田さんのオリジナルで、新日本では自分のところで止まってると思います。他にも話してなかったんじゃないかな? 実際、効果はありましたね。入団時に75キロだったのが、それから1年弱でデビューする頃には95キロになっていましたから。

 

──その後、肉体改造の本も書かれてますけど、その頃からいろんなものを食べた経験が生きてるんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でもやっぱりちゃんこですね。体を作るのに一番いいです。肉と野菜、あとごはんをつければ完全食ですから。日本の場合は元は相撲で、日本独自の体を作る食事として鍋という食べ方が一般的になったと思います。これがアメリカだと鶏を焼くか蒸すかになって、それにライスやパスタ、ポテト、それと野菜をつけるんですよね。

 

橋本真也にアイスピック掴んで「なんだアンタ、次に言ったら殺すよ!」

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──しかし船木選手は中学を卒業して、すぐ新日本プロレスという大人の世界に入ったわけじゃないですか。同期も年上ばっかりですし、大変じゃなかったですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でも楽しかったですね! 個性の強い人ばっかりだったし。怖い人ってすぐわかるじゃないですか。だから「この人は大丈夫そうだ」って人に近づきましたね。そうなるとやっぱり、ライガーさんの下につくしかない。ライガーさんの側だと怒られないから。

 

──ライガーさんは「大丈夫な人」。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でも練習のときは怖かったですけどね。「辞めちまえ!」って何回言われたことか。練習と試合に関しては怖かったです。でも練習が終わったら、ごはんにもよく連れてってもらいましたよ。よくステーキを食べに連れていってくれましたね。スエヒロとか、もうなくなっちゃったけど上野毛のステーキ屋とか。

 

──ライガーさんとはイギリス遠征も一緒ですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:イギリスでめしのいい思い出はないですね。昼はチャイニーズレストラン、夜はインディアン(インド料理)、そればっかりですよ。しかもライガーさんとは3カ月もの間、家にいるのも試合に行くのもめし行くのもずっと一緒で、さすがに息が詰まりましたね。ぜんぜん話さなくなって「お前達、喧嘩してんのか?」って周囲に気を使わせるくらい。

 

──あと三銃士と同期ということで、さっき蝶野さんと武藤さんの話が出ましたけど、橋本さんと食の思い出ってありますか?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:橋本さんは……物騒な話なんですけど、試合終わってブッチャー(橋本さんの愛称)が外でお酒を飲んで楽しんでからホテルに帰ってきたんですよ。それで廊下でなんだかんだ叫んでて、ブラックキャットさんが「うるさいよアンタ!」って注意したら、「うるせえブタネコ!」って反射的に言っちゃって。そしたらブラックキャットさんが手元にあったアイスピックを掴んで「なんだアンタ、次に言ったら殺すよ!」って。

 

──それは怖い!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:自分は蝶野さんと同じ部屋で、ふたりで覗いてて。「ヤバいよ、どうする?」って言ったら「いいよ、やらせとけば」って。そしたらジョージさん(ジョージ高野)が「まあまあ」ってその場を収めてくれたんですけど。その後、その件で橋本さんは坊主になって。

 

──罰で坊主!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:もう橋本さんはデビューしていましたけどね。3回くらい坊主になってます。身近にそんな人がいたから「橋本さんみたいなことはしちゃダメなんだな」って思いましたけどね(笑)。また蝶野さんは蝶野さんで冷めてるな~って。

 

──反面教師がいっぱいいたんですね。しかしお酒もまわりはみんなかなり飲んでますよね、当然。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:お歳暮なんかでビールは何ケースも送られてくるから、道場には常にお酒があったんですよ。だから上の人も練習が終わったら昼間からビールを飲んだりしてましたね、水代わりに。そして夜になったらちゃんことビールで。ホント、ずっと飲んでましたね。

 

船木選手が見た熊本旅館破壊事件

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──お酒と言えば、この連載でその場にいらした選手全員にうかがってるんですが、新日本プロレスの選手とUWF選手を交流させようとして皆が酔っ払って旅館をボロボロにしたという伝説の「熊本旅館破壊事件」! 船木選手もその場にいらしたんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:あれは自分がデビューして2年くらいの時期でしたね。新日本とUWFの間があまりにもギクシャクしていたんで、旅館で宴会をやろうとしたんです。

 

──言い出しっぺは猪木さんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:坂口さん(坂口征二)が「明日UWFと一緒に飲むからよ」って言ってましたね。藤原さんが試合を休んでスープかなんか作ってました。試合が終わって宴会場に行くと、新日本の人が揃ってて、UWFの人たちは後から入ってくる。やっぱり雰囲気は硬かったですね。猪木さんなんかもいますから。

 

──その時点で和やかな雰囲気ではないですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:会が始まって1時間するかしないかで、イッキ飲み合戦が始まったんです。それも日本酒で。それで猪木さんは最初に飲んで帰っちゃったんですよ。坂口さんは残ってお酒を飲んでたんですけど、実は水を飲んでて。

 

──まさかの荒鷲がそんなズルを!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:それがバレて、本物のお酒を飲まされるようになったら、坂口さんもけっこう酔っ払ってきて。で、なぜかわからないんですけど武藤さんと前田さん(前田日明)が……。

 

──険悪な雰囲気になってたと。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:前田さんが「オマエ、海外から帰ってきたからっていい気になってんじゃねえぞ!」って言ったんですよね。それに武藤さんが「アンタがやってることはプロレスじゃねえよ!」って返したら、前田さんがガーッと突っ込んでボコボコボコって……マウント状態で。それをみんなで止めて。

 

──壮絶! 前田対武藤は誰も止められない。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:たぶんですけど、荒川さん(ドン荒川)が「言いたいことがあるなら言ってやれ!」って焚き付けたんじゃないかな。そうじゃないと武藤さんも言わないと思うんですよ。

 

──だいたいそういう現場には荒川さんがいますね(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:それで途中で坂口さんが入ってきて、前田対坂口になっちゃって。自分は坂口さんを止めてましたね。

 

──坂口さんは武藤さんに目をかけてましたからね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:それで坂口さんが「前田来い!」って寝転がって、寝技をかけようとしたと思うんですけど、そこに前田さんがストンピングしようとして、それをみんなで止めて。

 

──前田さん、一線越えすぎ!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:結局、誰か藤原さんを呼んで、藤原さんが前田さんを殴ってやっと止まったんですよね。

 

──組長しかもう止められない。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:そしたら坂口さんがまた怒って、僕らが止めて。坂口さん、一升瓶を持って前田さんのこと叩こうとするんですよ。話をしてる最中なのに、それを止めて……。凄かったですよ。

 

──あと、その事件の時は後藤達俊さんが荒れてたと聞きますが。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:後藤さんはその新日本とUWFがやりあってるのとは別の方向で、独自に酔っ払ってました。吐いて便器を詰まらせて、日本刀持って「猪木出てこい!」って言ってたんですよね。でも自分はもう坂口さんを止めるので手一杯で……。

 

UWFと藤原組で食生活が大きく変化

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──そして船木選手はUWFに移籍しますが、そこでもごはんはちゃんこでした?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:昼はちゃんこです。たぶん新日本のちゃんこを見様見真似で作ってたんだと思うんですよね。前田さんや高田さんが「こうやって作れよ」って教えたのをそのまま作ってたんじゃないかな。

 

──前に鈴木選手にインタビューした時は「新日本プロレスからUWFに移って肉が減りました」っておっしゃってました。

 

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f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:ああ~、それはありましたね! 新日本は毎日いい肉が肉屋から届けられるんですよ。使い放題、食べ放題って感じで、それも2、3枚ガバーッと掴んで焼いて食う。それに比べてUWFの肉はその辺のスーパーの肉って感じで。やっぱり会社の収入の差はありましたね。新日時代ももったいない食べ方してたなと今は思いますけど。

 

──夜もちゃんこですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:自分はUWFの事務所の近くに部屋を借りてもらってて、高田さんが居酒屋を開いたんで夜はそこに毎日行ってました。1,000円で定食を日替わりで作ってもらってたんでそれを食べてました。

 

──UWF時代は体も意識的に鍛えていったんですか?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:一回骨折をして、半年くらい休んだときにすごい太ったんですよ。それで締めようと思って、ごはんを抜いてちゃんこだけ食べるようにしたんです。その頃はまだ食生活について研究とかはしてなかったんですけど、ごはんだけ抜けば大丈夫だろうって思って、そしたら本当に減ってきたんです。

 

──今思えば、パンクラス以降の肉体改造の手がかりだったのかもしれないですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:ただ、一度締めたんですけど、次の藤原組で太っちゃいましたね。藤原組は選手が少なくてちゃんこ番がいなかったので、出前を取ってたんですよ。お金はあったんで。

 

──メインスポンサーがメガネスーパーですからね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:朝、プロテインを飲んで、道場に行って練習が終わると中華屋か弁当屋で注文する。太りたくないなと思っても、レバニラ炒めと味噌ラーメンを毎日食べてたら、体作りにはよくなかったですね。お金に余裕があると、ステーキとか脂っこいものを食べちゃうんですよね。だから気づいたら太ってて。その時は「22歳だし、年取ると太ってくるものなのかな」って思って片付けようとしてましたけどね。

 

──藤原組長やカール・ゴッチさんはあんまり食生活にはこだわらない人だったんですかね?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:「本当はちゃんこを作ったほうがいいんだけど、人もいないしお金もあるから出前でいいか」って感じでしたね。ゴッチさんもあまりうるさくはなかったですね。「フナキと同じもの食べるんだ!」ってラーメンを一緒に食べてました。ひとり2、3人前は食べてたから、毎日すごい量の出前をとってたんですよね。お店はずいぶん儲かったと思いますよ。

 

ベストセラーになった『ハイブリッド肉体改造法』

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──そして1993年、船木選手らによるパンクラス旗揚げとなるわけですが、パンクラスの選手といえばギリギリまで引き締まった通称・ハイブリッドボディで知られています。船木さんの書いた『ハイブリッド肉体改造法』は当時のレスラー志望者のバイブルとなりました。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:パンクラスではそれまでのプロレスとはスタイルを変えよう、他と同じことをやってたら無理だと思ったんですね。ついにやるぞ、と。そうなると技を受ける必要はないと思ったんです。脂肪はいらない。それに一番近い体型だったのがシャムロック(ケン・シャムロック)だったんですね。

 

──パンクラスと並行してUFCでも活躍した総合格闘技黎明期のレジェンドですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:シャムロックと契約しに行って2泊したんですけど、体が綺麗で力もある。「何を食べてるの?」って聞いたら、パパパッとメモしてくれて、それと同じ食事を日本に帰ってからも続けたんですね。そしたら脂肪がどんどん取れていって、これはいいことを聞いたなと。

 

──それがハイブリッド肉体改造法のルーツ。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でも最初はまわりに言うつもりはなかったんですよ。自分だけのものにしようと思ったんですけど、高橋義生が「船木さんの体、なんなんすかそれ」って聞いてきて、「自分もやりたいです」って言ってくるからその食事法を教えたら、彼もどんどん変わってきて。二人いるってことは、パンクラスの選手の体全員こうしたら面白くなるなと思ったんです。それで若手には強制でこれしか食べるな、って味なしのちゃんことか食べさせて。

 

──鶏ささみに卵の白身、味なしパスタ、ノンオイルのツナ缶といったメニューはハイブリッドボディの代名詞になりました。真似したレスラー志望者も多いはず。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:今のライザップなんかがやっていることに通じると思います。全地球人に当てはまる肉体改造法ですよね。アスリートは皆やってますよ。

 

──全員あのメニューで肉体改造したから、旗揚げ戦で揃った時のインパクトは凄かったです。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:練習生には1万キロカロリー近く食べさせてトレーニングさせてましたね。食べるのが遅いやつはちゃんこをミキサーにかけて飲ませたり、いろいろやりました。それで皆旗揚げ戦に向けて引き締まった体になったんですけど、鈴木だけが「俺は嫌だ」って言ってやらなかったんですよ。

 

──それも鈴木選手らしい(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:「それはそれで仕方ないかな、ひとりくらい太ったやつがいてもいいか」って放っといてたんですけど、最後の1カ月で「やっぱり自分もやります」って言って。ただ、最後にやったもんだからメニューを間違えて教えちゃったんですよ。

 

──うっかりミスで!

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:本当は1カ月半で仕上げるメニューを1カ月でやらせちゃったんで、人より多くやって一番絞れちゃったんです。

 

──実際、鈴木選手の体も衝撃でしたが、そんな理由があったとは。しかも本にしたことでレスラー志望者や格闘家に広く伝わりました。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:本当はパンクラス独自の秘密にしておきたかったんですけど、週プロ(週刊プロレス)の記者が毎日来るじゃないですか。それで「これ本にしましょうよ」って言ってきて、「イヤですよ、自分たちのオリジナルだし書く時間ないですよ」ってずっと断ってたんです。ただ「1日2時間くらい喋るだけで、あとは写真撮らせてもらえればあとは原稿こっちで書きますから!」って言われたんで、社長に相談したら「印税きたら会社はすごく嬉しい」と。その頃は団体もお金なかったんで、ちょっとでもお金になればいいなと思って、それでシブシブやったんです。

 

──シブシブだったんですね(笑)。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でもそれでよかったですね。結局シリーズになったんですけど、最初の1巻が14万部って言ってたかな。そのお金で余裕ができて、会場を早く押さえられたりできるようになったんですよね。いろんなレスラーから「当時読みました」って言われますし、今思えば出しておいてよかったですね。

 

コロナのステイホーム期間は500キロカロリー落として生活

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f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:パンクラスで食事に関してはかなり勉強しましたね。一度引退して普通の生活に戻ってからも、その辺はずっと平行してやってます。

 

──プロレスをやってない時期も、調整したうえでの食事は続けてたんですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:ただ、同じものを食べていると飽きるんですよ。それで研究していって、カロリーと成分のバランスで体が決まるってのを2005年に発見したんです。タンパク質・炭水化物・脂肪といった成分の割合を考えればいろんなものを食べられるんです。

 

──今YouTubeで食生活についても発信されてますよね。朝昼は納豆にノンフライラーメンや、玄米・卵焼き・明太子のお弁当だったり。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:でもその分、夜は好きなもの食べるんですよ。たとえば「明日、寿司食べたいな」って思った時は食べたい分のカロリーと成分を全部出して何個までだったら食べられるって工夫してます。

 

──コロナによる自粛期間中は、食べるカロリーも落としてるんですよね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木: はい、基本は一日3000キロカロリーなんですけど、今は2500キロカロリーで。家にいたらトイレに行くくらいしか歩かないじゃないですか。あとはもう座ってるくらいで、極端に消費カロリーが減ります。動かなくなると500キロカロリーくらいは落とさないと、余分になっちゃうんで。「コロナ太り」ってのはそういうことですね。

 

──やはりそういう調整は大事なんですね。おすすめのメニューというと?

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:人それぞれの好みでいいんですけど、コンビニで買うときは脂肪の少ないサンドイッチや脂肪の少ないおにぎり、それにタンパク質として鶏のスティックとか売ってるんで、そのあたりですね。
あとは自分自身がカレーみたいな刺激的なものが好きなんですけど、カレーにも脂肪の少ないものがあるんですよ。レトルトで脂肪10グラムくらいのカレーがあるんで、それにパスタを和えて食べるのもおすすめです。

 

激戦の後は3日間40度の熱が出てスポーツドリンクしか飲めなかった

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──パンクラスを引退されて、全日本プロレスで復帰した時は食生活も調整したんでしょうか。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:パンクラスの体だと、長い時間、戦っていられないですね。2010年に復帰した時、タッグマッチやったんですけど試合が20分越えたんです。15分経過くらいから意識が朦朧としてきて……糖分が足りなくなってきたんですね。
すっごい疲れてきて、でもまわりの武藤さん・蝶野さん・鈴木の3人は普通に試合してるんです。すげえなって思って、それから少し脂肪つけるようになって、3年後には30分試合出来るようになりました。

 

──プロレスでは、やはり脂肪もある程度必要。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:やはりプロレスみたいに自分から技をかけるだけでなく、技を受けたりして20分、30分とやる競技には脂肪も重要です。途中で水も飲めないですから。マラソンだったら体重は軽ければいいけど、プロレスは技を受けなきゃいけない。そうなると体重もなくてはいけないですから。

 

──やはりパンクラスの体ではダメージも大きい。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:今までの試合で一番ダメージがキツかったのが、東京ベイNKホールでやったバス・ルッテン戦なんです。

 

──あの名言「明日からまた生きるぞ!」が出た試合ですね。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:終わって3日間、40度の熱が出て、スポーツドリンクしか飲めなかったです。あとは頭痛薬を飲んで、トイレと寝床の往復でしたね。

 

──それだけの壮絶な試合でしたからね……。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:今は食生活においては達人になりました。体を絞る時は脂肪や炭水化物をチェックするクセをつけなきゃいけなくて、それが面倒くさいんですけど、だんだんわかってきて、今はお店に入ってみて、例えばラーメンを見るとだいたいのカロリーがわかっちゃうんです。「肉がこれだけ入ってて、麺がこれだけ、だったらつゆ飲まなければ何キロカロリーくらいだな」って。

 

──ちなみに船木選手にとって試合後はごほうび的なごはんってあるんですか? それこそ昨日はNOAHの日本武道館大会でしたけども。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:美味しいものを食べたいなと思うんですけど、それがコロナ渦のせいで試合が終わってからだとどこも開いてないじゃないですか。昨日はコンビニで買ったカニカマボコとコールスローサラダだけ食べて寝ました。だから今日は帰ってゆっくり美味しいものを食べようかと思ってます。

 

──このご時世とはいえ、試合後コンビニめしだけなのは寂しすぎますからね……。

 

f:id:Meshi2_IB:20210424094116p:plain船木:最近はお店に行けないのもあってUber Eatsにハマって、寿司とか中華、イタリアンにタイ・韓国料理とか、いろんな料理を注文してたんですけどね。それも最近ちょっと飽きてきちゃって……自分でちゃんこを復活するしかないかな! 食生活って、そうやってグルグル回るとこありますよね。

 

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写真提供:@闘宝伝承Y1968

 

現在のプロレス界のエース級の選手というと、いわゆる「アンコ型」は少数派、引き締まったマッチョボディが多くを占めます。それは船木選手がもたらした「ハイブリッドボディの衝撃」からの影響は計り知れません。

 

そして今も自分の体で実験を重ねながら「ハイブリッド肉体改造」を続けていた船木選手。その研究はどこまで極められるのか? 船木選手にしか出来ないレスラーのあり方は今後も注目です。

 

書いた人:大坪ケムタ

大坪ケムタ

アイドル・グルメ・芸能etcよろず請け負うフリーライター。メシ通での好評連載『レスラーめし』(ワニブックス・刊)が書籍版のみの追加エピソード、小林邦昭☓獣神サンダー・ライガー対談も特別掲載して絶賛発売中!

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