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川上洋平の音楽魂──ロックしているから"ブレまくる"

「ワタリドリ」の爆発的ヒットにより、日本中にその名前が知れ渡ったロックバンド[Alexandros]。デビュー10周年を迎えるバンドのヴォーカルで作詞・作曲を担当する川上洋平の音楽魂を掘り起こす。

“世界中のあらゆる音楽の刺激、影響を取り入れて、自由に創作し続けたい。自分を限定したくないから”

ジャケット ¥293,000、ジャージー ¥62,000、ベスト ¥97,000、パンツ ¥97,000〈すべてDOLCE&GABBANA/ドルチェ&ガッバーナ ジャパン〉

遅咲きのバンドといわれる。デビューに漕ぎつけたのが28歳。クオリティが高く、クールで洗練されたロック・サウンドを武器に快進撃を続け、2015年にリリースした「ワタリドリ」のヒットで広く認知されるまでになった。

「ようやくいい感じになってきたかな(笑)。でもこのほうが自分たちには合っていた。あの低迷していた時期があってこそ、だったと思うんです」

10代の初めに音楽に恋した、その思いを「ずっと貫いてきた」年月だった。コロナ禍にまみれた今年。ライヴが中止となった自粛中も、詞と曲を書き続けた。

「何もできない、力及ばずの状況で、まったくヘタらなかったといったら嘘になるけど……孤独というならいつも孤独なので。でも俺はもともとラテン系の性格ではあるので、深刻にはなりませんでしたね。いちばん困ったのはご飯かな(笑)。近所の定食屋さんが閉まってしまって」

とはいえ、作品には少なからず変化があった。新曲のラヴソング『rooftop』では、これまで以上に柔らかい、美しさを湛えたバラードを生み出し、せつなさが溢れ出る。

「人と接することのできなくなったこの時期、音楽にできることは何かと考えて、ラヴソングだなと。オンラインでしか気持ちを交わせない恋愛を描いているけれど、そこには早くオーディエンスと逢いたいという意味も込められているんです」

にわかに規制の緩んだ8月、バンドとしてはいち早く有観客ライヴを行った。

「自分らが真っ先に扉を破ってやるぜっていうことではなくて、動きが出てきた時期、チャンスがあるなら、元に戻っていける隙間があるのなら、と考えたんです。コロナ後の変化がいろいろ言われるけど、俺は絶対に以前と同じ状況になると信じてる。人数制限はいたしかたなかったけれど、ただただ皆と逢えて歌えてうれしかった」

ニット ¥193,000(参考価格)、パンツ ¥165,000〈ともにGIORGIO ARMANI/ジョルジオ アルマーニ ジャパン〉 

自分が歌っている映像が浮かんだ

川上は、9歳から13歳にかけて「商社マンだった父親」の仕事の関係で、中東の国に住むという経験をしている。後年、ミュージシャンになる素地はこの地で出来上がった。

「10歳以上離れた兄からUSロック、姉からはJ-POPの影響を受けていたのですが、(音楽を聴くといっても)国営放送ぐらいしかなくて、何も楽しませてくれるものがなかったんです。自分で楽しみを創るしかなくて、頭の中で自分がバラードを歌っているミュージックビデオを創った、それが初めての創作体験。まず映像(ビジュアライズ)ありきでした」

アメリカンスクールの5年生になった時「選択科目でクラシック・ギターの教室が始まって、これだ! とのめりこんだ」という。暮らし始めた頃には、さまざまな国々の子供たちが集まる環境に投げ込まれて言葉も通じず、「いじめにもあった」が、「負けん気が強いから立ち向かった」そうだ。

この体験は『Mosquito Bite』(2018)という曲に生かされている。四半世紀も経っての作品化。英語の詞に『ガキのころ醤油くさいといわれた』とある。レコーディングした場所は、人種のるつぼともいわれるニューヨーク。ちなみにタイトルの意味するところは、"せいぜい蚊に刺されたぐらいのもんだ"で、川上のしたたかなスピリットを見る気がする。

「中東に住んで知ったことはたくさんあります。信号待ちをしている車に子供たちが駆け寄ってきて窓拭きを始めて、お金を欲しいと。貧富の差とか世界の現実や不条理といったものを早くに知ることができたのはよかったかもしれません」

帰国後。「高校生の頃には、プロとしてデビューする! と確信していました。俺はサラリーマンにはまず向かないだろうし、頭もよくないし、スポーツに秀でているわけではないし、イケメンでもないし、服は好きだけどという程度。得意とする分野は、自分が好きなことを創り出す仕事だなと」。

だが、高校時代にバンドは組まなかった。「今バンドを組んでも、進路問題があるので将来バラけるだろう」と踏んだ。思考が刹那的でない。戦略的だ。正式にバンドを組んだのは大学入学後である。初日からメンバー探しに奔走した。

「2年間、留年しまして、卒業後は、とりあえず収入の安定を考えて、営業職を3年やったのですけどやはり辛かった。車のハンドルを握っている時でもリズムを刻んだりして、先輩に注意されるという……。結果、俺には音楽しかないと、退職しました」

シャツ ¥61,000〈GIORGIO ARMANI/ジョルジオ アルマーニ ジャパン〉

代々木公園の日々

デビューを目指し「テレアポのバイトをしながら」メンバーと代々木公園で路上ライヴを始める。「ひとりでも多く、ライヴハウスに足を運んでもらうために」。この時期、100本近いデモテープを関係各所に送ったが、反応はなかった。

「俺らみたいなピュアなバンドマンに対しての嫌な態度に、ムカつくこともありましたけど(笑)、焦りはなかったですね。ただ、(大学に入った年の2001年に)結成してから10年近く経って、よいものを創っている自負があるのに見出されない。何が悪いのか真剣に考える時が来ていると思いました。気づいたのは、『Oasis』的なものを創り過ぎているということでした」

子供の頃からシャワーのごとく浴び続けたUKロック。とりわけOasisは、川上にとって「好きすぎる」バンドだった。

「一度、離れて自分らのちゃんとしたものを創る、そして食らいつくように真剣勝負しなければダメだ」と、メンバー間で「冷静に、理論的に」話し合った。

「演奏する姿をビデオに撮ったり、このバンドに本当にチケット代を払いたいだろうかと考えながら全部見直しました」

やがて完成した作品を送ると、すぐさまデビューへとつながった。ファースト・アルバムが出たのは2010年1月のことだった。

「気づくのが遅かったんです。遅いよなぁ(笑)。でも試行錯誤を繰り返したあの10年ほどの期間があったからこそ、自分たちを客観的に見られた。今につながったのかなと思いますね」

地下茎から芽が吹き出た瞬間だったのだろう。以降、ジャンルに捉われない、グローバルな楽曲を創り出すバンドとしてキャリアを重ねる。海外生活の経験を生かし、日々の光景や心情を綴る英詞が、違和感なくメロディに乗ることも彼の強みだ。制作で大切にしている基軸が3つあると言った。

「ひとつは、ご縁があってCMでのタイアップなど、依頼をいただいての曲創り、ふたつめは、何の決め事もないところでの、自分の中から出てくる曲創り、そして3つめの軸は、そのふたつがいい感じで混ざるものですね」

川上には、誰よりも柔軟で自由度が高いという、魅力がある。

「人って、基本、変わらないものだと思っています。たとえば俺がどれだけカニエ・ウェストのようなことをやろうと思ってもできない。絶対に川上洋平なんです。だからこそいつだってその殻を破りたくて、世界中のあらゆる音楽の刺激、影響を受けていたい。自分を限定したくないんです。

今、思いついたこと、好きなこと、流行っていることはすぐやりたい性分。何かトリッキーで面白いことをやって、驚かせたいと常に思っているんです。きっと、いい意味で、ブレまくっているんだと思う。でも、それって軟派なようですけど、すごく素直でもあるな、と俺は思っています。(ブレるのを)恐れず創っていきたい」

あえて「ブレまくっている」と言ってのけることができるのも、自身の熱いクリエイティビティに、うたがいを容れない矜持を持っているからだろう。

描く未来図は世界一のバンドだと伝え聞く。尋ねると、フフッという感じの笑みを見せて、こともなげにこう答えた。

「めざすも何も。俺たち最初から世界で一番、カッコイイと思っていますから」

ジャケット ¥330,000、シャツ ¥120,000〈ともにSaint Laurent by Anthony Vaccarello/サンローラン クライアントサービス〉

川上洋平

ミュージシャン

神奈川県出身。[Alexandros]のほぼ全曲の作詞・作曲を担当するVo&Gt。国内のロックフェスティバルに数多く出演しヘッドライナーを務めるほか、TVドラマやCM、映画など多岐にわたる楽曲提供を行い幅広い層に支持されている。今年はデビュー10周年を迎え、11月11日にニューシングル「Beast」が発売。

Photos 久富裕史 Hiroshi Kutomi@No.2 Styling 倉田 強 Tsuyoshi Kurata  

Hair&Make-up 坂手マキ Maki Sakate  Words 水田静子 Shizuko Mizuta  

Special Thanks to ALOFT TOKYO GINZA